6年ぶりの豊漁でも、ウナギが安くならない理由
土用の丑に鰻を食べるようになったのは、江戸時代のマルチタレント平賀源内(1728~1780)が知り合いの鰻屋に頼まれて考案した宣伝コピーが起源といわれています。もともと鰻の旬は秋から冬で、夏場には売り上げが下がっていたのです。それをなんとかしようと鰻屋が源内の知恵を仰いだのがきっかけだとか。現在は、シラスウナギを養殖するのが主流であり、土用の丑に出荷をする前提で生産するため、夏でも脂ののったウナギを食べることができます。
近年は、シラスウナギの水揚げが減って価格が高騰していることは、皆さんもご存じだと思います。今年はシラスウナギが豊漁というニュースが多くのメディアで報道されており、鰻が安く食べられるとの期待も高まっているようです。
漁獲はどれぐらい増えたのか
では、実際にどの程度増えたのかデータを見ていきましょう。こちらがシラスウナギの採捕量になります。2020年は17.1トンで、昨年の3.7トンと比較して4.6倍に増えました。
昨年は記録的な不漁だったので、今年の採捕量は昨対比でみると大幅に増えているのですが、実は2014-2017年の水準と大差がありません。シラスウナギの採捕量は年によって大きく変動します。鰻資源が回復したのではなく、点線で示したように長期的な減少傾向で推移しているなかで、何年に一度の当たり年がきたと考えるのが妥当でしょう。
池入量(イケスに入れる量)が重要
今年の鰻の生産量を考えるには、シラスウナギの採捕量ではなく、池入れ量(養殖イケスに投入されたシラスウナギの量)を見る必要があります。
こちらの図はシラスウナギの池入量です。青が国産、赤が輸入を示しています。養殖につかうシラスウナギは、国産だけでなく香港からも輸入されていて、昨年などは国産の3倍ものシラスウナギの輸入がありました。国際的な取り決めで日本の池入上限は21.7トンと決められているので、今年の輸入は3トンにとどまりました。
今年の池入れ量は20.1トンでした。これは、2015-2017年と同じような水準であり、例外的に多いとは言えません。
ちなみに、今年のシラスウナギの相場は、1キロ144万円でした。シラスウナギの体重を0.2gとすると一尾あたりの価格は288円になります。去年の一尾の価格を同様に計算すると438円ですから、一尾あたり150円ほど安くなった計算です。
鰻を安売りする必然性がない
養殖業者は、シラスウナギをイケスにいれて、半年から1年半ほど成長させてから出荷します。その年の1月までに獲れたシラスウナギは、その年の土用の丑に出荷サイズになりますが、3月や4月に獲れたシラスウナギはそれ以降の出荷になります。今年はシラスの来遊が早かったこともあり、土用の丑に間に合う割合が多そうです。しかしながら、池入量はそれほど増えたわけではないし、鰻は冷凍をすれば2~3年は問題なく保存できるため、来年以降の水揚げが不透明な現状で、鰻を安く売る必然性はありません。なので、今年の鰻の価格も、ここ数年間の平均的な価格に落ち着くのではないでしょうか。
結論
- シラスウナギの水揚げは去年よりは増えたけれども、池入れ量は例年と比べてそれほど増えたわけではない
- シラスウナギの不漁年が増えているなかで、値段を下げてまで今年鰻を出荷するメリットがない。
以上の二点から、大幅な値下げは期待できません。
今年はシラスウナギがたまたま多く獲れたのですが、資源の減少には歯止めがかかったわけではなく、危機的な状況は今後も続きます。単年の漁獲量や価格に一喜一憂するのではなく、ウナギをこれからも食べ続けるための河川環境の改善や漁獲規制の強化が求められています。
ウナギの現状についてより詳しく知りたい人は、中央大学海部先生のこちらの記事がお勧めです。