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被災地での授乳は赤ちゃんの栄養を第一に

成田崇信管理栄養士、健康科学修士
(写真:アフロ)

被災地での母乳育児の支援について気になる事がありましたので言及したいと思います。

■完全母乳に拘る必要はあるのか

被災地での安全な食料確保はたいへん重要な課題ですが、特に体に十分な栄養を蓄えることができない小さい子どもであれば、食事の不足は健康や生命にも影響をおよぼしてしまいます。特に乳児では母乳や育児用ミルクが与えられなければ、すぐに脱水やエネルギー不足となり危険な状況になりかねません。

母乳は赤ちゃんの生命線であり、衛生状態の確保が難しい状況では、消毒などの手間が少なく安全に提供できる栄養としてとても素晴らしいものです。被災地で安心して授乳ができるよう、授乳スペースの確保や物資の提供、授乳婦への十分な食事の提供などの支援はとても大切です。

しかしながら、こうした援助活動の中には、素晴らしい母乳を推奨しようという気持ちから、完全母乳に拘りすぎているように見える支援もあるように思います。

子どもは完全母乳で育てたい、その気持ちはわかるのですが、母乳育児自体は子どもの健康よりも優先されるものではありません。あくまでも栄養を与える手段であるというのは忘れてはならないでしょう。

普段であれば十分な母乳が出る人であっても、被災によるストレスや食事、水分の不足で母乳の出が悪くなることがあるかもしれません。母乳が不足気味の時には完全母乳に拘るよりも混合栄養で良いのですよ、というメッセージが必要なのではないでしょうか。

乳児の平均的なほ乳量は1日あたり780mlほどとされておりますが、十分に母乳を飲めない場合には容易に脱水になってしまいます。また、栄養が不足すると体の免疫を維持する機能も低下をしてしまいますので、いくら母乳に感染を予防する効果があっても過信は禁物です。

■母乳も人工栄養も子どもを育てるための手段です

赤ちゃんがお腹を空かせていて母乳が十分でないかも、という場合には人工栄養(育児用ミルク)を選択肢に入れて欲しいと思います。混合栄養であることに罪悪感を持つ必要はありません。

また、避難所などではお母さんが具合が悪くなり、母乳を与えるのが難しくなることもあるでしょう。そうした時に無理をして更に体調を崩し、深刻な病状になれば授乳どころではありません。人工栄養は母親だけでなく、家族や周囲の人も子どもへ栄養をあげる事ができるというメリットがあります。

赤ちゃんにとって必要な栄養を提供するためには・・・という視点を第一に考えて頂く参考になれば幸いです。

管理栄養士、健康科学修士

管理栄養士、健康科学修士。病院、短期大学などを経て、現在は社会福祉法人に勤務。ペンネーム・道良寧子(みちよしねこ)名義で、主にインターネット上で「食と健康」に関する啓もう活動を行っている。猫派。著書:新装版管理栄養士パパの親子の食育BOOK (内外出版社)3月15日発売、共著:謎解き超科学(彩図社)、監修:すごいぞやさいーズ(オレンジページ)

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