ルメール騎手と国枝調教師、ジャパンCがラストランとなるアーモンドアイを語る
現役最後の追い切りを語る
25日朝、美浦トレーニングセンターでアーモンドアイが追い切られた。2017年8月にデビューして以来、3年と少し。これが現役生活最後の追い切り。今度のターゲットは29日、東京競馬場で行われるジャパンC(G1)。すでにJRAの所属馬としてはレコードとなる8度のG1勝利を記録している彼女が、ラストランで更なる記録更新を目指して最後のスプリングボードを踏み切った。
「3頭併せの最後方から行って、フィニッシュは気持ち前へ出る程度。68を少し切ったくらいだけど時計云々より『手応えだけ確かめて』と伝えました」
いつものようにスタンドからこの様子を見守った調教師の国枝栄は、そう口を開くと続けた。
「見た目にも良い追い切りが出来たと思います」
異口同音に語るのが、手綱を取ったクリストフ・ルメール。天皇賞(秋)(G1)を優勝した前走時と比較して、言った。
「とてもファインでした。前走と比べても何も変わっていない。それどころかますますパワーアップしていると感じました」
その言葉を受けて、国枝が続ける。
「クリストフが喜んでくれる状態にして渡すのが我々の仕事。そういう意味ではすごく良かったと思います」
時々出遅れるスタートや有馬記念の敗因となった折り合いに対する不安に関してはかぶりを振って力強く答える。
「ゲート練習は全く問題ありません。折り合いに関してもクリストフは追い切りでかなり注意して乗ってくれているので大丈夫でしょう!!」
ライバルは若き3冠馬たちか?
これまでも数々の好敵手を破ってきたアーモンドアイ。今回、胸を借りるのか立ちはだかるのか、若き新たな3冠馬2頭がエントリー表に名を連ねる。今年、日本ダービー(G1)を含むクラシック3冠を父ディープインパクトに続き無敗で制したコントレイル。菊花賞(G1)ではアリストテレスを駆って新たなる3冠馬にクビ差まで迫ったルメールは吐露する。
「最後の直線で『行けるかな?!』と思ったのは一瞬でした。こちらが伸びるとコントレイルも伸びる。いつまで経ってもその差が縮まる気配はありませんでした。着差以上に完敗でした」
現役最強の呼び声も高いアーモンドアイにとっても、怖い相手になりそうか?と聞くと、首肯して即答した。
「勿論です。コントレイルはここまで負けていない。パーフェクトの成績を残しています。怖い存在なのは間違いありません」
指揮官も同意する。
「コントレイルは最もディープインパクトに似ている気がします。完璧なレース運びをされたらうちのもミスなく行かないと厳しくなるでしょうね」
そしてもう1頭、JRA史上初の無敗の3冠牝馬、すなわちデアリングタクトについても語る。
「うちのアーモンドアイが一昨年優勝して、カレンブーケドールが昨年2着ですからね。3歳牝馬といえ、トップクラスの馬が53キロで出られるのは大きいでしょう」
「その通り」と鞍上も口を揃える。
「万事休すと思えたオークスで見せた瞬発力は凄かった。あんな脚を使える馬が53キロで出て来られるのだから脅威の存在です」
リーディングジョッキーのデアリングタクトに対する言葉は更に続く。
「秋華賞では春当時より落ち着いていました。馬が完成してきているように見えました。デアリングタクトも負けていない馬。コントレイルも怖いけど、切れ味という意味ではむしろこちらの方が怖いかもしれない。そう思っています」
ラストランへ向けたそれぞれの想い
最後にもうひと言ずつ。
3強対決ばかりとは言えないと語ったのは国枝だ。
「今年は馬場状態や展開が読み辛い。前評判通り決まらない可能性も充分にあると思っています。とくにうちのカレンブーケドールは2着した昨年よりずっと成長していてどっしりしてきました。昨年はまだ頼りない感じが残っていたけど今はそんな事はないので、秘かに期待しているんですよ」
また「最終追い切りは楽しみながら乗った」というルメールは次のように言ってしめた。
「追い切りに乗るのはこれが最後という事で、一瞬一瞬を味わいつつ楽しみながら乗りました。でも同時に気持ちはアーモンドアイに集中しました。結果、間違いなく良い状態だと感じました。とにかくこれがラストラン。まずは無事に走り終えて、その上で好結果となるようエスコートしたいです」
アーモンドアイがラストランを飾り女王の座を守るのか、はたまたコントレイルかデアリングタクトが世代交代の狼煙をあげるのか、それともカレンブーケドールなどアッと驚くダークホースが飛び出すのか。29日の日曜日、午後3時40分、歴史に残る大一番のゲートが開く。
(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)