兄のせいで「非難の的」にされている金正恩氏の妹・金与正氏
北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会のスポークスマンは24日、ペンス米副大統領が金正恩朝鮮労働党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第1副部長を中傷したとして、米国とペンス氏を非難する声明を発表した。
ペンス氏は22日、ワシントン郊外で開かれた米保守派の年次イベント「保守政治行動会議」で演説し、金与正氏のことを「地球上で最も残虐で抑圧的な体制の中心人物だ」と批判。さらに、「北朝鮮による恐ろしい人権侵害や人道に対する罪に手を貸した」ことから、米国は金与正氏を独自制裁の対象にしていると説明した。
これに対して前述の声明は、ペンス氏を「人間のくず」呼ばわりしたうえで、「われわれの最高の尊厳と朝鮮政権に悪らつな言い掛かりをつける者は、相手にする考えがない」として、米国と対話する意思がないことを強調した。実現はしなかったものの、金与正氏が平昌五輪の開会式出席のため訪韓した際、ペンス氏との会談を予定していたにもかかわらずだ。
いまや金与正氏は、金正恩氏の最側近とも言える存在になっているが、それ以前に「最愛の妹」でもある。世界が見守る中でその妹が非難されたら、金正恩氏もぶちギレずにはいられなかったのではないか。
(参考記事:金正恩氏が「ブチ切れて拳銃乱射」の仰天情報)
しかし、金与正氏が米国から制裁指定された責任は、ほかでもない、兄である金正恩氏にあるのだ。
金与正氏は、朝鮮労働党の中でも、宣伝扇動部に籍を置いていると見られる。同部は国民の思想や情報の統制を司る部署だ。北朝鮮で外部の情報に触れた人々が、拷問や銃殺を含む厳しい処罰を受けているのは、周知のとおりである。
(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…)
金与正氏が担当するのは、こうした思想統制ではなく政治行事であるとの説もあるが、米国が制裁対象とするのは的外れなことではない。
今の世の中、人権犯罪者としての容疑をかけられるということは、相当に重い意味を持つ。金与正氏が単に独裁者の血縁であるだけであれば、仮に将来、北朝鮮の体制に変化が起きた後も、彼女は平穏な人生を送ることができたかもしれない。何故なら、どのような家庭に生まれるかは、誰にも選択できないことだからだ。
しかし金正恩政権の重鎮となったことで、彼女が将来的に人権犯罪の容疑者として追及される可能性は、格段に高まったと言える。
それもこれも、彼女の祖父と父、そして兄が続けてきた恐怖政治に原因がある。正恩氏は、肉親を思うならばこの事実と向きあわなければならないわけだが、彼に果たして、そのような勇気があるだろうか。