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飛行中にエンジン停止させようとした殺人未遂の非番パイロット 動機や家族は?人物像が明らかに

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
アラスカ航空機のイメージ写真。(写真:ロイター/アフロ)

アメリカで非番のパイロットが航空機の飛行中にエンジンを停止させようとし、緊急着陸する事件が起きた。

22日、非番だったアラスカ航空のパイロット、ジョセフ・エマーソン(44)は2059便(傘下のホライゾン航空が運航)に搭乗し、コックピットのジャンプシート*に座っていた。

  • *ジャンプシート:コックピットの後方に設置されている席。航空機を操縦していないパイロットに加え、別の空港に移動する非番のパイロットも利用が認められている。2001年9月に発生した米同時多発テロ以降、コックピット内にはパイロット職のみが入室を許可されている。

同機がワシントン州エベレットからカリフォルニア州サンフランシスコへ飛行中、エマーソンは突然機体のエンジンを司る装置(ハンドル)に手を伸ばし、エンジン停止を試みようとした。しかし機長と副操縦士がエマーソンの手首を掴むなど迅速に対応し、エンジン出力は失われずに済んだ。約30分の格闘の末、コックピットから追い出されたエマーソンの異常行動はその後も続いた。機体が降下中、機内後方で非常口のハンドルを掴もうとしたことも目撃されている。

同便は予定を変更し、午後6時30分ごろにオレゴン州のポートランド国際空港に緊急着陸した。乗客乗員は全員無事だった。

一歩間違えば大事故に繋がる恐れがあったこの事件。エマーソンは翌23日、83件の殺人未遂、83件の無謀危険行為、1件の航空機危険行為、計167件の罪で起訴されたとFOXニュースなどが伝えた。

24日、ポートランドのマルトノマ郡裁判所に出廷し、不安な表情を見せるエマーソン被告(写真奥)。
24日、ポートランドのマルトノマ郡裁判所に出廷し、不安な表情を見せるエマーソン被告(写真奥)。写真:代表撮影/ロイター/アフロ

エマーソン被告がどのようなパイロットだったのか、プロフィールが明らかになりつつある。

被告は20年以上の経験を持つパイロットだった。2001年8月にホライゾン航空の副操縦士としてアラスカ航空グループに入社。12年にはパイロットとしてヴァージン・アメリカ航空に転職したが、16年にアラスカ航空がヴァージン・アメリカ航空を買収後、アラスカ航空の副操縦士になり、19年に機長に昇格した。

また別のFOXニュースでは、良き父親の一面も窺える。被告は妻と2人の子がおり、カリフォルニア州プリーザントヒルの一軒家に5年ほど住んでいた。近所の人の話では「典型的なごく普通の人」「近所で会うと気軽に手を振り笑顔で挨拶をするような人物」だったようだ。息子が加入する野球チームでコーチを務めたり近所の人を誘って裏庭でパーティーを開くなど、子煩悩で家庭的な一面を持ち合わせる良き父親像が浮かび上がる。

翻って州検察が提出した宣誓供述書によると、事件当日の被告は「自分がすべてを台無しにした」「全員を殺そうとした」などと発言していたのが目撃されている。CNNによると、被告はこの日「夢を見ていた」と証言し、「航空エンジンの燃料を供給するシステムのハンドルを引くと“目が覚める”と信じていた」と語ったという。

被告は事件を起こす48時間前、幻覚を起こす薬物、マジックマッシュルーム(幻覚キノコ)を摂取したと供述した。友人を亡くし、半年前からうつ状態で、睡眠障害があり、事件を起こす前の40時間眠りにつくことができなかったようだ。

一方健康診断はどうだったのかというと、前述のCNNによれば、40歳以上のパイロットは6ヵ月ごとに診断が義務付けられており、被告はつい先月、FAA(連邦航空局)の健康診断を受け、最高レベルの健康診断証明書を受け取っていたことが記録に残っているという。

アラスカ航空の発表では、被告はこれまでパイロット資格が取り消されるなどの問題行動はなかった。

不明点が多いこの事件。FBIとポートランド警察などが動機の解明を進めている。

(Text by Kasumi Abe)本記事の無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、著名ミュージシャンのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をニューヨークに移す。出版社のシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材し、日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。

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