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日銀の氷見野副総裁の講演より

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 日銀の氷見野副総裁は8月28日の山梨県金融経済懇談会において次のような発言をしていた。

「わたしどもがいま進めているのは、長年続けてきた非伝統的な政策の手じまいと、伝統的な手段である短期の政策金利の調整の2つです」

 現在、日銀が進めているのは、国債買入減額など長年続けてきた非伝統的な政策の手じまいと、マイナス金利解除とその後の利上げなど、伝統的な手段である短期の政策金利の調整と指摘した。

 つまりこれは金融政策の正常化を進めていることに他ならない。

「日本銀行のスタッフや内外の研究者の実証分析では、各種の非伝統的な政策は景気や物価に対して一定の効果を有した、というのが概ね共通した結果です」

 これについては意見は分かれるのではないかと思う。少なくとも2022年4月までは、非伝統的手段まで用いた大胆な金融緩和策を講じても、物価目標は達成しなかったという事実がある。

「一方、非伝統的な手段は、金融機関の行動や金融市場の機能にゆがみを与えるといった副作用も伴いました」

 これはたしかであり、特に債券市場にとっては市場機能への影響は極めて大きくなっていた。株式市場でも日銀によるETFの大量の買入による影響も当然あった。間接的に外為市場にも影響を与えたこともたしかである。

 非伝統的金融政策の波及経路についても、さらに考えてみるべき問題があるように思いますとして、次のような指摘をしていた。

「資金調達コスト低下を経由して経済を押し上げただけではなく、株価上昇や為替相場を経由しての波及も相応に大きな役割を果たしていた」

 これは上記の「ゆがみ」にも通じるものとなろう。

「いわゆるゼロ金利制約に直面していた時代の金融政策の波及については、株価や為替相場や不動産価格といった資産価格の変動による経路の役割もそれなりに大きかったらしいことが窺われるわけです」

 これはプラス面もあったかもしれないが、1980年代後半のバブル期と似た構図となってはいまいか。

「量的・質的金融緩和が始まる前年である 2012年の資産価格についてみてみますと、日経平均が8000円台まで低下、ドル円レートは70円台まで円高が進行した」

 これは外部要因(欧州の信用不安)によるところが大きく、日銀が適切な金融政策をしなかったとかいうことが原因ではなかった。量的・質的金融緩和などしなくても、円高調整は起きて株価は回復していたはずである。これは米国株式市場の動きなどみればわかる。

全体的な評価としては、「伝統的な手段が限界に達した時の備えとして、非伝統的な手段も道具箱には入れておかなければならないが、伝統的な手段で目的を達せられる場合には、あえて非伝統的な手段を動員するにはあたらない」というのが諸外国も含めた定説となっているように思います。

 これについては、その通り、というほかない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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