不調が続くヤンキース・田中に復活を期待していいのか?
今シーズンのここまでの成績は、14試合に登板し、5勝7敗、防御率6・34。対戦打者の被打率は.293で、被本塁打数に至ってはリーグ・ワーストの21本と厳しい数字が並ぶ。結果がすべてのプロの世界でこの成績では、メディアから非難の矢面に立たされるのも仕方ないことではある。
だが過去3年間の成績をみる限り、個人的には田中投手がエースとして確固たる地位を確立したとは思っておらず、今も理想の投球を追い求めて試行錯誤している最中だと感じている。そういう意味で考えると、現在の田中投手は“不調”というよりも、むしろ今も“過渡期”の中にいるのだと踏んでいる。
というのも田中投手がMLB移籍1年目の時から、ある仮説を立てて彼の投球を見るようにしている。きっかけは、田中投手が右ヒジじん帯を部分断裂する負傷をしたことだ。チームと田中投手がトミージョン手術を回避する決断を下したことで、それ以降の田中投手が「これまでの投球スタイルを捨て、新たな投手として生まれ変わる道を選択した」と感じたからだ。だからこそ現在も田中投手の投球内容を判断する際は、常にこの仮説を元にするようにしている。
すでにご承知のように、田中投手は負傷以降、右ヒジに負担のかからない投球フォームに取り組んできた。さらにその一方で、右ヒジの影響を考慮して登板間隔を空けようとするチーム方針の中、中4日と中5日以上の投球成績に大きな開きが出てしまうことを露呈させていった。これはつまり、楽天時代のような“力投スタイル”を続けていけば、ヒジへの負担を強いるばかりか、中4日登板では自分本来の投球ができにくいということに他ならない。否応なしに投手としての転換を余儀なくされていったわけだ。
その過程で同僚だった黒田博樹投手から、彼の持ち球だったツーシームについて指導を受けるなど、投球の組み立てを見直していった。現在の田中投手の投球を見れば一目瞭然だが、現在では球筋の綺麗なフォーシームを投げることはほとんどなく、打者の手元でボールを動かすようになっている。つまり現在の田中投手は“力投スタイル”ではなく“技巧派スタイル”の投手に近いということだ。
あくまで自分の仮説を通して現在の田中投手を捉えると、無理のないフォームから8~9割程度の力で投げ、打者の手元で動かす球のキレと制球力で勝負しようとしている。そうすれば身体の負担は少なくなり中4日登板にも対応でき、体調に左右されることなくある程度安定した投球をすることも可能になる。その理想形が、通算355勝を挙げ、殿堂入りも果たしているグレッグ・マダックス投手だろう。
実は今年4月27日のレッドソックス戦で、わずか97球で自身2度目の完封勝利を飾った際に、遂に田中投手が自分が目指してきた投球スタイルを完成させたのでは、と胸躍る気持ちになった。だがその後の彼の投球を見る限り、確かに完成に近づいているものの、まだその領域に完全に踏み入れてはいないようだ。
現在の田中投手は球のキレと制球力を失えば、簡単に抑えることはできない。楽天の時のように力一杯投げるボールなら失投でも打ち取ることもできたが、現在のスタイルでは失投のリスクは自ずと高くなってしまう。前述した被打率を見てもわかるように、自分の投球ができない時は簡単に打ち込まれてしまうのだ。
さらに追い打ちをかけるように、近年のボールの変化だ。すでに昨年10月の段階で記事にしているのだが、田中投手がNYポスト紙に語っているように、ボールが飛ぶようになったと感じているのは田中投手ばかりでなくMLB選手に共通した認識だといえる。その結果として、田中投手の失投はさらに悪い結果に繋がってしまっているというわけだ。
それでも6月17日のアスレチックス戦では、3本塁打、5失点され4回で降板したものの、対戦したのべ22人の打者から10個の三振を奪っているのだ。球のキレと制球力が整えば、十分に通用する投球なのは今もまったく変わっていない。
自分の仮説が正しければ、現在の田中投手は新たな投手に生まれ変わる最終局面にいるのだろう。ここを乗り切った時こそ、MLBを代表するような技巧派投手になるような気がしている。その瞬間が1日も早いことを祈っている。