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なぜ日本代表は敵陣までスムーズにボールを運べなくなったのか?【コロンビア戦出場選手採点&寸評】

中山淳サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人
(写真:つのだよしお/アフロ)

新戦術導入のプロセスに問題あり

 スムーズにボールを前に運べない。自陣から敵陣に前進できない。パスの出しどころを見つけられず、結局、大きく前に蹴り出すか、後方での横パスやバックパスが増加する。

 ウルグアイ戦(1-1)に続き、1-2で敗れたコロンビア戦でも、日本の問題点は同じだった。確かに1-2のスコアになってからは、コロンビアが守勢に回ったことで日本の敵陣でのプレーは増えたが、それは試合の流れによるもの。

 日本が自力で攻撃の糸口を見つけ、コロンビアの守備網を突き破ったわけではなかった。

 当然、敵陣でプレーする回数が減少すれば、シュート本数も増えず、ゴールは遠のく。ウルグアイ戦のシュート数は、相手の8本に対して4本。コロンビア戦でも、相手が11本のシュートを記録したのに対し、日本はわずか5本だった。

 今回の2試合において、日本は新しい取り組みに着手し、それが注目の的となった。ビルドアップ時に、両サイドバックのどちらかが最終ラインの一列前で内側のレーンに立ち、ウイングへのパスルートを作るというポジショニングだ。

 分かりやすい例で言えば、たとえば国内では近年の横浜F・マリノス、あるいは今季から川崎フロンターレが導入したビルドアップのパターンになるが、その目的は、ボールをつなぎながら敵陣までスムーズに前進し、敵陣で攻撃を繰り返すところにある。

 いわゆる、ポゼッション重視型のチームがよく採用する戦術のひとつだ。

 確かに、自分たちが主体となって(ボールを握って)相手を上回りたいという、第2次森保ジャパンの目標を考えれば、今回の取り組みは腑に落ちる。しかし問題は、そのかたちにばかりとらわれてしまい、肝心の“パスをつなぐ”ための基本を見失っていることだった。

 たとえばコロンビアは、サイドバックが内側レーンに立つかたちをとらなくても、日本の前からのプレスをかい潜り、パスをつないで日本陣内にスムーズに前進した。マイボール時は、全員がボールを受ける動きを繰り返し、パスを出した選手もすぐにパスの受け手となれるポジションをとっていたからだ。

 しかも、前線ではフレキシブルにポジションを入れ替え、日本の守備陣を混乱させた。特にコロンビアはボール保持ばかりを意識したスタイルではなかったが、1対1の局面で強いうえに、サッカーの基本とも言えるパスコースの作り方を普通に実践していた。

 件の横浜F・マリノスも川崎フロンターレも、サイドバックの立ち位置を工夫する前段階で、しっかりとパスをつなぎながら前進し、ボールを握りながら攻撃を繰り返す作業ができていた。そこに相手の対策として、前からのプレスを受けるようになったことで、サイドバックの立ち位置に変化を加えた。

 要するに“対策の対策” として取り組んだという導入の経緯があり、そのプロセスを踏んでいたからこそ、スムーズに確立できたと言える。マンチェスター・シティのペップ・グアルディオラ監督にしても、就任直後にそのビルドアップ方法を導入したわけではない。

 おそらく森保ジャパンの場合は、そのプロセスを踏まずに取り組み始めたことが、手段が目的と化してしまった最大の原因だと思われる。

 まずはパスをつなぐ感覚を取り戻すこと。カタールW杯以前は普通に出来ていたことを思い出し、6月の代表ウィーク2試合は、原点回帰からリスタートする必要がありそうだ。

※以下、出場選手の採点と寸評(採点は10点満点で、平均点は6.0点)

【GK】シュミット・ダニエル=5.5点

2失点ともシュートを防ぐのは難しかったが、得意のビルドアップで力を発揮できず、消極的な選択が多かった。新しいメンバーによるDFラインとのコンビネーションも苦労した。

【右SB】菅原由勢=5.5点

開始早々の三笘の先制ゴールの起点となるロングフィードを供給した他、攻撃面でアグレッシブさがあった。逆に、1失点目は背後のスペースを突かれ、守備面の不安定さもあった。

【右CB】板倉滉=5.0点

初めてゲームキャプテンを務めたが、守備ラインを統率し切れなかった。1対1で突破を許した他、相手に振り回される場面も。得意のパス供給の面でも物足りなさは否めなかった。

【左CB】伊藤洋輝=5.0点

開始早々にビルドアップでボールロストしたことで自信を失ったのか、消極的な横パスやバックパスが目立った。後半途中から左SBに移ったが、攻撃に上手く絡めずに終わった。

【左SB】バングーナガンデ佳史扶(59分途中交代)=5.5点

決定的な仕事はなかったが、前半から外と内を使い分けて三笘と上々の関係性を作った。期待された後半は着地で足を痛め、負傷交代。代表デビュー戦としては上々の出来だった。

【右ボランチ】守田英正(78分途中交代)=6.0点

三笘の先制ゴールをアシストしたピンポイントクロスは絶品。後半66分にも左サイドからクロスを供給し、上田のヘディングシュートにつなげた。守備面では強さを発揮できず。

【左ボランチ】鎌田大地(HT途中交代)=5.0点

ダブルボランチの一角でスタメン出場。最終ラインに落ちてビルドアップ時に起点となることも。随所にらしいプレーは見せたが、守備面では脆弱だった。前半のみで交代した。

【右ウイング】伊東純也=6.0点

スピードを生かした縦への突破だけでなく、ライン間でのパスレシーブを見せ、守備でも貢献した。後半途中から左ウイングに移ったが、以前よりもナチュラルにこなしていた。

【左ウイング】三笘薫(54分途中交代)=6.5点

開始早々に打点の高いジャンプヘッドで先制ゴールを決めた。単独突破は多くなかったが、前半はバングーナガンデとのコンビプレーも何度か見せた。後半54分に堂安と交代した。

【トップ下】西村拓真(59分途中交代)=5.5点

広範囲にわたってよく走り、先制ゴールの場面でも町野とギリギリのパス交換を成功させた。前半40分のシュートは枠に飛ばしたかった。及第点のプレーを見せて後半に途中交代。

【CF】町野修斗(HT途中交代)=5.0点

何度かロングボールを収めるシーンもあったが、前線の高い位置で仕事をできずに終わった。まだまだプレーの精度が低く、代表で存在感を発揮するにはレベルアップが必要か。

【MF】遠藤航(HT途中出場)=5.0点

鎌田に代わって後半開始からボランチでプレー。ビルドアップ時のポジショニングが中途半端で、低い位置で埋没。攻撃面でも効果的なパス供給や攻め上がるシーンもなかった。

【FW】上田綺世(HT途中出場)=5.5点

町野に代わって後半開始から1トップでプレー。2本のヘディングシュートを放ち、1本目 の惜しいシュートは相手GKの好セーブに阻まれた。そろそろ代表初ゴールがほしいところ。

【MF】堂安律(54分途中出場)=5.0点

三笘に代わって後半途中から右ウイングでプレー。時には中央、左サイドまで動いてチャンスに絡もうとしたが、効果的なプレーは少なかった。シュートもなく、存在感を示せず。

【MF】久保建英(59分途中出場)=5.0点

後半途中から西村に代わって1トップ下でプレー。布陣が中盤ダイヤモンド型の4-4-2になってからは2トップ下でプレーしたが、気合が空回り。シュートも浅野を直撃した。

【DF】瀬古歩夢(59分途中出場)=5.0点

バングーナガンデに代わって後半途中から左CBでプレー。出場してすぐに背後をとられ、失点につながる突破を許した。パス供給も不安定で、キックの精度や判断力を磨きたい。

【FW】浅野拓磨(78分途中出場)=採点なし

守田に代わって後半途中から2トップの一角でプレー。出場時間が短く採点不能。

サッカージャーナリスト/フットボールライフ・ゼロ発行人

1970年生まれ、山梨県甲府市出身。明治学院大学国際学部卒業後、「ワールドサッカーグラフィック」誌編集部に入り、編集長を経て2005年に独立。紙・WEB媒体に寄稿する他、CS放送のサッカー番組に出演する。雑誌、書籍、WEBなどを制作する有限会社アルマンド代表。同社が発行する「フットボールライフ・ゼロ」の編集発行人でもある。

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