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今年上半期の「注目CM」はこれだ!

碓井広義メディア文化評論家

テレビ番組もそうですが、CMは時代を映す鏡です。その時どきの世相、流行、社会現象、そして人間模様までをどこかに反映させています。

最近の“見るべきCM”の傾向としては、映画やドラマのような「物語仕立て」になっているものが多い。また、「上質なユーモア」もキーワードのひとつです。

今年上半期に流されたCMの中から、注目作を選んでみました。

今年上半期の「注目CM」はこれだ!

ロト7(日本宝くじ協会) 『私ではありません』編

会社は面白い。いろいろな人間がいるからだ。しかも学生時代のように、気の合う仲間とだけ付き合えるわけじゃない。

特に上司はやっかいだ。成功は自分の手柄、失敗は部下のせいというタイプも少なくない。このCMの柳葉敏郎みたいに「すべて私の指示です。責任は私がとります」なんて言える上司はまれだろう。

でも、気をつけてほしい。上司は豹変する。柳葉も、得意先に名刺と間違えてロト7のマークシートを渡したのは自分なのに、「私ではありません」などと部下の妻夫木聡に罪を着せてくるではないか。

「君子豹変」という言葉は、急に態度を変える身勝手な振る舞いを指すことが多い。だが本来は、立派な人間ほど自分の間違いを直ちに改めるという意味だ。

CMでは、柳葉がつい「キャリーオーバー」という言葉に反応して、ロト7に詳しいことが露見してしまう。この上司、果たして信じていいのか。部下の自己決定が試される瞬間、それも会社の醍醐味である。

ペプシNEX ZERO(サントリー) 『桃太郎 エピソード・ゼロ』編

童謡『桃太郎』では、桃太郎がイヌ、サル、キジに「お腰につけた黍(きび)団子」を与えて家来とし、鬼退治へと向かう。

実は、私たちがよく知る桃太郎、つまり戦(いくさ)装束である「陣羽織の桃太郎」が登場したのは明治期に入ってからである。「強い国へ」という時代を反映したものなのだ。ちなみに、それまでは2匹と1羽との主従関係もなかった。

このCMは、そのスタイリッシュな映像が見事だが、ここでの動物たちは桃太郎(小栗旬)の家来ではない。ナレーション代わりに流れる文章でも「仲間」と呼んでいる。いわば古来の桃太郎物語へと回帰しているのだ。

倒すべき敵は島の住民を脅かす「巨大な鬼の一族」。全身が赤黒く焼けただれ、ぶすぶすと煙を立ち上らせる姿は不気味で怖い。また彼らとこの「島」の関係も、なぜ侵略するのかも不明だ。

このCMを見ていると、時節柄か、ふと領土問題や集団的自衛権や同盟関係などホットな話題が頭をよぎる。「島」を襲った「鬼」だけでなく、「桃太郎」や「イヌ」たちは何を表象しているのか。よもや尖閣や中国軍や自衛隊や米軍ではあるまい。って、それはもちろん考え過ぎだけど。

にゃんこ大戦争(PONOS) 『ツルにゃんこ』編

マイクを手にした小林幸子が、満面の笑みを浮かべて舞台に登場する。カメラが引く。全体が映る。おお、なんと巨大な白いツルに乗っているではないか。まるで『NHK 紅白歌合戦』の大仕掛けだ。いや、よく見るとツルじゃない。だって顔が「にゃんこ」だもん。

ゲームアプリ『にゃんこ大戦争』のCM『ツルにゃんこ』篇の楽しさを支えているのは小林だけではない。見事な曲紹介をしている芸人、アナログタロウの存在も大きい。

アナログタロウは、『とんねるずのみなさんのおかげでした』(フジテレビ系)の名物企画『細かすぎて伝わらないモノマネ選手権』で披露した「昭和歌謡曲の曲紹介」で人気に火がついた。このCMでも、歌が始まる前の短い時間に、「(小林が)一番よく使う電池は単三とのことです」と、どうでもいい、でも笑える情報が挿入される。

アーティストと称する歌い手たちが、自身をパロディ化したCMに出演したりすることはあまりない。演歌歌手、小林幸子の「皆さんが喜んでくれるなら」という、あっぱれなサービス精神こそ、いっそ大物の証左だろう。

スマ放題(ソフトバンク) 『白戸家「戦国」』編

当然のことだが、CMは映像と音声で成り立っている。たくさんのCMがランダムに流れる中、視聴者の注意を引くためにも耳からの情報、特に音楽は重要だ。

このCMで使われているのは映画『ゴジラ』(東宝/監督:本多猪四郎、特技監督:円谷英二)のテーマ曲である。聴いただけでゴジラの雄姿が目に浮かぶ、懐かしくも迫力に満ちたメロディが、他社とのサービス競争をイメージさせる「合戦シーン」によく似合う。

今年は1954年の『ゴジラ』公開から60周年に当たる。ゴジラも還暦なのだ。また音楽を手がけた作曲家・伊福部昭の生誕100年でもある。さらに7月には渡辺謙も出演するハリウッド製『GODZILLA』の公開が控えている。これから何かと元祖ゴジラが話題となり、そのテーマ曲が流れる機会も多いはずだ。

CMが既存の楽曲を使用する際、コンテンツとしてだけでなく、背後に広がるコンテクスト(文脈)をも取り込むことで効果は倍増する。この夏、“世界の怪獣王”の力を借りるという狙いは悪くない。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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