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安倍首相の真珠湾訪問を中国が非難――「南京が先だろう!」

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
安倍首相がハワイ訪問 真珠湾で演説(写真:ロイター/アフロ)

安倍首相の真珠湾訪問に対して、中国政府は「先に訪問すべき場所があるだろう」と非難した。その「場所」はなぜ、毛沢東他界後に建立されたのか、なぜ中国は時間をさかのぼって抗日戦争を強調するようになったのか。

◆非難攻撃する中国政府

安倍首相は日本時間28日午前、ハワイにあるアリゾナ記念館を慰霊訪問した。1941年12月8日(現地時間7日)、日本海軍の機動部隊による真珠湾奇襲攻撃は太平洋戦争の発端となったが、その犠牲者を弔う記念館だ。

ハワイに向かう前、安倍首相は「真珠湾攻撃から75年目、日本国民を代表して慰霊のために真珠湾を訪問する。戦争の惨禍は二度と繰り返してはならないという未来への誓い、和解の価値をオバマ大統領と世界に発信したい」と述べた。

これに対して中国政府は「日本は真珠湾訪問によって第二次世界大戦の歴史を完全に清算しようとしているが、中国などアジア諸国との和解がない限り、日本は永遠に歴史の一頁をめくることはできない」として、さまざまな非難を日本に浴びせている。

たとえば、

●真珠湾より先に行くべきは「南京大虐殺記念館」だろう!

●世界反ファシスト戦争の東方の主戦場は中国だ!

●日本の指導者はいつまでも歴史の真相から目をすらすべきではない。あの侵略戦争に対し真剣に反省しなければならない!

これらの言葉は12月5日に、安倍首相が真珠湾訪問を発表してから一斉に始まっており、特に2016年12月13日に南京で開催された記念式典においても語られた。式典で演説した中共中央政治局委員で中央組織部部長でもある趙楽際氏は、つぎのような趣旨のことを述べている。

●中国共産党の指導の下で全民族が力を合わせて3500万人の犠牲を出しながら、8年間抗日戦争を戦った結果、偉大なる勝利を収めた。

●侵略戦争を覆そうとする醜悪な行動のために歴史を改ざんしようとする如何なるもくろみも、中国人民と世界の平和と正義を愛する人々から糾弾され、軽蔑されるだろう。

◆歴史を改ざんしているのは中国共産党

さて、中国政府が言うところの「真珠湾訪問よりも先に訪問すべき場所」とは、中国流に言うならば「南京大虐殺記念館」であり、「北京盧溝橋抗日戦争記念館」あるいは「“九一八”歴史博物館」などである(“九一八”は1931年9月18日の「満州事変」のことを指す)。

ただ、これらは中国共産党政権である中華人民共和国(現在の中国)が誕生した1949年以降、1980年代まで、ほとんど言及されたことがなく、すべて建国から30年~50年後になって初めて建立されたものばかりである。

たとえば「南京大虐殺記念館」は1985年に建立されており、「北京盧溝橋抗日戦争記念館」は1987年に、そして「“九一八”歴史博物館」に至っては、建てられたのが1999年のことだ。

なぜこんなに遅くなってからなのか?

その理由は非常に簡単。

建国の父・毛沢東が、それらの日を記念することを許さなかったからである。

中国共産党の権威ある「中共中央文献研究室」編集による『毛沢東年譜』(1993年、全9巻)によれば、毛沢東は生きている間、ただの一度も抗日戦争勝利記念日を祝ったことがないし、またただの一度も「南京大虐殺」という言葉を使ったことがない。教科書にも書かせなかった。中国人の証言によれば、文化大革命のときなど、「南京大虐殺」を口にしただけで右派、反革命分子として吊し上げられた経験を持つ人さえいたという。

だから毛沢東が他界した(1976年)後になって、初めてこれらを口にすることが許されるようになった。

なぜか?

それは日中戦争中、毛沢東が日本軍と共謀していたからだ。

潘漢年(はん・かんねん)という中共スパイを日本側に派遣して、国共合作によって得られた蒋介石・国民党側の軍事情報を高値で日本側に売り渡し、その間に中共軍の拡大を図っていた。できるだけ日本軍と戦わず、やがて日中戦争が終わった後に国民党軍をやっつけて、中共軍を率いる毛沢東が勝利を収めることを狙っていたのだ。日本軍と中国共産党軍との間の部分停戦さえ、申し出ている。実際に部分的停戦が行われた地域があり、中国共産党軍はそのお蔭で急速に拡大していった。

その間に、日本が戦っていた「中華民国」の蒋介石・国民党軍は、日本との戦いで消耗していった。

だから、日本軍による中国への進攻を毛沢東は感謝し、建国後、元日本軍等を北京に招聘し、「あなた方、皇軍の進攻がなかったら、私はいまこうして中南海にいることはできません」という趣旨のことを何度も言っている(詳細は『毛沢東 日本軍と共謀した男』)。

その中国が突然、日本の「侵略行為」を激しく攻撃し始めたのは、1989年6月4日に民主化を求める天安門事件が起き、民主を叫ぶ若者たちを武力で鎮圧した後からだ。特に1991年12月に、世界最大の共産主義国家であった(旧)ソ連が崩壊すると、中国は自国も巻き添えになって一党支配体制が崩壊することを警戒し、1994年から愛国主義教育を始めるようになったからなのである。

この愛国主義教育により、「日本軍を打倒したのは中国共産党軍である」という歴史捏造を開始した。

そして「中華人民共和国は、日本軍を打倒したことによって誕生した」という、もう一つの歴史捏造も始めるようになった。

日本の敗戦は1945年8月15日。

中華人民共和国が誕生したのは1949年10月1日。

「1949-1945=4」という「4年間」はデリートされてしまったようだ。

毛沢東・中国共産党軍は、この4年間の間に、蒋介石・国民党軍を打倒して中華人民共和国を誕生させたというのに、中国共産党軍が勇猛果敢に日本軍を打倒して中華人民共和国が誕生したという「抗日神話」を創りあげるようになったのである。

特に習近平政権になってからの反日政策への強化は凄まじい。

「南京大虐殺」記念日などを次から次へと国家記念日に昇格させただけでなく、昨年は建国後初めて、国慶節(10月1日の建国記念日)にではなく、抗日戦争勝利記念日(9月3日)に軍事パレードを行ったことは、まだ記憶に新しい。抗日ドラマを毎日放映するなど、まるでたった今、日本軍を打倒した(抗日戦争が終わった)ばかりのような勢いである。中国共産党がいかに勇猛果敢に日本軍と戦ったかを強調するようになる。

それはなぜなのか?

ひとつは、中共幹部の腐敗や貧富の格差により危なくなった中国共産党による一党支配体制を維持するためであり、もう一つはグローバル化やITの進歩により、海外のネット情報が中国大陸にも容易に入り込むようになったからである。

中国共産党にとって不都合な党の歴史の真実が、世界のいくつかの国の研究者によって明らかにされ、それを海外にいる華人華僑たちが知るようになった。その情報を、大陸にいるネットユーザーも「壁越え(情報を遮断するGreat Fire Wall、万里の防火壁を特殊技術で越えること)」によって見ることができるようになっている。

そのため習近平政権は、異常なほど言論弾圧を強化している。

2013年に出された「七不講(チーブージャーン)」(7つの言ってはならないこと)の中には、「中国共産党の歴史の過ちに関して語ってはならないし、教育機関で教えてもならない」という趣旨の項目がある。

要するに、彼らが70年にわたって隠蔽してきた「中国共産党の歴史の真相」が明るみに出るのを恐れているのである。

もちろん、日本は二度と再び、あのような戦争を繰り返してはならない。

その大前提に立った上で言うが、歴史の真相を歪曲しているのは中国共産党自身であることを、中国は認めるべきだろう。

日中戦争による犠牲者数を中国はどんどん増やしていき、江沢民(元国家主席)が言った数値「3500万人」が固定されてしまっている。

ここでその数値の論議をする気はないが、毛沢東が建国後殺戮した無辜の自国民の数は、それを遥かに超えた数千万人(7000万人という数値が共有されている)の命に関しては、中国はなぜ、絶対に言及しないのだろうか?

中国のこの偏った言論弾圧と反日プロパガンダの中で、日米間のような信頼で結ばれた国同士における「広島訪問」と「真珠湾訪問」のような現象は起きにくい。

日本を攻撃する前に、中国はまず「自らの歴史の真相を直視」しなければならないのではないだろうか?

日中国交正常化時代から1990年代初期にわたって日本が中国に差し伸べてきた友好の手を断ち切って、反日一色に邁進してきたのは、中国である。それは「中国共産党の歴史の真相」から人民の眼を逸らさせるためであり、一党支配維持を堅持するためであることを、認めなければならない。

その真実を中国が認めた日に初めて、日米間のような「かつての敵同士の和解」が成り立つのではないだろうか。

中国が自らの歴史の真実を直視する方が先ではないかと思う。その前提でしか、真の信頼関係は訪れない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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