人為的な景気の急激な落ち込みはその反動も大きい。今後注意すべきは政府債務の膨張と国債の動向に
総務省が5日に発表した4月の家計調査によると、全世帯(単身世帯除く2人以上の世帯)の実質消費支出は前年比11.1%減(変動調整値)で、比較可能な2001年1月以来、過去最大の減少幅となった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて緊急事態宣言が出ていた影響で減少の幅が大きくなった。
緊急事態宣言により、不要不急の外出は避け、買い物も生活必需品を中心としたものとなった。贅沢は敵だとなったわけではないが、高級レストランでの食事、旅行・レジャー先での消費なども当然ながら落ち込んだ。
米国商務省が4日に発表した貿易統計によると、輸出額、輸入額ともこの統計を始めた1992年以来、最大の下落率を記録した。
今回の新型コロナウイルスの感染拡大を受けての人や物の移動の制限もしくは停止は、世界の経済活動に大きな影響を与えた。これは当然といえば当然で、人の移動が制限され、製造や流通がストップしてしまえば、経済活動も停止状態とならざるを得ない。
ただし注意すべきは、この人と物の移動制限は、それをしなければならない事情があったにせよ、政府などが行った措置である。
以前にも指摘したが、過去の世界恐慌、リーマンショック、日本のバブル崩壊と呼ばれたものは金融システムに大きな問題があり、金融機関そのものが自壊してしまったことで、いわゆる金融市場に大きなショックを与えた。
今回のいわゆるコロナショックについては、いまのところ金融システムには大きな影響は与えていないと思われ、金融不安を誘発する可能性は低い。
今回のパンデミックはどちらかといえば、リーマンショックなどよりも、巨大地震などの自然災害ともいえるべきものに近い。人的な被害は新型コロナも巨大地震も確かに大きい。ただし、巨大地震は家や工場、さらに道路などのインフラを壊してしまうが、今回はそのようなことはなく、家も工場もインフラもそのままである。
つまりは新型コロナウイルスの人に対する脅威は存在するが、その脅威が徐々にでも後退してくれば、元の経済活動に復帰できるインフラはそのまま存在している。
新型コロナは我々の社会慣習や仕事のあり方、人との接し方など大きな変革をもたらすであろうことも確かである。それはたぶん良い意味で変化を遂げるのではないかとの期待もある。たとえば在宅ワークが増えると、少なくとも通勤時間分、人々の余裕時間も増える。
以上のことから、期待先行と言われながらも、ここにきての株価の戻りも理解できなくはない。現在の景気は確かに歴史的な落ち込みとなっているが、これは人為的に行った結果でもある点に注意すべきかと思われる。その反動もいずれくる。
そのひとつの事例として、6月5日に発表された5月の米雇用統計があろう。景気動向を映す非農業部門雇用者数が前月比250万9千人も増えた。市場では800万人程度の減少を見込んでいたが、むしろ戦後最大規模の増加となった。
景気の落ち込み度合いなどより、むしろ今後最も注意すべきことは別なところにある。景気悪化への対策として日本だけでなく海外でも大規模な経済政策が講じられ、その結果としての想定以上の各国政府の債務膨張こそが注意すべきものとなる。
5日の米雇用統計を受けて米国債は急落した。米10年債利回りは一時、0.95%と3月20日以来、2か月半ぶりの水準に上昇した。これは予想外の雇用の回復をみての株高などとともにリスクオン(安全資産からリスク資産への動き)ともみられる。しかし、政府債務の膨張による国債の増発なども当然意識された動きともいえよう。良い金利上昇と悪い金利上昇に区分けが可能かどうかはわからないが、今回の金利上昇は良い金利上昇だけで説明は難しいと思われる。
政府債務は我々の将来の税金が主な担保となるが、我々の生活が今回の政府の対策によって、膨大な政府債務を返済できるほど豊かになるという目星も当然ながらつけられない。国債は日銀が買えば済むで収まるわけがないという点にも十分、注意する必要がある。