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そもそも障害者を差別し、減額主張をしている「張本人」は誰なのか 【難聴女児死亡事故】#専門家のまとめ

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
2021年7月、大阪地裁前で抗議デモを行う遺族と支援者たち(遺族提供)

 危険運転により命を奪われた聴覚障害女児の「逸失利益」(事故がなければ得られたであろう生涯の収入)を巡る民事訴訟が、9月3日、大阪高裁にて結審した。てんかんの持病を隠し、ホイールローダーを運転していた加害者による暴走死傷事故から6年7カ月、被害者には全く落ち度のない事案でありながら、なぜ裁判はこれほど長期化し、遺族は苦しめられているのか。そして、被告側による「障害者差別」ともいえる一方的な減額主張は、いったいどのようなもので、実質的には誰が主導でおこなっているのか。まとめてみた。

ココがポイント

1審の大阪地裁は安優香さんの障害が「労働力に影響がない程度ということはできない」と、全労働者の平均賃金の85%と判断

「娘の成長した姿を想像し、思いを押し殺している」 11歳少女死亡事故の損害賠償訴訟 聴覚障害者の“逸失利益”が争われた裁判の2審が結審 出典:ABCニュース 2024/9/3(火)

自身も聴覚に障害があるという宮城教育大学の松崎丈教授が出廷

生野重機死亡事故の控訴審で証人尋問「健常者と同等の就労できないのは間違い」 出典:テレビ大阪 2024/6/11(火)

交通事故の民事裁判では、被告本人の意思よりも、被告側が加入している任意保険会社の判断が大きな影響を与えている場合が多い。

聴覚・視覚障害の弁護士たちが立ち上った! 難聴の11歳女児死亡事故裁判に異議   出典:Yahoo!ニュースエキスパート 柳原三佳 2021/5/6(木)

聴覚障害のある田門浩弁護士が手話で「裁判所には差別をなくす方向に前進するよう力強いメッセージを期待する」と意見陳述
「差別なくす方向に」 聴覚障害児の逸失利益巡る訴訟、控訴審始まる 出典:朝日新聞デジタル 森下裕介、山本逸生 2023/10/20(金)

エキスパートの補足・見解

 本件裁判で、被害者への賠償額を減らすべきだと主張をしている「被告」とはいったい誰なのか。書面上は加害本人とその雇用会社だが、筆者の取材経験から、実際には加害者側が自動車保険を契約している損保会社が主導していると思われる。

 契約者はいざというとき被害者に十分な賠償ができるようにと対人無制限の保険に加入している。にもかかわらず、多くの事故処理において、契約者の意に反して「利益相反」ともいえる示談交渉や裁判が横行しているのが現実だ。

 実は当初、被告側は女児の逸失利益について「一般女性の40%」と決めつけ、さらに低い提示をしていた。「聴覚障害者には『9歳の壁』があり、思考力や言語力・学力は小学校中学年の水準に留まる」というのだ。この一方的で理不尽な主張は、一審の途中で被告側が自ら撤回するという一幕があったのだが、「初回提示はとりあえず低いラインから」という損保業界の常套手段が見えた気がした。 

 本裁判には聴覚障害、視覚障害のある弁護士をはじめ、総勢38名の支援弁護士が名を連ねている。年少者、障害者の努力や未来の可能性を否定するこうした主張は許されるのか。また、加害者本人や雇用会社は長期化する裁判に何を思うのか。自動車保険、損保会社のあり方も議論されるべきだろう、 

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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