W杯に間に合うか? チュニジア戦で露呈した問題の本質は、守備ではなく攻撃にあり【チュニジア戦分析】
チュニジアにショッキングな敗戦
6月シリーズ4連戦の最後の試合となったチュニジア戦は、後半に3失点を喫した日本が0-3で敗戦を喫することとなった。
チュニジアはカタールW杯に出場するチームとはいえ、最新のFIFAランキングでは日本の23位に対して35位。しかもヨーロッパの主要リーグでプレーする有名選手はひとりもおらず、戦力的に日本を上回っているわけでもない。
そんなチュニジアに対し、2週間前のブラジル戦を1失点でしのいだ日本が3ゴールを奪われたうえ、1ゴールも決められなかった。チームにとってもファンにとっても、ショッキングな敗戦になったことは否めない。
しかし、ブラジル戦がそうだったように、スコアと試合内容は必ずしも一致しないのがサッカーという競技の特性だ。しかも目標のW杯本大会を見据えた場合は、結果よりも内容をよく見ておく必要がある。
とりわけ今回対戦したチュニジアは、日本がW杯第2戦で対戦することが決定したコスタリカと似て、堅守が特長のチームだ。その意味で、グループリーグ突破のためには勝ち点3を獲得しなければならないコスタリカ戦のサンプルとして、今回の試合を振り返ってみる。
まず、森保一監督は、キリンカップのタイトルがかかった決勝戦というのもあり、予想どおり、ブラジル戦で先発したレギュラー組をベースにスタメンを編成した。
GKは権田ではなくシュミット・ダニエル、DFは右から長友佑都、板倉滉、吉田麻也、そして負傷の中山雄太に代わって伊藤洋輝が左SBに。中盤はセンターに遠藤航、右に原口元気、左には田中碧ではなく鎌田大地をチョイス。前線は右に伊東純也、左に南野拓実、1トップには古橋亨梧に代わって浅野拓磨の3人を配置。布陣は4-3-3だった。
それに対し、チュニジアを率いるジャレル・カドリ監督も、4日前のチリ戦と同じ4-3-3を採用。ただし、チリ戦で1トップを務めたシャドリをケニシ(11番)に、左ウイングのスリティをムサクニ(7番)に、そして右CBのカンドリをイファ(2番)に変更し、スタメン3人を入れ替えて日本に挑んだ。
日本が喫した3失点をどう見るか
この試合を振り返る時、最初に着目すべきは、3ゴールを献上した日本の守備だろう。果たして、この試合の日本には3失点に値する守備の綻びがあったのか。
この試合の前半で、チュニジアが記録したシュートは5本。そのうち枠内シュートは2本で、もっとも惜しかったのは、立ち上がり4分のショートコーナーでアリ・エラブディ(4番)が入れたクロスにフェルジャニ・サシ(13番)が頭で合わせたシーン。それ以外のシュート3本は、いずれも遠めから狙った可能性の低いミドルシュートだった。
また、前半で日本が自陣ペナルティーエリア内に進入を許したのは2回。相手のスローインから右サイドを突破された3分のシーンと、中央から左に展開されたあと、モハメド・ドレーガー(20番)にアーリークロスを入れられた24分のシーンだ。
ただし、3分のシーンは長友がコーナーに逃れ、24分のクロスはゴール前に戻った板倉がヘディングでクリアしており、いずれも決定的なピンチと言えるものではなかった。そういう意味では、前半は日本が無失点に相応しい守備ができていたと言える。
では、3失点を喫した後半の守備はどうだったかというと、実は後半のチュニジアのシュートは3本だけだった。つまり、3本すべてがゴールに結びつく、とても珍しい現象が起きている。
55分の1失点目は、右センターバックのビレル・イファ(2番)が右サイドに入れたロングフィードに対し、競り合おうとして前に出た伊藤が右ウイングのアニス・ベン・スリマン(25番)と入れ替わってしまい、前を向いたベン・スリマンが吉田麻也の背後を狙うタハ・ヤシン・ケニシ(11番)にスルーパス。
ここで焦った吉田が自陣ペナルティーエリア内でスライディングしてケニシを倒してしまい、先制ゴールにつながるPKを与えた。
76分の2失点目は、相手ペナルティーエリア内の間接フリーキックをGKがロングキックすると、そのボールに対して吉田、板倉、シュミット・ダニエルが譲り合ってしまった一瞬の隙を突かれ、ボールを回収したユセフ・ムサクニ(7番)のパスをサシ(13番)がゴール。
そして後半アディショナルタイムの3失点目は、吉田から三笘薫に入れたパスがずれたところを、最終的にイサム・ジェバリ(17番)に回収されて、そのままドリブルシュート。ペナルティーエリア手前から放った強烈なミドルシュートがダメ押しゴールとなった。
しかしながら、1失点目につながるPKを与えたシーンは、吉田の背後で板倉がしっかりカバーに入っており、焦った吉田の個人的な判断ミス。2失点目も連係不足による偶発的な失点であることを考えると、再び起こる可能性は低い。3失点目にしても、2点のビハインドを追うべく前がかりになって与えてしまったゴールだった。
要するに、いずれの失点も日本の守備システムの構造的な問題が原因とは言えず、少なくともブラジル戦で露呈したような守備戦術の破綻はなかった。
実際、後半に日本が自陣ペナルティーエリア内に進入を許したのは、1失点目と2失点目のシーンの2回だけで、それ以外はほとんどチャンスらしいチャンスを作らせなかったというのが実際のところだった。
もちろん、W杯第2戦のコスタリカ戦を想定すると、今回のチュニジア戦と似たような試合展開が予想されるため、同じ過ちを繰り返さないことが勝つための絶対条件になるが、コスタリカ戦のために守備を修正するほどの問題は見当たらなかった。
本大会用の戦い方は不透明なまま
この試合で浮き彫りになった問題は、堅守の相手に対してどのようにしてゴールを奪うのか、という攻撃面にあった。
まず、この試合の前半で記録したシュートが1本もなかったこと。もちろん、35分に伊東純也のクロスを鎌田が空振りしてしまった決定機はあったが、それでも57.7%のボール支配率を誇りながら、シュート0本は問題だ。
この試合では、南野が左ウイングで先発したこともあり、左サイドで幅をとる役割を担ったのは左SBの伊藤だった。
両チームが積極的に前からプレスを掛け合った立ち上がり15分のなかで、日本はこの立ち位置を利用して左サイドを攻略。南野が内側から斜めに走り、そこに伊藤がパスを供給して、南野が左ポケット(ペナルティーエリア内の左サイド)をとってクロスを供給するシーンが、6分、9分と2度続いた。
逆に右サイドは、いつものように伊東が幅をとり、右インサイドハーフの原口元気が内側のエリアを担当。10分には、伊東が外から斜めにパスを供給し、原口が右ポケットをとってクロスを供給している。
ポケットの攻略は、ゴールをこじ開けるための有効な手段だ。そういう意味で、立ち上がりの日本は、シュートには至らなかったが、攻撃の糸口らしきものを見出していたかに見えた。
ところが、チュニジアが前からのプレスを止めて、4-5-1の陣形でブロックを形成するようになった15分以降、有効な手段に見えたポケット攻略はすっかり影を潜めている。
結局、前半はくさびの縦パスも2本しか記録できず、前半のラスト10分間でクロス5本を供給したのが精一杯。そのうち4本が右サイドの伊東によるものだったことを考えると、4-3-3に布陣変更して以降のアジア最終予選の戦いと同じような手詰まり状態に陥っていたと言わざるを得ない。
日本の攻撃に変化が見られるようになったのは、1点のビハインドを背負ったあと、浅野拓磨を下げて古橋亨梧を、鎌田を下げて三笘を起用した60分以降のことだった。
ここから日本の布陣は明確な4-2-3-1に変化し、トップ下に南野が移動。伊東と三笘が幅をとり、中央の2人(古橋、南野)にボールを受けるスペースが生まれた。
60分以降、それまで4本しかなかったくさびの縦パスが7本に増加。サイドからのクロスも、4本から8本に倍増し、シュート数も1本から5本に増えている。
その傾向は、右ウイングに堂安律、トップ下に久保建英を投入した71分以降も変わらなかった。チュニジアがリードを守る戦い方に変化したにせよ、後半の日本のボール支配率も67.8%にアップした。
もっとも、4-2-3-1に布陣変更したところで、効果的な攻撃ができていたかと言えば、そうではなかった。パラグアイ戦、ガーナ戦でもそうだったように、日本の攻撃はピッチに立つ選手のアドリブに委ねられているため、一定のレベル以上の相手に対してはほとんど通用しないことは、過去の例からも実証済みだ。
「4-1-4-1から4-2-3-1に変える部分は、選手に私から指示をするなど、選手たちが対応できるように試合展開によって準備しなければいけない」と、森保監督が試合後に振り返ったように、 そもそもチームとして明確に布陣変更の意図と運用方法を共有できていないのが現状だ。
ドイツ戦、スペイン戦を想定したブラジル戦でも手応えは得られず、パラグアイ戦、ガーナ戦、そしてチュニジア戦でも、攻撃面で課題ばかりが残った森保ジャパン。
4-3-3を基本布陣にしたいという意図は見て取れたが、攻撃的に出なければならない戦況で、どの選手によってどの布陣を採用するのか、残念ながら、いまだはっきりしていない。
9月に予定される2試合で、本当に本番用の戦い方を明確化できるのか。現状を見る限り、不安材料だけが山積する。
(集英社 Web Sportiva 6月17日掲載・加筆訂正)