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「婚約解消」で結納金、披露宴・新居の費用はどうなる

竹内豊行政書士
婚約を解消すると法的にはどのようなことになるのでしょうか。(写真:PantherMedia/イメージマート)

将来お互いに結婚の約束を交わすことを婚約といいます。無事結婚に至ればよいのですが、約束は必ず果たされるとは限りません。残念ながら婚約解消ということもあります。

では、婚約が解消された場合、ペナルティーが発生することはあるのでしょうか。あるとすればどのような場合に発生するのでしょうか。

そこで今回は婚約解消について深掘りしてみたいと思います。

婚約の成立

婚約は、男女間に将来結婚しようという合意があれば成立します。

結納や婚約指輪の交換などの儀式は、当事者間の結婚の意思を具体的に示すものとして、婚約の成立を証明する一つの事実になります。

婚約の法的な意義

婚約は将来結婚しようという約束です。したがって、婚約により当事者は結婚の成立を当然期待して、結婚に向けて準備を進めたり、婚約をきっかけに性的な関係を持つこともあります。

それにもかかわらず、一方的に婚約を解消されると、他方は精神的に傷つきます。また、準備にかかった費用や婚約を機会に勤務先を退職したなど財産的な損害も発生することもあります。

だからといって、結婚の本質からみて、相手に婚姻の届出を強制することはできません。しかし、生じた損害について、婚約不履行の責任として賠償を認めることがあります。

その意味では、婚約は単なるプライベートな合意ではなく、「正当な理由」のない不履行については、法的な賠償責任が生じる、法律的な行為だといえます

婚約不履行の損害賠償の範囲

精神的損害と財産的損害の2つに分けて考えられます。

1.精神的損害

婚約関係は夫婦生活の実体を備えるまでに至っていない関係です。したがって、その実体のある内縁関係の解消の場合よりも、正当理由について穏やかに認定すべきと考えられています。

婚約後、結婚を前提に交際してみて初めて分かることもあます。また、不安に思っていたことが結婚に向けて準備をする過程でますます明らかになることもあります。

婚約後に性格の不一致や、家族も含めた生き方・価値観の相違がはっきりしてきた場合には、無理に結婚をするよりは、自由に婚約を解消できるようにして、「結婚の自由」を保障すべきでしょう。

したがって、婚約解消に伴う精神的苦痛を賠償すべき場合というのは、婚約解消の動機や方法などが「公序良俗」に反し、著しく不当性を帯びている場合に限られると考えられています。

精神的損害(慰謝料)が認められたケースとして、次のような判例があります。

・結婚していたことを隠して婚約した

・妊娠中絶や妊娠出産をさせた

・挙式の翌日に婚姻届を拒否し、数日後に別居した

・婚約の履行に向けて退職して転居した

2.財産的損害

判例によると、財産的損害としては、婚約から結婚に至るまでの準備にかかった次のような費用が挙げられます。

・結婚式場や新婚旅行などの申込金・キャンセル料

・ウェディングドレスの購入

・披露宴招待状の発送費用

・挙式・披露宴費用

・家庭用品の購入費用と婚約解消に伴う転居費用

・新居のマンションの敷金・手数料・解約金 など

結納

婚約が調ったとき、そのしるしとして、まためでたく結婚が成立することを願って、結納が交わされることがあります。したがって、結婚が成立しなかった場合には、目的不到達だから、不当利得として授与者はその返還を求めることができます。

ただし、判例によれば、婚約解消について責任のある者は、信義則上、結納金の返還を請求することはできません。

婚約をしたものの、熟慮した結果、結婚を解消したいと考えるに至ることもあるかもしれません。その場合は、まずは相手に誠心誠意気持ちを伝え、状況によっては、相手が被った精神的・財産的損害を支払うことで「けじめ」をつけることが大切ではないでしょうか。

行政書士

1965年東京生まれ。中央大学法学部卒業後、西武百貨店入社。2001年行政書士登録。専門は遺言作成と相続手続。著書に『[穴埋め式]遺言書かんたん作成術』(日本実業出版社)『行政書士のための遺言・相続実務家養成講座』(税務経理協会)等。家族法は結婚、離婚、親子、相続、遺言など、個人と家族に係わる法律を対象としている。家族法を知れば人生の様々な場面で待ち受けている“落し穴”を回避できる。また、たとえ落ちてしまっても、深みにはまらずに這い上がることができる。この連載では実務経験や身近な話題を通して、“落し穴”に陥ることなく人生を乗り切る家族法の知識を、予防法務の観点に立って紹介する。

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