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ゼロベースから「服部足祭り」を企画開催!世界を代表するアドベンチャーランナーが神主になった意味

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
昨年秋に神主の資格を得た北田雄夫氏(右)と彼をその道に導いた加藤大志氏

【日本から世界を代表するアドベンチャーランナーに】

 これまで各メディアで度々紹介されている、日本を代表するアドベンチャーランナーである北田雄夫氏をご存じの方も多いことだろう。

 すでに日本人として「世界7大陸アドベンチャーマラソンを初走破」したランナーとして認知されているが、さらに今年4月6日~6月12日の約2ヶ月で、「ヒマラヤ1700kmレース」の初走破を果たしているのだ。

 この結果北田氏は、「サハラ1200kmレース」、「アラスカ1600kmレース」と合わせ、世界で初めて3極地の1000kmレースを走破したランナーとなっている。今や彼の存在は、日本を飛び越え世界を代表するアドベンチャーランナーといっていいだろう。

【昨年秋に神職の資格を取得した北田氏】

 そんな北田氏について2021年1月本欄で、彼が新たな試みとしてリアル飛脚便というユニークな活動を開始したことを紹介させてもらったことがある。

 その後も北田氏はさらに活動範囲を拡大していき、昨年秋に神職の資格を取得。大阪府豊中市にある「足の神様」として知られる服部天神宮に所属する神主になっているのだ。

 当然ながらアドベンチャーランナーと神職に、直接的な関連性はまったくない。だが北田氏に話を聞かせてもらうと、彼はなるべくして神主という新たな道に進んでいるのだ。

 そのきっかけになったのが、2021年春のことだった。

【服部天神宮で運命的な出会いを果たす】

 北田氏はトレーニングの一環として、大阪から丹波篠山まで走ろうとしていた。その途中で、以前からその存在を知っていた服部天神宮にちょっとお参りしていこうという流れになった。

 アドベンチャーランナーという立場から足の神様を祀る神社に興味を持っていたのはごく自然な流れだったし、北田氏としてもほんの気軽な参拝のつもりだった。

 だが境内では、運命的な出会いが待ち受けていた。それまで太宰府天満宮に従事した後、2021年4月から実家の服部天神宮に戻り禰宜として働き始めていた加藤大志氏との邂逅だった。

 服部天神宮に戻ってからの加藤氏は、自分の神社に多くのランナーが参拝に来ていることを知り、ランナーの気持ちを確認したいという考えから、事あるごとに参拝に来たランナーから話を聞く機会をつくっていた。

 そこにSNS等でその存在を知っていた北田氏らしき人物が境内に現れたので、加藤氏から何気に声をかけたことで、2人の縁が繋がることとなった。

【出会いから数ヶ月後には2人でイベントを企画運営】

 初対面にもかかわらず、2人の出会いは簡単な挨拶だけで済まなかった。

 加藤氏は北田氏からアドベンチャーランナーとしての考え、気持ちを聞くだけでなく、服部天神宮を含めた今後の神社の未来像、将来像を説明していく中で、「今後ランナーに向け、何かやっていきたい」という夢を語ったという。

 ランナーとして興味深い内容に、北田氏もあっという間に加藤氏に共感。「そういう考えながら自分も何か手伝えないか」と、初対面ですっかり意気投合してしまった。

 そして2人は意気投合しただけなく、すぐに行動に移している。初対面から数ヶ月後には、北田氏の知り合いのランナーなど約20名を集め、服部天神宮で健脚祈願のイベントを企画運営することに成功している。

 このイベントは神社閉門後の午後6時から参加者のみを対象に実施されたため特別感がかなり高く、参加者から次々に好評が届くほどの成功を収めている。

【2022年にはゼロベースから「服部足祭り」を開催】

 ここから2人の活動は、さらに積極性を増していった。

 服部天神宮を中心に夜のランニングを楽しむランナーのコミュニティを拡大していく一方で、ゼロベースから服部天神宮で足に関する新しいお祭りを作り上げようと取り組み始めた。2021年冬のことだった。

 神社が新たなお祭りを作るというのは何一つ問題がないことだが、現在ではかなりレアケースだという。加藤氏は以下のように説明する。

 「歴史あるお祭りも元を正せば誰かが作ったものなので、新しく作ってもまったく問題ないことです。

 ただ現代において新しいかたちでお祭りを作り出すというのはかなり珍しいことですし、それを神社発信で進めていくというのも珍しいことだと思います」

 すべてがゼロベースからのスタートで、しかも立ち上げメンバーは2人だけとあって、最初は苦労の連続だった。

 ところが、2人に新たな縁が待ち受けていた。毎年新年に服部天神宮の水を使って交通安全祈願を行っていた株式会社ジェイエア(J-AIR)の社長が、新型コロナウィルスの影響で服部天神宮の水を閉鎖していたことで神社に連絡をくれたという。

 これを機に新たなお祭りを聞きつけた同社社長が、「日本の伝統文化を世界に発信したい」という加藤氏の思いに共感してくれ、同社の全面サポートを受けられるようになり、大きな分岐点を迎えている。

 その後も服部天神宮の最寄り駅がある阪急電鉄らの協力を得られ、2022年9月に初の「服部足祭り」(この年はプレ版)の実施にこぎ着け、1日で5000人の参拝者が集結。

 そして翌2023年9月正式に第1回目を実施し、2日間で1万800人の参拝者を集めていること成功している。

 ちなみに服部天神宮では数々のお祭りを開催しているが、すでに服部足祭りは、最も参拝者を集める「豊中えびす祭」に次ぐ規模のお祭りになっている。

【足祭り開催を機に神職の道へ進む決心】

 2022年のプレ版から実行委員長を務めているのが北田氏なのだが、同職を務める上で彼の中で1つの葛藤があったという。そこで北田氏が考えたのが、神主になるという選択肢だった。

 「神社とはまったく関係のない自分が実行委員長をさせてもらっていること自体があり得ないことです。また個人的に神社を含めて日本の伝統文化に興味があり、深く知りたいと考えていましたし、それを世界に発信していきたいという思いもありました。

 加藤さんから神社の世界の将来、可能性について話を聞かせてもらう中で、自分もその中に身を置きたいと思うようになりました」

 北田氏から神主になりたいという打診を受けた加藤氏も、彼の考えにまったく違和感を抱くことはなかった。

 「北田さんであればまったく問題ないと思いましたし、むしろ北田さんのような存在こそが本来の神職だったのではないかという気持ちもありました。

 神職は神々と色々なところで繋がっているという感覚が大切で、その1つが自然だと思います。北田さんのように過酷な自然の中を走り、何かを感じるというという行為そのものが祈りに繋がっているのではないでしょうか」

 そして北田氏は、加藤氏の紹介を通じて2023年夏に兵庫県神社庁が開催する神職講習会に参加。そこで1ヶ月間座学及び実技を学び、講習会終了後数ヶ月後に正式に服部天神宮所属の神主となった。これを機に加藤氏から「福飛脚」という役職をもらっている。

【将来的に服部天神宮を中心に「足の街」創設を】

 第2回服部足祭りは10月5、6日に開催される予定で、今回も実行委員長を務める北田氏は、初めて服部天神宮所属の神主として参加することになる。

 「神主になり、より祈りができる立場になったのかなと…。また日本の伝統文化を発信する立場にもなったと感じています。

 これまでは走ることで皆さんと繋がってきましたが、今後は足祭りなどを通じて人々に年に1回でも足の健康を気にかけ、それを祈れる機会ができるような文化が創れればと思います。

 かなり漠然的なことですし、すごく難しさがあると思いますが、それと同時に魅力と可能性を感じています」

 加藤氏も大きな夢を抱き続けている。

 「北田さんにも話をしているのですが、将来的には服部天神宮を中心に、『足の街』をつくっていけないかと考えています」

 2人の活動はまだまだ始まったばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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