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ピーコさんの訃報で思い起こされたナジャ・グランディーバさんの言葉。そして、キスの悲しさ

中西正男芸能記者
(写真:アフロ)

10月20日、ファッション評論家・ピーコさんの訃報が出ました。

SNSなどを見ても、ピーコさん関連の投稿をアップしている方が本当にたくさんいらっしゃる。いろいろな思い出の写真をアップされている人もいる。宴席なのか、ピーコさんが男性タレントさんらのほっぺにキスをしている写真も複数見かけました。

そんな中、2022年、ナジャ・グランディーバさんにヤフー拙連載でお話をうかがった際のことが頭に浮かんできました。

いわゆるオネエの人を取り巻く環境の変化。世の中の変化。そんな話の中で、感じていらっしゃることもうかがいました。取材メモを振り返ります。

少し前まではバラエティー番組でも罰ゲームとして「オネエとキスをする」流れがありました。でも、今はなくなりました。オネエを罰ゲームの対象にするということへの違和感が世の中に広がっていったからです。

世の中としては、その方がフラットやし、優しい世の中に近づいているんやと思います。けど、これはこれで、いろいろ思うところも私の立場で言うとあるんです。

罰ゲームで呼ばれたオネエの人は主旨に納得して自分の仕事だと思ってお金をもらって行ってるわけで、そこにある感情は感謝のはずなんです。

これは他の分野でも同じだと思っていて、例えば、ブサイクと言われていた女性芸人さんも、それによって笑いが起こって仕事が来る。そして、自分がやりたかったことに近づいていける。本人はそんなにイヤなわけはないんですよ。声を上げているのは実は周りの人。当事者ではなく。もちろん、世の中の形をより良くするための方策なのかもしれませんけど、こっち側の人間からすると、いろいろ感じるところもあるんですよ。

それと同時に、私がテレビとかに出る時にしゃべり方も10年前とは意図的に変えているところもあります。

この前も北京オリンピックがありましたけど、フィギュアの宇野昌磨君を見て、やっぱりアスリートやからお尻とかもすごいんですよ。プリっとして。

ただ、今までやったらそこもストレートに「すごいお尻!」とか「触ってみたい!」とか言ってたんですけど、今はそういったことも言わないようにしています。

普通に考えて、男性タレントが女性のフィギュアの選手の体を見て「お尻、引き締まってますねぇ!」と言って触ったら大問題になるじゃないですか。でも、私らがラグビー選手のお尻を触ってもみんなが笑ってる。そこはフラットじゃないし、完全に矛盾してますからね。

私らも含め周りも「同じ扱いにしないといけない」と言うならば、そこも含めて本当は同じ扱いにしていかないと辻褄が合わない。

今は多少変わってきましたけど、これまで根本に「オネエは何を言ってもいい」ということが長らくあったわけです。それをもう一つ裏返すと、最初からオネエを別物扱いというか、もっと言うと化け物扱いしているわけです。

自分らよりもステージが低い人間がアレコレ言ってるだけやから、そこは相手にしないし、ま、エエやんか。そんな考えが根底にあってのことやったと思うんです。

少し前まではそれを求められてやっていた部分もあったわけですから、今、時代に照らし合わせて自分なりにアップデートしてますけど、できてないところもあるし、自分の中でもギクシャクしてるところもある。それがリアルな今の現状です。

ナジャさんならではの深く、正確な分析だと膝を打ちました。世の中の変化とともに、オネエの人への視線も変わる。オネエの側の立ち回りも変わる。非常にセンシティブな領域だが、それもまた事実である。リアルな話だと痛感しました。

そして、自戒の念が湧き上がってもきました。

僕は芸能担当記者として13年半デイリースポーツに勤務しましたが、ピーコさんの弟さんで映画評論家のおすぎさんにデイリーでは長く連載をお願いしていました。

そんな関係もあり、新入社員の頃から何回かおすぎさんとは宴席でご一緒させていただく機会がありました。

今とは時代が違います。四半世紀ほど前です。その頃にはその頃の“常識”があった。それが事実ではありますが、今の物差しで考えると、胸の痛むこともありました。

ナジャさんの言葉をお借りすると、以前はオネエとのキスが罰ゲームになっていました。当時の宴席でも、誰も、一ミリの罪悪感も、悪意もないまま、その場の参加者は口にしていました。

「おすぎさんからキスをいただいたら一人前」

若手の記者であった僕も、ありがたいことにその場のノリでキスをしてもらいました。せっかくおすぎさんにそれだけのことをしてもらっている。普通に受けるのも失礼なので、キスをされるのを嫌がる。キスをされてからも「うわー、すごい攻撃を受けてしまった…」みたいな顔をするのがむしろ礼儀だという感覚すらありました。なので、若手なりに精いっぱいの礼節としてそのような顔をしていた覚えがあります。

ただ、今の感覚で、今一度冷静に考えると、思慮の浅さに顔から火が出る思いがしました。

キスをされて嫌な顔をされる。おすぎさんはその時にどんな気持ちだったのだろう。のべつまくなしに誰とでもキスをしたい。そんなことを思うわけではなかろうに「おすぎさんが男性にキスをすること」への負担は端から考えない。

道化を演じることによって、今とは比べ物にならないほど社会の風当たりが強い中で、自らの居場所を作っていらっしゃったのか。ナチュラルに、負担なく、楽しく、その場で行動してくださっていたことを願うばかりですが、そんな簡単な分別では処理できない複雑な思いがあったのでは。そんなことを強く思いました。

もちろん、そんなことは僕などには分かりませんし、僕などがアレコレ考えること自体がおこがましい領域だとも思います。そして、この話はおすぎさんのことであって、ピーコさんはまた別の感覚があったということも多分に考えられます。

仮定の上に、仮定の城を立てる。それくらい「なんのこっちゃ」な話ではありますが、ただ、確実に言えることは、その当時の僕はとても薄っぺらだった。そのことへの恥ずかしさは、とんでもないほどにあふれてきます。

世の中は変わります。人の思いも変わります。

ピーコさんがあちらから「少しはマシになったじゃない」とお感じになるような世の中に近づけていく。それが、今もたまたまこの世にとどまっている人間がやることなんだろうなと思います。自戒とともに。

芸能記者

立命館大学卒業後、デイリースポーツに入社。芸能担当となり、お笑い、宝塚歌劇団などを取材。上方漫才大賞など数々の賞レースで審査員も担当。12年に同社を退社し、KOZOクリエイターズに所属する。読売テレビ・中京テレビ「上沼・高田のクギズケ!」、中京テレビ「キャッチ!」、MBSラジオ「松井愛のすこ~し愛して♡」、ABCラジオ「ウラのウラまで浦川です」などに出演中。「Yahoo!オーサーアワード2019」で特別賞を受賞。また「チャートビート」が発表した「2019年で注目を集めた記事100」で世界8位となる。著書に「なぜ、この芸人は売れ続けるのか?」。

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1999年にデイリースポーツ入社以来、芸能取材一筋。2019年にはYahoo!などの連載で約120組にインタビューし“直接話を聞くこと”にこだわってきた筆者が「この目で見た」「この耳で聞いた」話だけを綴るコラムです。最新ニュースの裏側から、どこを探しても絶対に読むことができない芸人さん直送の“楽屋ニュース”まで。友達に耳打ちするように「ここだけの話やで…」とお伝えします。粉骨砕身、300円以上の値打ちをお届けします。

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