テクノロジが社会問題を解決する
2017年、明けましておめでとうございます。
最近、優良な海外企業を取材していて感じることだが、IT/エレクトロニクス技術を使って社会問題を解決する、というテーマを掲げるところが多くなってきた。IBMやインテルやクアルコムなど最先端の海外企業は数年前から訴求してきた。世界的に共通な社会問題として、高齢化、交通事故死、がんの撲滅、駐車場の空き状況の判別などがあり、日本にも保育所問題、いじめ問題、男女/人種差別の解消など多くの社会問題がある。エンジニアはこういった問題を自分の持つ専門知識を生かして解決しようという動きがこれである。
こういった問題意識が国内でも大手IT企業が持ち始めている。NECや富士通、日立製作所はAI(人工知能:Artificial Intelligence)を使って社会問題を解決するという意識が強くなっている。NECは「Orchestrating a brighter world:もっと輝く社会に向けて調和編成する」という企業メッセージを掲げている。同社代表取締役執行役員社長兼CEOの新野隆氏は同社のホームページで「情報通信技術を用いて社会に不可欠なインフラシステム・サービスを高度化する『社会ソリューション事業』に注力しています」と述べている。富士通は、自社が開発したAIの「Zinrai」を使って、イベントなどで混雑した会場から出てくる人波を分散させるシステムを実証実験している。
日立も中央研究所の矢野和男氏が開発した、加速度計などを集積した活動計を利用して、楽しく働くグループは売り上げや生産性が最も高いことを実証している。日立の実験は、大和魂で頑張れという精神論だけで戦い玉砕したアジアでの旧日本陸軍と同じ発想のブラック企業は、生産性が上がらないことを定量的に把握できることを示したもの。新入社員の自殺者を出した大手広告代理店や、学生アルバイトを中心で成り立っている飲食産業などのようなハラスメントまがいの発想は、もはや時代遅れで、いつまでたっても生産性、売り上げは向上しないといえる。このことに気が付かない管理職や経営者がいる企業は、無駄な働きをして貴重な人材を傷つけているともいえる。
実際に先頭になって働く20代後半から30代、40代はじめの若い人たちがやる気を出して働きやすい環境を作ることが企業の生産性や売り上げを上げることを主張する経営者やコンサルタントがいたが、このことが定量的にも明確になった。これこそ、テクノロジによって、これまで定量的に数値化できなかった人間の働きたいという気持ちを表現し、その最適化を示すことができたのである。
2年前のNEWS&CHIPSでも大雪によって交通信号機が見えなくなったことに対して、LEDのような消費電力の少ない照明を使ったから悪いのだ、という声がツイッターやフェイスブックなどで散逸したが、これも間違いで、テクノロジでこの問題を解決できることを示した(参考資料1)。テクノロジを使えば、たいていのことは解決できる。逆に医療のように、従来の医療技術では解決できなかったことが半導体テクノロジで解決できる可能性は大いに高まっている。
数年前にベルギーにある半導体研究開発企業IMECを取材した時に、テクノロジが社会問題を解決すると気が付いた。IMECでは半導体を開発するはずなのに、バイオの研究をしていたため、なぜバイオの研究をしているのかを、IMECのCEOであるルック・バンデンホッフ氏に尋ねると、「がんの撲滅に半導体エンジニアは何ができるかという命題を追求してきたからだ」と答えた。がんと半導体とは何の関係もないと当時は思われていたから、この発想に驚いた。
バンデンホッフ氏の言葉をかみしめながら、「がんの撲滅」という言葉を「社会問題の解決」という言葉に置き換えると、「社会問題の解決に半導体エンジニアは何ができるか」を考えてもよいことに気が付いた。当時インテルは、半導体技術を使ってVR(仮想現実)やAR(拡張現実)を使い、アパレル商品の売り上げ向上を図れるという提案を数年前展示会などで行っていた。これが今のインテルが提案するIoTの応用に一つとなっている。彼らはIoTの主要な応用を、工業用IoTと小売商店IoTに絞っているが、はっきりと市場が見える分野といえる。民生用IoTは眼中にはない。
2016年になって、国内のNECや富士通、日立などの国内大手企業でもようやくテクノロジで社会問題を解決するというメッセージを出すようになった。動きの遅い日本企業でもこのメッセージは、2017年ますます加速するだろう。
参考資料
1. 大雪で見えないLED信号機は改善できる(2015/03/15)
(2017/01/05)