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プリンスホテルの売却で注目される“ホテルの運営”…売却されるというホテルへ行ってみた

瀧澤信秋ホテル評論家
ザ・プリンス パークタワー東京(筆者撮影)

プリンスホテルにもいろいろ

以前から噂されていたプリンスホテルの売却が2月10日発表されました。西武ホールディングス子会社のプリンスホテルが保有する76物件のうち、31物件を投資ファンドに売却するというものです。

西武HD、「ザ・プリンスパークタワー」や「苗場スキー場」など31物件を1500億円で売却(読売新聞オンライン)

“売却する物件は、東京・芝公園の「ザ・プリンスパークタワー東京」、東京・池袋の「サンシャインシティプリンスホテル」、札幌市の「札幌プリンスホテル」、広島市の「グランドプリンスホテル広島」、新潟県の「苗場プリンスホテル」や「苗場スキー場」など” -以上、引用終わり

都市型ホテルからリゾートタイプ、またスキー場など馴染みある名前が並びます。不動産という点からの全体像や、売却の詳細そのものについては多く報道されているのでそちらへ譲るとして、今回はプリンスホテルそのものの理解に資するためという観点から、ホテル評論家としてプリンスホテルについて解説を加えたいと思います。

上記に列挙されたホテル名には“ザ・プリンス”“グランドプリンスホテル”を冠するもの、何も冠さない“プリンスホテル”があります。どのような違いがあるのでしょうか。

日本では90年代以降にいわゆる外資系ホテルブランドが続々と上陸し、内資系ブランドとしては、ホテルブランドの価値をさらに高める必要に迫られてきました。客室のリニューアルにはじまり、ホテルそのものの建て替えなど動きが活発化していきました。外資の進出により特に大都市部の高級ホテルシーンは“群雄割拠”“戦国時代”などといったネガティブなワードでニュースになってきましたが(筆者も発信したひとりですが)、裏を返せば切磋琢磨しホテル全体のクオリティが底上げれてきたとも評せるでしょう。

プリンスホテルのブランド構成(プレスリリースより)
プリンスホテルのブランド構成(プレスリリースより)

そんなブランド価値の向上には“サブブランド化”という手法も散見されます。メインブランドの商品を価格帯や内容などでリカテゴライズし、サブブランド名を付するといったものです。先述のプリンスホテルでいえば、“ザ・プリンス”“グランドプリンスホテル”などがそれにあたります。

よりわかりやすくするため東京と周辺のプリンスホテルで見てみましょう。プリンスホテルでは東京と周辺ホテルについて“東京シティエリア”という表現をすることがあります。東京シティエリアは“生活圏を超えて非日常感をイメージさせるホテル”とされ、前述の「ザ・プリンス パークタワー東京」をはじめ、品川・高輪エリアの「ザ・プリンス さくらタワー東京」「グランドプリンスホテル新高輪」など、まさにプリンスホテルがイメージされるエリアの施設があたります。

その他、「新宿プリンスホテル」「新横浜プリンスホテル」「川越プリンスホテル」といったターミナルや郊外都市に点在する施設もありますが、これらは、生活圏・生活の延長にある“コミュニティーホテル”と位置付けられています。

サブブランドの話に戻りますが、プリンスホテルでいえば上位カテゴリーから並べると「ザ・プリンス」「グランドプリンスホテル」「プリンスホテル」が主幹3ブランドということになります。サブブランド化がなされたのは2007年。サブブランド化に際してはが品質基準が意識されました。

それぞれのホテルについて5つ星、4つ星獲得などイメージされ、プリンスホテルがグローバルスタンダードを意識した端緒ともいえます。これらは、その後の訪日外国人旅行者需要の高まり以前のことであり、無論売却の話など想定すらされていない頃の話です。

そんな国内基準のホテルをグローバルスタンダードに照らし合わせた試みは、その後盛り上がるインバウンド活況、そして今回の売却などという大きな環境の変化に対しても、運営会社としてのプリンスホテルの礎になっていると筆者は考察しています。ブランドの定着や実際に質として具現化されていくのにはまだまだ時間が必要でしょうが、引き続き注視していきたいと思います。

売却されるというホテルへ出向いてみた

さて、プリンスホテルの売却という気になるホテルのニュースではありますが、記事だけではわからないリアルを肌で感じるべくもザ・プリンス パークタワー東京へ行ってみました。

こちらに限らず、外資・内資含め都心にある高級ホテルを見た場合に、プリンスホテルの特筆すべき点として“ロケーション”が挙げられます。外資系ホテルの多くは再開発エリアなどの開発に伴ってビルの上層部に位置するケースが多く見られます。非日常感や眺望など秀でるわけですが、プリンスホテルの多くは“ホテル単体”の建物にして広大なエリアを味方にしています。

日本庭園を囲むような高輪エリアのホテル(筆者撮影)
日本庭園を囲むような高輪エリアのホテル(筆者撮影)

たとえば、高輪エリアでいえば、「ザ・プリンス さくらタワー東京」「グランドプリンスホテル新高輪」「グランドプリンスホテル高輪」の3ホテルが広大な日本庭園をぐるりと囲むように建っています。

今回出向いたザ・プリンス パークタワー東京は、実際に出向くとわかりますが“パーク”という名のとおり芝公園の広大な広がりが魅力です。高輪も芝公園エリアもかようなロケーションゆえに、ビルが隣接しない開けた眺望が約束されます。都心にあって自然の心地よさも感じるわけですが、たとえばグランドプリンスホテル新高輪の客室バルコニーなど、空気をリアルに感じられるのもこうした立地・条件ならではで、ある種の“プリンスホテルらしさ”と表せます。

客室からの眺望(ザ・プリンス パークタワー東京/筆者撮影)
客室からの眺望(ザ・プリンス パークタワー東京/筆者撮影)

ザ・プリンス ハークタワー東京の“らしさ”といえば、迫力ある東京タワービューでしょう。特にプレミアムクラブラウンジの窓際席は、知る人ぞ知る特等席で競争率も高いです。日が短い季節だとカクテルタイム(ラウンジアクセス権のある利用者にアルコールやオードブルが無料で提供される)はロマンチックな宵(酔い)の入り口であります。今回は既に窓際席は埋まっていて叶いませんでしたが、もちろん客室からのビューもなかなか。目覚めは増上寺の鐘の音というのもザ・プリンス ハークタワー東京ならではの贅沢なひとときです。

ザ・プリンス パークタワー東京のプレミアムクラブラウンジ(筆者撮影)
ザ・プリンス パークタワー東京のプレミアムクラブラウンジ(筆者撮影)

今回のニュースでは、資産売却はするものの運営権は残されるということで、売却後も運営を担うことになるプリンスホテルですが、これからますます運営会社としての実力が注目されていくことになります。ホテルの運営会社はごまんとあり、ホテルの魅力を高めつつ稼げる運営会社でなければもちろん引き合いはありません。

プリンスホテルとしては、これまでよりも運営に対する専門性が問われることになります。運営会社たるプリンスホテルとしては、外資にないものをどう伸ばしてくのかという点も重視していくことでしょう。プリンスホテルを利用したゲストの「日本のホテルならでは」という感想を時々見ますが、長年かけて培ってきた“きめ細やかさ”や“あたたかさ”というような一見ぼんやりした部分は建物ではなく人が紡ぎ出すもの。それは、同じハードのホテルでもオペレーターで価値が変わっていく様々な例が物語っています。

こうしたホテル売却のようなニュースに接する度に、経営・所有・運営という切り口でホテルを見るわけですが、そんなニュースの渦中にあって出向いたザ・プリンス パークタワー東京にして、随所随所でスタッフのみなさんの懐深さを感じる滞在に、ホテル運営は深いなぁと思い巡らすのであります。

ホテル評論家

1971年生まれ。一般社団法人日本旅行作家協会正会員、財団法人宿泊施設活性化機構理事、一般社団法人宿泊施設関連協会アドバイザリーボード。ホテル評論の第一人者としてゲスト目線やコストパフォーマンスを重視する取材を徹底。人気バラエティ番組から報道番組のコメンテーター、新聞、雑誌など利用者目線のわかりやすい解説とメディアからの信頼も厚い。評論対象はラグジュアリー、ビジネス、カプセル、レジャー等の各ホテルから旅館、民泊など宿泊施設全般、多業態に渡る。著書に「ホテルに騙されるな」(光文社新書)「最強のホテル100」(イーストプレス)「辛口評論家 星野リゾートに泊まってみた」(光文社新書)など。

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忌憚なきホテル批評で知られる筆者が、日々のホテル取材で出合ったリアルな現場から発信する辛口コラム。時にとっておきのホテル情報も織り交ぜながらホテルを斬っていく。

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