新型コロナで揺れる世界の食料システム 影響は社会的弱者へ及ぶ
新型コロナウイルス(以下、新型コロナ)の影響により世界の食料システムが不安定化し、その影響が社会的弱者に及び、貧困と飢餓が深刻化している。
新型コロナが世界の貧困と飢餓を深刻化させる
国際労働機関(ILO)は4月7日、新型コロナの雇用や労働への影響は、第2次大戦後最大となるという報告書を出した。報告書は第2四半期(4~6月)の世界の総労働時間は前期比で6・7%減少し、その減少幅はフルタイムの労働者約1億9500万人分(週48時間で換算)に相当すると推計している。また世界の労働人口の約8割に当たる27億人が都市封鎖の影響を受けていると分析している。
国際NGOオックスファムは4月9日に公表した報告書で、新型コロナの影響により、1日1.9ドル以下で生活する貧困層が約5億人増えるという見方を示す。雇用の権利が制限される女性は貧困に陥るリスクがさらに高いと指摘している(※2)。日本国内でも社会的弱者への影響が深刻化する中で、ジェンダー的な視点からも対策を講じる必要があるだろう。
世界80か国で食料援助を行う国連の世界食料計画(WFP)は、報告「新型コロナウイルス~世界の食料安全保障に対する5つの脅威(※3)」を発表し、新型コロナが脆弱な医療インフラに苦しみセーフティーネットを持たない人々に重大な脅威であり、これまでの感染症の経験からも飢餓や栄養不良に苦しむ人々に致命的な影響を与えると指摘する。さらに報告では、これまでのエボラやSARSなどの大量感染が食料不足を招いた先例を紹介し、新型コロナやそれに伴う輸出規制がもたらす食料への影響について警鐘を鳴らす。
新型コロナの先進国農業への影響
新型コロナの影響は、途上国にとどまらず先進国の食料システムにも影響を与え始めている。世界有数の食料生産国である米国では、基幹の輸出産品である食肉生産の現場で異変が起きている。豚肉や牛肉を扱う大手食肉加工工場で感染者が出たことが原因で工場の操業停止が相次いでいるのだ(※4)。工場側は、自宅待機要請や工場での全員検温などを実施し操業継続を目指す。
米国の大手食肉加工工場は、低賃金で作業事故が多い職種とされ、また中南米の移民労働者が多いことで知られてきた。現地メディアによると、過密労働のため感染する者も出ているが、生活のため出勤せざるをえず、死亡するケースが出ているという(※5)。問題は劣悪な労働環境のしわ寄せが感染リスクと共に労働者に一方的に及んでいることだ。米国食肉の最大の輸入国である日本は輸入の向こう側で広がる新型コロナの影響を考えていく必要がある。
さらに欧米の農業現場で問題化しているのが外国人労働者の減少による農作業の遅延と経営への打撃だ。欧米では、これまで農業労働を支えてきた外国人農業労働者が国境封鎖や移動制限のあおりで入国できなくなり人手不足が深刻化している。季節労働者の数は米国で約25万人(2019年)、ドイツでは毎年約30万に上り、単純で集約的な労働を著しい低賃金で担うとされる。
国境封鎖を継続するドイツでは、3月末に季節労働者の入国禁止措置を行ったが、農民や小売団体から食料供給維持のために措置緩和の要請があり禁止措置を解除した。4月から5月にかけ8万人の季節労働者をルーマニア等の東欧から受け入れるという(※6)。こうした緩和措置はとりあえずの方策としてはよいかもしれないが、持続可能な方向性とは思えない。新型コロナを契機に農業労働を海外の季節労働者に依存するという矛盾自体を問い直す必要があるだろう。日本でも数万人の農業の実習生を受け入れていたが、国境封鎖により入国できず影響が出ており対岸の火事ではない状況だ(※7)。
新型コロナにより世界で表面化している食料システムの混乱は、過去の食料危機時に起こった際と異なり、国境や都市の封鎖によるフードチェーンの停止、人手不足や物流の機能不全という形で起こっている(※9)。その背景には、グローバル化した食料システム自体がもつ矛盾が存在する。経済のグローバル化を見直す動きが生まれている中で、食料システムも持続可能でオルタナティブな視点から方向性の修正に取り組むべきであろう。
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