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短パンOK、スロープレー明朗会計。 裏表のない欧州ツアーの改革

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
欧州ツアーは練習日の短パン解禁。こんな軽快な姿が当たり前になる(写真/舩越園子)

【史上初の短パンOK】

男性ゴルファーが短パンでプレーする際、「ハイソックス着用」と決めたのは英国ゴルフだ。日本のゴルフもその慣習を受け継いだからこそ、長い間、日本のおじさんゴルファーたちは奇妙な姿でクラブを振らされてきた。

ゴルファーの服装に関する決めごとはアマチュアのみならずプロゴルフの世界にも当然設けられ、「男子プロは短パン禁止」は全世界的なドレスコードとされてきた。

しかし、欧州ツアーは、この普遍的とも言えるドレスコードをついに変更し、「短パンOK」にする見込みだ。

とはいえ「練習日とプロアマの日だけ」という条件付きではあるが、プロの試合会場で短パン姿のプロたちが勢揃いするシーンはプロゴルフ史上初の新鮮な光景となる。

猛暑の下で長いパンツを履き続けるのは、プロとはいえ、大変な我慢を強いられる。せめて練習やプロアマ戦に臨むときぐらいは「短パンだっていいんじゃない?」

選手たちから寄せられるそんな生理的欲求、いや当然の欲求に、本気で耳を傾け、そして本当にアクションを起こしたのは、世界のプロゴルフ界の中では欧州ツアーが唯一で初だ。

「ゴルフの進化を邪魔する古めかしい決まりなんて取っ払え。(短パンOKは)誰にとってもいいことだ」と興奮気味に語っているのは、個人的にも急進派で知られるイアン・ポールター。

欧州ナンバー1のローリー・マキロイも「いいんじゃない?大切なのは自分たちが快適かどうかだ。短パンを履いたからって、伝統やエチケットや選手たちの見た目を損なうことにはならないよ」。

選手会では満場一致で「短パンOK」。正式決定と発表はこれからだが、すでに決まったようなものということで、このビッグニュースは瞬く間に世界中へ伝わり始めた。

【スロープレーも明朗会計】

試合において様々な問題をしばしば引き起こすスロープレーに対しても、欧州ツアーは世界に先駆けて「モニタリング・ペナルティ」なる独自の手法を採用すると決めた。

プレーのペースが遅いと見なされた選手はルール委員がモニタリング(観察)を開始する。1つのショットに費やすことができる選手の持ち時間は40秒(同組内で最初に打つ選手はプラス10秒)だが、それを超えた場合、従来の「警告」に代わり、欧州ツアーでは「モニタリング・ペナルティ」が言い渡され、その「モニタリング・ペナルティ」を2度言い渡されたら、選手には2600ユーロ(約2840ドル=30万円超)の罰金が科される。

米ツアーでは、どんなペナルティであれ、選手に科す罰金の金額を絶対に公けにしないという鉄の決まりがある。選手自身が自分で明かすのであれば構わないとされているが、「おれ、こんなすごい罰金食らっちゃったぜ」なんて公言する選手はジョン・デーリーしかいない。

金額のみならず、罰金を科したかどうかという事実そのものも、米ツアーでは明かされないことになっている。「選手の尊厳を守るため」だそうだが、ペナルティなのだから、明かされても仕方がないし、明かすべきなのではないかと昔から疑問に感じ続けてきた。

モノゴトは隠せば隠すほど人々は首を傾げたり首を突っ込んだりしたくなる。噂や憶測も飛び交い、事態が悪化することさえある。SMAP解散騒動、然り。

裏表ありきの陰湿性を減らすため、無くすため、欧州ツアーは定義や判断が曖昧になりがちなスロープレーを数字で示し、罰金の金額も明かすことでオープン性、透明性を出していく姿勢を示しているというわけだ。

地区予選で短パン選びに気を遣っていた石川遼。ファッションリーダーの役割も増える
地区予選で短パン選びに気を遣っていた石川遼。ファッションリーダーの役割も増える

【歯切れの悪い米ツアー】

短パンに関しても米ツアーの姿勢は保守的だ。米ツアーでは猛暑の下でのキャディの短パンは許可されるが、選手の短パンは相変わらずNG。全米オープンを主催するUSGA(全米ゴルフ協会)は全米オープン地区予選においては選手もキャディも短パンを認めており、その点ではUSGAのほうがPGAツアーより少しだけ革新的だが、それでも本番の全米オープンウィークとなると、練習日も試合の日もすべて短パンは禁止。

つまり、試合の週の月火水に選手の短パンを認める今回の欧州ツアーのドレスコード変更は、かなり驚きの改革ということになる。

そう言えば、米大統領選に名乗りを上げているドナルド・トランプの数々の問題発言を重く見て、トランプ所有のコースを大会の舞台から外すことをいち早く決定したのも欧州だった。R&Aは全英オープン開催コースのローテーションからトランプ・ターンベリーを外すことをすぐさま決定し、発表した。

一方、米ツアーは米国の大統領候補の発言であるにも関わらず、欧州よりリアクションが遅れ、どこか歯切れが悪かった。

さまざまな面でテキパキと物事を決め、行動していく欧州ゴルフ界を傍目に、米ゴルフ界はまごまごしていて保守的なのは、なぜなのか。

いや、米ゴルフ界がとても保守的なのではなく、欧州ゴルフ界が非常に革新的ゆえ、その対比で米ゴルフ界の動きがスローに見えるのかもしれない。

それならば、なぜ欧州はそんなに急進的なのかと言えば、それは危機感を感じているからこその自己改革に邁進しているからだ。

強い選手がどんどん米ツアーへ、世界へと流出していく中、欧州ツアーの存続と繁栄を図るためには、母国選手に手枷足枷を加えて縛り付けるのではなく、まず欧州ツアーそのものが魅力ある舞台に変わることが先決。選手たちが出たい、戻りたいと思うようなツアーに変われば、選手たちは自ずと戻ってくる。

欧州ツアーの革新的な改革の数々は、そのための自浄努力だ。大がかりな改革じゃなくても構わない。身近なこと、小さなこと、短パン問題だってウエルカム。

まず隗より始めよ――日本のゴルフ界にも耳の痛い人は多いだろう。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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