今年からハリケーンの命名ルールが変更に「ギリシャ文字」は使わない
「1号」「2号」「3号」…と、無機質に番号(※1)で呼ばれる日本の台風と異なって、ハリケーンの名前は色とりどりです。「マイケル」に「ローラ」、「テディ―」に「マリア」と、親しみのある人名で呼ばれます。
ハリケーン(※2)に名前を付けるという習慣は、アメリカでは1950年代から始まりました。はじめは気象官が、その奥さんや彼女の名前をハリケーンに付けて呼び始めましたが、その後男女平等の観点から男性名が加わりました。現在は世界気象機関(WMO)が命名を担当していますが、今年はその命名ルールのうち1つを変更するようです。
まず、これまでのハリケーンの命名規定を簡単に紹介しましょう。大西洋に発生するハリケーンが対象です。
- 交互に男性名と女性名が並ぶ。
- アルファベット順に並ぶ。ただしQ、U、X、Y、Zから始まる名前はない。
- この21個の名前を使い果たしたら、ギリシャ文字を使用する。
何を言っているかを示すために、2020年に発生したハリケーンの名前リストを下に添付しました。男女名が交互に現れ、それらが基本的にアルファベット順に並んでいます。そして22個めからはギリシャ文字が出現しています。
ギリシャ文字が使われたのは、史上2例目のことでした。去年は観測史上最多となる30個のハリケーンが発生してしまったためです。
ギリシャ文字の問題点
しかしギリシャ文字を使ったところ、ある問題が発生しました。それは発音です。
特に問題だったのが、ギリシャ文字の6、7、8番目です。それぞれ「ゼータ」「イータ」「シータ」、アメリカ英語の発音でも、「ゼイタ」「エイタ」「セイタ」となります。あまりにも似ていて、利き手も伝え手も、ちんぷんかんぷんになってしまったのです。
こうした理由などから、WMOは今年からギリシャ文字の使用をやめると決断しました。そのかわりに、アルファベットをもう一巡する名前リストを用意したのです。下の左表が正規の名前リスト、右表が新たに加わった非常時用のリストです。
ハリケーンにディズニー・キャラクター登場
ちなみに2021年の正規の名前リストをよく見ると、予報官の粋な遊び心を見つけることができます。なんと「アナ」に「エルサ」と、ディズニー映画『アナ雪』のキャラクター名が、しれっと加えられているのです。ディズニーは気象官の心も掴んでしまったようです。
来年以降にも、とある変化
さて、来年以降にもハリケーンに関する変更がありそうです。それは、ハリケーン・シーズンの前倒しです。
これまで大西洋のハリケーン・シーズンというのは、6月1日から10月31日とされてきました。それ以外の時期には、専らハリケーンが発生しないからです。ところが、昨今は海水温の上昇などによって、しばしば5月からハリケーンが発生しています。2000年からだと11個が5月に発生しているのです。
そこでWMOは、近い将来に正式なハリケーン・シーズンの開始日を2週間前倒しの5月15日とするよう調整を進めているようです。
ハリケーンに煩わされる期間が延びるなんて、さぞや気象官も泣きたい気持ちでしょう。
※1: 国際的には台風にも名前が存在します。
※2: 厳密には「ハリケーン(最大風速34m/s以上)」のみならず、それより一段階弱い「トロピカル・ストーム(最大風速17m/s以上33m/s以下)」にも名前が付けられます。