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恐ろしい新型コロナの後遺症「私たち世代のポリオ」「重篤化すると全身に血栓塞栓症広がる」

木村正人在英国際ジャーナリスト
集中治療室(ICU)で治療を受ける新型コロナウイルス感染症の患者(写真:ロイター/アフロ)

[ロンドン発]新型コロナウイルスに感染し、一時は死の淵を見たボリス・ジョンソン英首相を治療したガイズ&セント・トーマスNHS(国民医療サービス)ファンデーション・トラストのニコラス・ハート教授はツイートでこう呼びかけています。

「新型コロナウイルス感染症は私たちの世代のポリオだ。軽症で症状が穏やかな人もいれば重症化する患者もいる。大量の患者が新型コロナウイルス感染症から回復したあと肉体的、認知、心理的な障害が残るだろう。長期の管理が必要だ。事前に計画を立てておかなければならない」

ポリオについて厚生労働省のホームページはこう説明しています。

「ポリオはポリオウイルスが人の口の中に入って腸内で増え、便を介して他の人に感染。乳幼児がかかることが多い。腸管に入ったウイルスが脊髄の一部に入り込み、手や足に麻痺があらわれ、麻痺が一生残ってしまうことがある。日本ではワクチン接種で1980年の1例を最後に新たな患者は出ていない」

「新型コロナウイルス感染症は私たちの世代のポリオ」というのは、重症・重篤化した場合、回復しても重い後遺症が残る恐れがあるということです。

日本の専門家会議の見解(3月2日)によると、新型コロナウイルスの感染が確認された症状がある患者の80%が軽症、14%が重症、6%が重篤で、重症化した患者の約半数は回復します。高齢者、循環器系の疾患や糖尿病などの持病のある人、喫煙者、妊婦がハイリスクグループです。

新型コロナウイルスに感染して重症・重篤化した場合、どんな後遺症が残るのでしょう。英リハビリテーション医学会(BSRM)の新型コロナウイルス感染症のリハビリテーションに関する報告書によると、主な合併症は次の通りです。

【最も頻繁に起きる合併症】

・心血管、肺および筋骨格系の不良

・拘束性肺疾患(肺の容積減少に伴う肺活量の減少)

・うつ病、不安、心的外傷後ストレス障害(PTSD)といった情動障害

・重症疾患多発ニューロパチーや重症疾患ミオパチーなどの集中治療後症候群

・その他の神経学的影響、脳症、脳卒中、脳低酸素症

・少なくともリハビリ初期段階での急性錯乱状態

・ 倦怠感

・ 認知症

【頻度は少ないものの、共通してみられる合併症】

・血栓塞栓症、心筋梗塞、脳卒中、肺塞栓症

・筋骨格の痛みと不快感

・精神病

・ジスキネジア(運動障害)

・PRES(可逆性後頭葉白質脳症)

・心筋症

英大学キングス・カレッジ・ロンドンの大津欣也教授(循環器学)に新型コロナウイルス感染症の後遺症について質問しました。

筆者:新型コロナウイルス感染による炎症とサイトカインストームによる免疫系の暴走、そして血栓塞栓症が起きるメカニズムについて教えて下さい。

基本的にウイルス性肺炎がひどくなってサイトカインストームが起きて肺炎が悪化、全身にサイトカインストームがひろがり多臓器不全に発展すると理解していましたが、それでよろしいでしょうか。

大津教授:それで正しいです。重篤な感染症が起こると血栓塞栓症が起こるのは新型コロナウイルスだけでなく一般的です。がんでもなります。

サイトカインによって、あるいは障害を受けた臓器成分によって白血球や血小板が活性化され血管内皮が障害され血栓塞栓が全身に形成されます。これを播種性血管内凝固症候群(DIC)と言います。

新型コロナウイルスの場合はこれに加えて内皮細胞にACE2という入り口になる分子が存在するので内皮障害に関係している可能性もありますが、まだ分かっていません。

筆者:重い後遺症が残るのは血栓塞栓症が起きた場合で、その後完全に回復するのは難しいのでしょうか。

大津教授:脳細胞や心臓の細胞は再生できません。いったん虚血そして壊死になるとその部分の機能がなくなります。

心臓ですとその部分が大きければ最初は小部分であっても拡大して心不全が進行することもあるでしょう(心筋梗塞と同じです)。脳だと麻痺が残るでしょう。

肺だと肺細胞が死んで線維化組織に置き換えられると線維化(筆者注:壁が厚く硬くなること)は治りませんから、呼吸困難がそのままあるいは進行もあり得ます。原因がなんでも一般に間質性肺炎はそうです。

腎臓もそうです。組織に線維化が残ると同じです。新型コロナウイルスに限らず心筋梗塞でも肺線維症でも普通の脳梗塞でも肝硬変でも同じです。

筆者:恐ろしい病気ですね。かからないのが一番で、かかるとすぐに治療を受けることが大切ですね。

大津教授:そうですね。肺炎と考えるのではなく全身疾患ととらえてモニターするのが大切だと思います。医者は重症感染症やがんの時には当然、頭にあります。

しかし、普通の風邪のような症状で、急激に1日で肺炎が進行し、そして全身疾患になるのは今までにあまり経験しなかったことです。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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