鎌田大地がクリスタルパレスでの「難しさ」を吐露。「フィジカルに強く、守備的なチーム…」その真意とは?
鎌田大地が、クリスタルパレスでの難しさを吐露した。
クリスタルパレスは12月18日に行われたリーグ杯準々決勝のアーセナル戦で2-3で敗れ、ベスト8で敗退が決まった。
鎌田は後半15分から途中出場。アーセナルはMFマーティン・ウーデゴーを投入した後半開始時から攻撃のギアを一気に上げて猛攻を仕掛けた。日本代表MFがピッチに入ったのはちょうどそのタイミング。アーセナルに同点に追いつかれた直後に投入され、日本代表MFは守備に走る場面が多かった。
鎌田は難しい局面でピッチに入ったが、随所に光るプレーを見せた。後半31分には相手のカウンターに付いていき、エースのブカヨ・サカに激しくタックル。攻撃の芽を潰すと、その6分後には浮き玉のスルーパスから好機を作ろうとした。さらに試合終了間際には、自軍のカウンター場面で、ゴール前に猛ダッシュ──。味方のクロスは、ドンピシャのタイミングで鎌田に届きそうだったが、日本代表がボールに触れる直前でクリアされた。試合は2-3で終了。クリスタルパレスは、敵地エミレーツ・スタジアムで勝利できなかった。
鎌田は試合を静かに振り返った。
「前半、すごくラッキーな形で点が入って、 最近の自分たちの好調な感じというか、良いスタートができた。後半は自分たちの失点の仕方がイージーすぎたと思う。相手のホームで、しかもアーセナルのような相手に、後半の立ち上がりに失点してしまうと、やっぱり試合自体が難しくなる。結局、自分たちは前半ああいう形で点を入れましたけど、クオリティが自分たちにあったわけではないと思うし、向こうが勝ちに値するような内容だった」
鎌田は、アーセナル戦の3日前に行われたブライトン戦でも、後半15分から途中出場した。いずれも、故障明けの攻撃的MFエベレチ・エゼとの交代で出場。ブライトン戦では2-0で自軍リードの状況だったのに対し、アーセナル戦では1-1の同点からピッチに入った。そのため「ブライトン戦に比べると、意識としてはちょっと違う感じで入りましたか」と聞いてみると、鎌田は次のように答えた。
「結局ブライトン戦も(相手が)押せ押せになっている状態だった。今日も相手にすごく勢いがある状態で、非常に難しい展開だなと思っていました。 スタジアムの雰囲気もだんだん上がっていたし、すごく難しい展開だったかなと」
鎌田が率直な考えを明かしてくれたのは、以降のやり取りからだった。
聞きたかったのは、試合終盤のチャンスの場面についてだった。クリスタルパレスがカウンターを仕掛けると、鎌田は猛ダッシュでゴール前に走った。FWエディ・エンケティアのクロスは鎌田に届きそうだったが、日本代表がボールに触れる前にクリアされた。
そこで筆者は尋ねた。「鎌田選手はドンピシャのタイミングでゴール前に入っていきましたが、その前にクリアされた。もうちょっとでゴールの形ができたかと思いますが、あそこでボールが届けば…という感じでしょうか」と。鎌田は「そこよりも…」とまず軽く否定し、以下のように言葉を続けた。
「自分たちが最近、勝ち点を取れている理由にもなりますが、ロングボールを多用するようなサッカーをしている。むしろ、(自分としては)そっちの方が(合わせるのが)難しいというか。ボールを受けたりするとか(そういうところが難しい)。特にパレスは、フィジカル面が強い選手が多いので、そっちの方が難しいという感じです」
アーセナル戦では守備に走る時間も長かったため、次の質問でこう聞いてみた。「サカ選手にタックルを仕掛けるなど、守備に走る場面が多かったです。あの辺のプレーがこのクラブでやっていく上でポイントになるのでしょうか」。鎌田は次のように答える。
「うーん…守備…そうですね、自分が入る前に想像していた感じのサッカーではないし、(グラスナー監督が就任してからの)昨シーズン見ていたような感じのサッカーではない。もちろん選手も数人抜けたり、 今年の最初立ち上がりがうまくいかず残留争いに入ったので、勝ち点を積み上げないといけないとか(そういう事情はあった)。
フランクフルトでやっていたサッカーが、今の監督でもやりたいことは一緒だろうけど、(実際に)やってるサッカーは全然違うし。でもプレミアの最初に比べると、やっぱり守備の部分、自分が狙っているタイミングでボールを取れたりとか、良くなってきている部分もあるとは思うので。学べるところもいっぱいあると思うし、しっかりやっていくだけかなと」
もともとクリスタルパレスは、フィジカル色の強い、守備的なチームである。前任のロイ・ホジソン監督が志向していたのは「堅守速攻」。自陣で守備ブロックを築き、ボールを奪ってから、すぐに速攻を仕掛けるスタイルを徹底していた。
だが成績不振と体調不良により今年2月に監督交代となり、フランクフルトを率いたオリバー・グラスナー監督が新たに就任した。迎えた夏の移籍市場で、チームに加えたのが、フランクフルト時代の教え子である鎌田だった。分かりやすく言えば、「剛」のチームに、「柔」のエッセンスを持つ鎌田を連れてきたわけだ。おそらくグラスナー監督としては、センス抜群の鎌田を組み込むことで、チーム内での化学反応を期待したのだろう。
だがクリスタルパレスは、シーズン開幕から苦戦が続いた。開幕8試合で5敗3分の未勝利で、降格圏に沈んだのである。すると、グラスナー監督がとった策は「原点回帰」だった。ホジソン政権が得意としていた堅守速攻に立ち戻り、「人選」も似たような形にして軌道修正を図った。すると、直近3試合で2勝1分と調子が上向いたのである。このタイミングで、先発メンバーから外れたのが鎌田だった。チームのプレースタイルと、鎌田のそれに距離があるのは先述したとおり。それは、鎌田が「難しさ」を吐露した理由でもある。
筆者は、もう少し突っ込んで質問してみた。「鎌田選手は、グラスナー監督とフランクフルトで一緒にやっていました。今やっているサッカーと、フランクフルトのサッカーが違うという話ですが、鎌田選手としては、フランクフルト時代のサッカーと、クリスタルパレスの違いが分かっている。やはり違う風に見えますか」と。鎌田は次のように答えた。
「リーグのレベルというのはもちろん違うと思いますけど、 フランクフルトは明らかにパスも繋いでたし、すごく攻撃的なチーム。ウイングバックが2枚とも攻撃的で、足の速い選手が前に揃っていて、という感じだった。このチームは、どちらかというと守備的なチームだと思う。攻撃的な選手がなかなかいなくて、得点を奪うというよりも、失点しないようにして、1点カウンターで取れたりとか、セットプレーで取ったりとか、という風な感じでやってる。 戦術の部分だったり、やってることは基本的にフランクフルトと一緒ですけど、リーグのレベルと、揃ってる選手は全然違うなと思います」
「パワー」を重視したフィジカルサッカーと、「技やセンス」を活かしたポゼッションサッカー。さらに、守備的なサッカーと、攻撃的なサッカー。フランクフルト時代の鎌田は、グラスナー監督の下で攻撃色の強いプレースタイルの中で躍動した。
対するクリスタルパレスは、もともと守備的、かつフィジカル色の強いサッカーを志向してきた。グラスナー監督もチームを変革したいと考えているはずだが、成績がついてこないことから、クリスタルパレスが得意とする堅守速攻に立ち戻った。
そのため現状、鎌田は非常に難しい状況に置かれている。そして鎌田自身も、そう感じている。ただ筆者は、鎌田にとって今は「我慢の時」と考える。
最大の理由は、クリスタルパレスにとって、今がちょうど変革期にあること。グラスナー監督としては、これから移籍市場を数回経て選手の入れ替えを行なっていくことだろう。自身が志向する戦術も、徐々にチームに落とし込んでいくはずだ。
鎌田は言う。「良いパフォーマンスができたか、自分がある程度納得いくパフォーマンスができたかということが、すごく大事かなと思います」。
取材中、鎌田は非常に落ち着いた様子で話していた。難しい状況であっても、いかに自身が納得いくパフォーマンスを続けることができるか──。
鎌田のプレーに引き続き注目したい。