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球界に広がる波紋! メッツ新GMに現役トップエージェントが就任?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
メッツのGM人事に関心を示していることを明言した選手会のトニー・クラーク専務理事(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 MLB公式サイトが現地26日、メッツの新GMとして現役のエージェントが有力候補の1人になっていると報じた。

 同記事を執筆したのは、メッツ担当のアンソニー・ディコモ記者だ。それによると、現役エージェントのブロディ・バンワゲネン氏がメッツ新GMの最終2候補の1人に入っており、ワールドシリーズ終了後まもなくチームから正式発表があるとしている。

 バンワゲネン氏はMLB球界でも屈指の辣腕エージェントとして知られている。米国有力経済誌『Fobes』が毎年発表している「最も力を有しているスポーツエージェント」の2018年版でも、全体の25位、野球部門で8位にランクする実力者だ。大谷翔平選手のエージェントを務めるネズ・バレロ氏と同じ『CAAスポーツ』に在籍し、同社の野球部門の中ではバレロ氏以上のコミッション(契約手数料)を稼ぐトップエージェントだ。ディコモ記者の記事によれば、メッツとしてはバンワゲネン氏が筆頭候補で、現在は彼がオファーを受け入れるかどうかにかかっているとしている。

 ここで問題になってくるのが、バンワゲネン氏が抱える契約選手の中にメッツ在籍の選手がいるということだ。それもヨエニス・セスペデス選手とジェイコブ・デグロム投手という投打の柱ともいうべき選手たちだ。これまでは選手に代わってチーム側と交渉していたのに、GMに就任することになればまったく正反対の立場になってしまうのだ。そうなるとエージェントして契約交渉に使ってきた選手の情報を、今度はチームとして利用できてしまうことになるわけだ。

 こうした状況に、早くも球界関係者から声が挙がっている。『Los Angeles Times』のビル・シャイキン記者が報じたところでは、選手会のトニー・クラーク専務理事やMLB界のトップエージェントのスコット・ボラス氏が注目しているようだ。

 まずクラーク専務理事はシャイキン記者に以下のように答え、今後の状況を注視していく考えを明らかにしている。

 「この件に関してどれだけの連絡が自分のところに届いたかについて話すつもりはない。だが選手たちがこの件に関心を寄せていることだけは間違いない。

 彼らは代理人が何らかの決断を下す状態にあるということは理解している。(GMになる)可能性が存在する限り、秘匿情報が守られる方向で理解され、受けいれられる方向で進行していくものと信じている」

 ボラス氏に至ってはさらに強い口調で、エージェントのフロント入りに疑義を呈している。

 「もしある人物が自分の息子のところにやって来て、今後君の面倒をみるから契約したいといってきたのに、今度はその人物が息子のあらゆる情報を持ったまま、今度はあるチームで働き始め、今後はその情報を使ってチーム側の人間として私と交渉する立場になったらどうだろう。自分は間違いなく狼狽するだろう」

 シャイキン記者によれば、これまでもエージェントがフロント入りしている例がある。NBAのレイカーズは昨年コービ・ブライアント氏のエージェントだったロブ・ピリンカ氏をGMに迎え、MLBでもダイヤモンドバックスが、現役引退後エージェントをしていたデーブ・スチュアート氏をGM(2014年から3年間)に招聘している。だが今シーズンのサイヤング賞有力候補の1人で、2020年オフにはFAになるデグロム投手との契約交渉を控えるメッツで、担当エージェントだったバンワゲネン氏がGMを務めることになるとすれば、やはりボラス氏のような疑念が生まれても仕方がないだろう。

 まずは週明けに発表されるというメッツの最終判断を待つしかない。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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