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マウイの大火、ハワイ州史上最悪の自然災害に なぜ被害が広がったか

森さやかNHK WORLD 気象アンカー、気象予報士
(提供:Dustin Johnson/ロイター/アフロ)

マウイ島を襲った大火による死者数が67人となり、1959年にハワイが州となって以降で最悪の自然災害となってしまいました。

ハワイはまさに楽園で、ハリケーンが上陸することは滅多になく、火山が噴火しても大規模な人的被害が出ることはまずありません。

ハワイが州となって以降で多くの犠牲を出した自然災害といえば、1960年の大津波で、この時は61人が亡くなりました。

現在のところ、マウイの大火で67人が亡くなったと伝えられていますが、火災から3日たった今でも1,000人近くが行方不明となっていて、多くは逃れたと信じたいですが、死者数はさらに増加するだろうと囁かれています。

火災が起きた直接の原因は、まだ分かっていません。アメリカで起こる山火事の原因の85%は人という統計がありますが、それはこれから捜査が行われることでしょう。

山火事の背景

では一体、なぜこれほど被害が拡大したのでしょうか。

【干ばつ】

もともと8月はハワイの乾季にあたりますが、マウイ島は今月ことさら雨が少なく、島の16%が深刻な干ばつ状態にありました。1週間前までは5%でしたから、急激に乾燥が悪化したことになります。

【ハリケーンと高気圧】

そのうえで、ハワイの南、約1,000キロを猛烈なハリケーン「ドラ」が通過していきました。この時中心気圧は約960hPaでした。一方で北には中心気圧約1030hPaの高気圧が居座っていて、ハワイはこの極端な気圧差に挟まれ、強風が吹き荒れていました。

左:U.S. Drought Monitor、右:NASA出典の図に筆者加筆
左:U.S. Drought Monitor、右:NASA出典の図に筆者加筆

【地形とタイミング】

ラハイナの東にはウェストマウイ山があります。風はこの斜面を駆け下りさらに強まって乾燥し、風速は一時ハリケーン並みの36メートルにも達したといわれています。しかもとりわけ風が強まったのは、人々が就寝している深夜のことでした。

【警報なし】

炎が一気に広がる中、人々はどこに逃げていいやら分からず、ある人は海に飛び込み、またある人は車を走らせました。海で7時間浮かんで助かった人もいれば、黒焦げの車内から見つかった遺体もあります。

被災した人々が口々に言うのは、「当時、警報も出ていなかったし、サイレンも鳴らなかった」ということです。この犠牲は政府の不作為によるものだと非難する人たちも少なくありません。

【外来種と木造建築】

こうした気象条件や情報の不伝達に加え、近年、火災が起こりやすい環境ができていたことも事実です。

WIREDの記事によれば、ハワイはもともと山火事が多く起こるようなところではなかったのですが、18世紀にヨーロッパ人がやってきて燃えやすい外来種の植物を持ち込んで以来、州全体の26%を覆ってしまったといいます。

しかもラハイナは、ハワイ王国の首都で、貴重かつ伝統的な木造建築が立ち並んでいます。つまり、燃えやすいものが一面にあるのですが、そこに過度な観光ブームで建物が所せましと並び、火の延焼が食い止めづらい環境にあったということが考えられます。

【気候変動】

加えて、近年ハワイは雨が減っており、1920年から2012年までにかけては州の9割が乾燥傾向にあるというデータもあります。しかも近年ハワイに近づくハリケーンが増えているのも事実です。

激しい気象現象が増え、災害の発生が不可避となっている今において、警報伝達の整備や防災意識の向上などで身を守ることが必要となっていくのは言うまでもありません。

希望のシンボルツリー

この悲劇の中で、一つ朗報があります。

ラハイナのシンボルである樹齢150年の巨木バニヤンツリーが、あの悲惨な火災の中も燃えずに残っているそうです。

下がその動画です。ススで黒くなっている、或いは一部は焦げてしまったのかもしれませんが、こうして堂々と立っていることに、希望の光を見るようです。

被害に遭われた方に心からのお悔やみを申し上げるとともに、ラハイナが復興し、人々に笑顔が戻る日が来ることを願ってやみません。

NHK WORLD 気象アンカー、気象予報士

NHK WORLD気象アンカー。南米アルゼンチン・ブエノスアイレスに生まれ、横浜で育つ。2011年より現職。英語で世界の天気を伝える気象予報士。日本気象学会、日本気象予報士会、日本航空機操縦士協会・航空気象委員会会員。著書に新刊『お天気ハンター、異常気象を追う』(文春新書)、『いま、この惑星で起きていること』(岩波ジュニア新書)、『竜巻のふしぎ』『天気のしくみ』(共立出版)がある。

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