新型コロナウイルスでの買い占め騒動の実情を家計調査からさぐる(2020年2月分)
検証する品目
新型コロナウイルスによる感染症に関して特に世間を騒がす話の一つに、物品の買い占めで生じた品不足の問題がある。マスクは元々供給の大部分を輸入に頼っていたが(※)輸入元からの供給が事実上ストップし、国産マスクの増産は始まっているものの急増する需要には追い付かず、さらに買い占めの動きが生じて需給バランスが崩れてしまう形となった。米やティッシュペーパーなどは十分な供給があるにもかかわらず流言の類で流通が追い付かず、一時的に需要過多による品不足が発生してしまっている。今回は家計調査の結果を基に、その騒動の一端を統計上の数字から確認していくことにする。
今回検証する品目は、原則として品目分類におけるものとする。具体的には次の通り。
・米…米としての原形をとどめたもので、強化米入りも含む。米に加工を加えたものは除く。
・ティッシュペーパー…ロール状以外の薄葉紙のもの。
・トイレットペーパー…ロール状で水溶性のある薄葉紙のもの。
・ペーパータオルなど…正式な品目名は「他の家事用消耗品のその他」。家事用消耗品のうちティッシュペーパーや芳香剤以外のもの。ペーパータオル以外に除湿剤、ようじ、潤滑油、ウェットティッシュ、漂白剤など。
・石けんや消毒液…正式な品目名は「他の医薬品」。胃腸薬や栄養剤などに該当しない医薬品。石けんや消毒液以外に睡眠薬や下剤、避妊薬や鼻炎用の飲み薬、せき止めなど。
・マスク…正式な品目名は「保健用消耗品」。マスク以外に綿棒、ばんそうこう、おむつカバー、入浴剤など。
消毒液やマスクは単体としての品目が無かったため、他の品も含まれる品目を用いることから、正確さの上ではやや欠ける形となる。
また、月単位、さらには日単位での調査が実施されているのは二人以上世帯のみのため、検証は基本的に二人以上世帯に限ったものとなる。
日々の支出金額の動き
まずは日単位での支出金額を確認する。
ペーパー類ではペーパータオルなどが2月頭から支出金額が増える傾向にあったが、ティッシュペーパーやトイレットペーパーは大きな動きは無かった。ところが2月27日を境に大きな上昇ぶりを見せ、2月28日にはピークに達する。この動きはペーパータオルも同様。2月27日といえば例の「原材料が中国からの輸入品なのでトイレットペーパーなどの紙製品が不足する」との流言が生じた日であり、その流言が人々を購入行動に走らせたのが裏付けられたことになる。
米やマスクなどでは、米に関しては大きな変化は無い。ペーパー類の不足流言に合わせ、2月28日に向けてやや支出金額が大きくなっている程度。石けんや消毒液などはむしろ1月20日と2月17日に大きな支出金額が確認できる。それ以外では大体土曜から日曜にかけて支出金額が減る動きを見せている。就業時に用いるであろう鼻炎用の飲み薬が影響しているとも考えられる。
マスクなどでは期間内では1月末あたりに大きな支出金額の増加が見られるが、あとは2月28日にペーパー類の動きに合わせる形で多少ながらも盛り上がりが生じている。マスクは2月以降、購入したくても供給不足状態のため不可能な状態が続いていたことから、支出金額も上がりようがないのかもしれない。
前年同日比で検証する
今回検証対象となる品目、特にティッシュペーパーやマスクなどは、毎年春に向けて花粉症対策として購入する機会が増えるため、一連の動きも花粉症対策のためのものとの見方もできる。そこで前年同日比を差額で算出したのが次のグラフ。2020年はうるう年で2月は29日まであるため、比較対象となる2019年2月29日分は3月1日の値を代わりに当てはめ計算している。
まずペーパー類だが傾向としては支出金額そのものと同じで、ペーパータオルなどは2月頭から支出金額が増えて2月27日から大幅増、2月28日にピークを迎えている。ティッシュペーパーやトイレットペーパーは前年と変わらない動きをしていたものの、2月25日~27日から大幅増となり、2月28日にピークを迎えている。ペーパータオルなどにおいて2月頭から支出金額が増えているのは説明が難しいが、新型コロナウイルス対策としての除菌用ウェットティッシュの購入増が反映されているのかもしれない。
米やマスクなどでは特段の傾向だった変化は無し。石けんや消毒液などの1月20日と2月17日や、マスクなどでの1月末あたりの大きな支出金額は毎年のものではなく特異的なものだったことが分かる程度。1月20日と2月17日は双方とも第三月曜日のため、月一でまとめ買いするローテーションを組んでいる世帯が複数あったのかもしれない。あるいはこの日はたまたままとまった供給があり、多くの世帯で購入することができた可能性もある。
あくまでも二人以上世帯限定ではあるが、2月末に生じた紙不足の流言は、消費者の購入行動に確実な影響を与えていたことが確認できる。一方でペーパータオルやウェットティッシュは1月下旬あたりから購入の活性化が生じていたこと、マスクなども同じタイミングで購入の活性化が生じたものの、それ以降は供給力不足で購入そのものができない状態が続いていたであろうことも推測できる次第ではある。
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※マスクは元々供給の大部分を輸入に頼っていたが
日本衛生材料工業連合会の公開資料によれば、日本のマスクにおいて国内生産数は11億1100万枚、輸入数は44億2700万枚(2018年度)。
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