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なぜお医者さんの説明はわかりにくいのか? 医師の本音

中山祐次郎外科医師・医学博士・作家
病院での説明ってわかりにくいし、覚えられませんよね・・・(写真:アフロ)

体調が悪い時、つらくて病院へ行く。そしてお医者さんの診察を受け、説明を受ける。しかしその説明の意味が全然わからないーーー。

 そういう経験をしたことがある人はとても多いと思います。筆者は医師ですが、医師になる前に病院を受診して医師の説明に「何言ってるのかサッパリわからない」と思ったことは何度もあります。

この記事では、なぜお医者さんの説明がわかりにくいのか、考えてみました。半分言い訳かもしれませんが、すみません。

結論は、

1, 専門用語が多すぎるから

2, 医師がそれを専門用語と思っていないから

3, 詳しく説明する時間がないから

4, 記録がないから

です。

反省しつつ書きます。

なぜ医者の説明はわかりにくいか

1, 専門用語が多すぎるから

 医者の話す言葉には、専門用語がとても多いと思います。私が医学部の学生だった頃、初めて病院実習に行って医師同士の会話が全く理解できない経験をしました。例えば「頻回(ひんかい)」という単語。これは頻度が多いという意味で、「頻回の下痢」などと使います。しかし医師や看護師の中にはこの用語が特殊であることに気づいていない人も大勢います。

2, 医師がそれを専門用語と思っていないから

それ以外にも、例えば医師は「これは整形外科的な問題だと思いますので心配いりませんよ」とか「婦人科領域だと思います」というように、「◯◯科」をしょっちゅう使います。一般の人にとってみると、なにが何科なのかなんて全くわかりませんよね。胃のピロリ菌の除菌療法は消化器内科ですが、そけいヘルニアは消化器外科です。医者にとっては普通の話ですが、これが一般の人には通じないことを理解している医者はあまり多くないように思います。

 

 さらには業界の長年の風習か、隠語も多発します。

「ちょっとエッセン行ってくる」と言ったら食事に行くことを指します。鼻から胃まで入れる管のことは病院によって呼び名が違い、「胃管(いかん)」「マーゲンゾンデ(ドイツ語)」「マーゲンチューブ(ドイツ語+英語)」「マーチュー(略語)」「NGチューブ(nasal gastricの頭文字)」「ネーザル(英語で鼻の意味)」「SST(管の商品名)」など様々です。さすがにここまでは患者さんには言いませんが。

3, 詳しく説明する時間がないから

 これは言い訳と言われても仕方がないのですが、しかし物理的に時間がないのも事実です。例えば腸の手術前の説明をするとき、例えば説明に2時間かけていたら業務は全く回りません。病院によっては1時間もかけられないところもあるでしょう。しかし、患者さんにとっては腸がどんな風になっていて、どんな病気があって、どんな手術をするのか気になるところ。本当はゆっくり絵を描いたりしたいのですが、残念ながら私も40分ほどで説明を終えています。

 もし時間がもう少しとれたら、さらに詳しく説明できるのに・・・と思いながらお話することもしばしばです。

4, 記録がないから

 最後の理由です。私は昔から強く疑問に思っていましたが、医師の説明は記録があまりありません。

 患者さんやそのご家族は、メモをとったり憶えようとしたりと大変です。ですから私は複写の説明用紙に手書きで書き、さらに前もって準備していた印刷物を渡すようにしています。しかし緊急のときなど、詳しく書いたものをお渡しすることは時間的に難しくなることも。

 ですから医師の説明は一度きり、そのときに聞きもらしたらアウトというような雰囲気になってしまうこともあります。もちろん何度聞いていただいても構わないのですが、患者さんからもう一度質問するのは気がひけることもあるでしょう。

 ならば録音や録画をすればいいのでは、と私は考えています。実際に録音を申し出られる患者さんはいらっしゃるにはいますが、ごくごく稀です。こんなITの発達した世の中で、いまだにメモや手書きは無いなと思います。

お医者さんの説明、わからない上に覚えていない?

さらに、面白い研究結果があります。医師にとっては悲しい結果です。

それは、「患者さんは、医者の説明をどれくらい憶えているか?」について調べた2007年の研究で、北海道大学の杉澤さんという方が行ったもの(詳細は下記)。

簡単に研究結果を説明します。

風邪で受診した患者さんに対して、医師はあらかじめ決められた説明をします。その後、患者さんに別室に移ってもらい15分かけてどれくらい憶えているか質問をするのです。

すると、例えば「風邪の原因がウイルス」を憶えている人は83.3%いましたが、「基本的な風邪の治療法に対しての考え方」を憶えている人は16.7%のみ、「必要以上に熱を怖がることはないこと」は半数が「何も憶えていない」という結果だったのです(以上、文末の論文より筆者改変して引用)。

どうすれば良いのか

 大前提として、私たち医師が丁寧丁寧に説明することは必須です。さらに録音や録画で記録し、患者さんやご家族が繰り返し見られるようにすれば理解が深まり、説明のときには思い浮かばなかった疑問などが聞けるのかもしれません。そんなアイデアでした。

(参考文献)

医師の説明に対する患者の記憶とその内容解釈に関する研究- 質的手法を用いた説明内容の考察-

杉澤廉晴, 前沢政次 北海道医学雑誌 82(3): 139-150, 2007.

外科医師・医学博士・作家

外科医・作家。湘南医療大学保健医療学部臨床教授。公衆衛生学修士、医学博士。1980年生。聖光学院中・高卒後2浪を経て、鹿児島大学医学部卒。都立駒込病院で研修後、大腸外科医師として計10年勤務。2017年2月から福島県高野病院院長、総合南東北病院外科医長、2021年10月から神奈川県茅ヶ崎市の湘南東部総合病院で手術の日々を送る。資格は消化器外科専門医、内視鏡外科技術認定医(大腸)、外科専門医など。モットーは「いつ死んでも後悔するように生きる」。著書は「医者の本音」、小説「泣くな研修医」シリーズなど。Yahoo!ニュース個人では計4回のMost Valuable Article賞を受賞。

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