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日本シリーズ第2戦のTV解説に抱いた違和感

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
現在のMLBではビデオ判定がファンを盛り上げる大事な要素になった(写真:USA TODAY Sports/アフロ)

動画サイトの普及により、現在では米国にいながら日本のプロ野球の試合動画が視聴できるようになった。そのお陰でこの週末も日本シリーズのハイライト動画を視聴していたのだが、第2戦のTV解説にちょっとした違和感を抱かずにいられなかった。

6回に起こった本塁クロスプレーの場面だ。緒方監督がビデオ判定を要求し、その判定を待つ間、解説を担当した3人のベテラン解説者のいずれもがビデオ判定に懐疑的な発言をしたことに対してだ。そのうちの1人の解説者は「これがセーフになるようなら野球の醍醐味がなくなる」とも述べていた。本当にそうなのだろうか?

MLBではNPBより先にビデオ判定が導入されている。今ではチャレンジ制度が確立し、ビデオ判定をどう利用するかが戦術の一部になり、ファンもビデオ判定に一喜一憂するほど浸透している。結局あの場面も判定が覆ったことで試合の流れは一気に広島に傾いたことを考えれば、米国なら緒方監督の判断はファインプレーとして賞賛されていることだろう。

しかも現在のように放送技術が発展している中、昔のように審判の判定にファジーな要素はほとんどなく、リプレー映像によってほぼ白か黒かを明白にしてしまう時代だ。もし今回の場面でビデオ判定がなされず、TV中継で何度もクロスプレーの場面が繰り返し放送されたとしたら、判定を下した審判はずっと“誤審審判”の十字架を背負うことになる。ある意味ビデオ判定は審判のプレッシャーを軽減する効果があると言ってもいい。

MLBが2008年にビデオ判定を導入した当初は本塁打の判定に限定したものだったが、結局疑惑の判定を明確にできチーム、ファンもより納得できる判定を得ることができるようになり、2014年から導入枠が広がり現在のチャレンジ制度への発展していった。むしろMLB関係者からビデオ判定に懐疑的な意見は少なかったように記憶しているのだが…。

それとビデオ判定を魅力あるものにするためにも、日本でも球場内でファンがチェックできるようにリプレー映像を流すべきだ。MLBではビデオ判定中にオーロラビジョンでTV中継に匹敵するリプレー映像(様々な角度から映し出された高画質映像)を流すのが当たり前になっている。問題のプレー場面を間近にチェックすることでファンはさらに盛り上がれるもので、チームにとっては大事な球場演出であり、また重要なファンサービスにもなっている。それこそビデオ判定の“醍醐味”に他ならない。

長年MLBを取材してきた身としては、ビデオ判定は野球観戦の魅力を増す大事な要素だと肌で感じている。解説者の皆さんもぜひファン目線でビデオ判定の価値を見つめ直してほしい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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