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「アンドルー王子は性的人身売買の犠牲者であることを知って性行為に及んだ」性接待を強いられた女性が訴え

木村正人在英国際ジャーナリスト
アンドルー英王子との性行為を強いられたバージニア・ジュフレさん(中央)(写真:ロイター/アフロ)

「権力者や金持ちでも責任を問われることから逃れられない」

[ロンドン発]米富豪ジェフリー・エプスタイン被告=自殺 =による少女への性的虐待事件に関連して、被告と親交があったアンドルー英王子(61)=王位継承順位9位=から性的虐待を受けたとして当時17歳だったバージニア・ジュフレ(旧姓ロバーツ)さん(38)が米ニューヨークの連邦裁判所に7万5千ドル(830万円)の損害賠償訴訟を起こしました。

エプスタイン氏が多数の少女を囲っていたハーレムのメンバーだったバージニアさんは17歳だった2001年、ロンドンのタウンハウス、米マンハッタンにあるエプスタイン氏の邸宅、カリブ海のプライベートアイランドで3回にわたってアンドルー王子と性交を強いられたと主張しています。ニューヨーク州法では18歳未満との性行為は違法とされています。

メディアへの声明でバージニアさんは次のように述べています。「権力者や金持ちでも自分の行動に対して責任を問われることから逃れられない。他の犠牲者たちも沈黙と恐れの中では生きられないと気付くことを願っている。人間は声を上げて正義を求めることによって自分の人生を取り戻すことができる」

「私はアンドルー王子を訴えるという決定を安易にはできなかった。母として妻として家族が一番大事だ。この行動により、アンドルー王子とその代理人によってさらなる攻撃を受けることになることを私は知っている。しかし、私がこの行動を起こさなければ、いたるところにいる犠牲者を失望させるだろう」

エプスタイン氏は2019年に勾留中に自殺。昨年7月、元彼女の英社交界の名士ギレーヌ・マクスウェル被告を逮捕しました。これまで一貫して疑惑を否定してきたアンドルー王子は提訴に対し今のところ沈黙を守っています。しかし持ち時間は提訴から21日間。何もしなければ自動的にバージニアさんの勝訴が確定します。

16歳で「性の奴隷」としてリクルートされる

エプスタイン氏の性的人身売買がどのようにして行われたのか、15ページの訴状から事件を振り返ってみましょう。

・バージニアさんは16歳だった00年から02年にかけ、エプスタイン氏による性的人身売買と虐待の犠牲者だった。エプスタイン氏は億万長者にマッサージを提供するだけで200ドル(約2万2千円)が支払われると言って若い女の子を募集した。同じパターンで何人もの子供や若い女性がリクルートされた。

・エプスタイン氏は1999~2007年、米フロリダ州パームビーチの邸宅、アメリカや海外の他の場所で30人以上の未成年の少女を性的に虐待した。エプスタイン氏は自分だけでなく他の権力者にも少女を性的に虐待するように勧めていた。有給の従業員を使って未成年の女の子を見つけては邸宅に連れて来させた。

・バージニアさんも他の未成年者を同じように最初はマッサージを提供するために、そしてその後エプスタイン氏に対するさまざまな性的行為に従事するためにリクルートされた。バージニアさんはエプスタイン氏の要求に応えるために国内外の旅行に頻繁に同行した。エプスタイン氏に定期的に虐待され、性的な目的で他の権力者の男性に貸し出された。

仲介役は英社交界のご令嬢

・バージニアさんが性的目的で貸し出された権力者の一人がアンドルー王子だ。アンドルー王子は英メディア王ロバート・マクスウェル氏(故人)の娘で英社交界の名士ギレーヌ氏と親しかった。ギレーヌ氏は何年にもわたってエプスタイン氏の性的人身売買ネットワークの監督と管理を担当し、バージニアさんを含め少女を積極的にリクルートした。

・アンドルー王子は99年にギレーヌ氏を通じてエプスタイン氏と知り合った。その後、バージニアさんを性的に虐待した米ニューヨーク市のエプスタイン氏の邸宅やギレーヌ氏が所有するタウンハウスなど世界中にあるエプスタイン氏の邸宅に頻繁にゲストとして招かれるようになった。

・エプスタイン氏の性的人身売買活動の範囲を知らなかったように装って犠牲者への同情を示したあと、アンドルー王子はエプスタイン氏と共謀者らに対する捜査と起訴に関して米当局への協力を拒否した。17歳の時にアンドルー王子から性的虐待と暴行を受けたバージニアさんの身体的、心理的被害は深刻で長く続いている。

・億万長者のエプスタイン氏は権力者と幅広い交友関係を築き、無制限に見える富を利用して自分自身や共謀者、世界で最も強力な権力者たちのために性的人身売買ネットワークを構築した。若い女性を操縦し、虐待する性的人身売買スキームを完成させた。

少女の弱みにつけ込み、飼い慣らす

・ギレーヌ氏はエプスタイン氏の性的人身売買企業で最高位リクルーターだった。彼女自身、エプスタイン氏の性的人身売買事件で起訴され、秋に刑事裁判が始まる。ギレーヌ氏や別の女性リクルーターは少女たちが抱える弱さについて素早く学ぶため、少女に近づいて話しかけた。学校、スパ、トレーラーパーク、街頭などがリクルートの場所だった。

・リクルーターは若い女性に必要なものを提供することによってエプスタイン氏の邸宅に戻るよう操縦する。多くの場合、リクルーターはプロのマッサージ師になりたい女の子を探し、合法的なマッサージ師のポジションと思われるものを提供することで、エプスタイン氏の邸宅に招き入れた。

・エプスタイン氏と共謀者たちは邸宅で莫大な富と力を示して若い女性を感動させ、威嚇した。彼らは非常に強力な政治的、社会的人物とのつながりを自慢し、エプスタイン氏の邸宅中にそれらの人物との写真が飾られていた。ヌード女性の写真やアート、マッサージテーブルやスパ関連製品をあちこちに置くことで性的虐待を日常化しようとした。

・エプスタイン、ギレーヌ両氏は財力、約束、脅しを使って被害者を操縦し続けた。エプスタイン氏と彼の弁護士は、被害者が逆らった場合に備えて被害者に関する情報を収集することさえあり、エプスタイン氏の邸宅内は常に監視されていた。

・エプスタイン氏のパームビーチにある邸宅のゴミから回収されたメッセージパッドは、エプスタイン氏への女の子の絶え間ない流れを示している。スタッフはメッセージパッドを通じてエプスタイン氏のさまざまな邸宅に常駐する若い女の子について報告している。

ブラックブックに王子用の12の連絡先

・さまざまな都市で「マッサージ」のため呼び出す女の子の電話番号を記した「ブラックブック」、若い女の子や権力者との頻繁な旅行を記録したフライト記録、若い女の子のエッチな写真からもエプスタイン氏が頻繁にこうした女の子と接していたことが分かる。「ブラックブック」にはアンドルー王子のために12以上の連絡先をリストアップしていた。

エプスタイン被告のプライベートジェットのフライト記録(訴状より)
エプスタイン被告のプライベートジェットのフライト記録(訴状より)

・エプスタイン、ギレーヌ両氏はバージニアさんに何が起こったのかについて沈黙を守るよう脅迫した。02年9月、若い女の子を連れ戻すためタイに派遣された。しかし自分自身の人生への恐れ、自分自身が耐えることを余儀なくされた虐待に別の若い女の子をさらしたくなかったためバージニアさんはタイからオーストラリアに逃れた。

・バージニアさんが17歳の時、ロンドンにあるギレーヌ氏のタウンハウスで、エプスタイン、ギレーヌ両氏とアンドルー王子は、アンドルー王子とのセックスをバージニアさんの意思に反して強制した。下の写真は、性的虐待を受ける前に撮影された。

バージニアさん(中央)の腰に手を回すアンドルー王子。右はギレーヌ・マクスウェル被告(訴状より)
バージニアさん(中央)の腰に手を回すアンドルー王子。右はギレーヌ・マクスウェル被告(訴状より)

・2回目は、ニューヨークのエプスタイン氏の邸宅で、アンドルー王子はバージニアさんを性的に虐待した。この際、ギレーヌ氏は、バージニアさんと別の犠牲者をアンドルー王子の膝の上に座らせた。

・3回目は、アンドルー王子は米領バージン諸島にあるエプスタイン氏のプライベートアイランドでバージニアさんを性的に虐待した。

「大統領であろうと王子であろうと、法より上の人はいない」

・バージニアさんはエプスタイン、ギレーヌ両氏、アンドルー王子による明示的、黙示的な脅迫により、アンドルー王子との性的行為に従事することを余儀なくされた。自分自身または他の人への死または身体的傷害、その他の影響を恐れた。アンドルー王子は性的人身売買の犠牲者であることを知って性的行為に及んだ。

・アンドルー王子はエプスタイン、ギレーヌ両氏からバージニアさんが17歳であることを知らされていた。アンドルー王子は公務ではなく、個人的な立場で行動していた。アンドルー王子は英BBC放送のインタビューでエプスタイン氏との友情を後悔しておらず、バージニアさんと会った記憶はないと述べた。

・アメリカでは大統領であろうと王子であろうと、法より上の人は誰もいない。どんなに無力であろうと脆弱であろうと、法の保護を奪われることはない。20年前、アンドルー王子は富、権力、地位、つながりにより、保護する人が誰もいない、怯えた弱い子供を性的に虐待した。アンドルー王子の行いは文明化されたコミュニティーで耐えられる範囲を逸脱している。

アンドルー王子が法廷で反論しなければ、上の訴状通り、バージニアさんの訴えが認められます。最大の争点は、バージニアさんが17歳と知りながらアンドルー王子が性的関係を持ったのか、どうかです。ギレーヌ氏は全面無罪を訴えており、英紙デーリー・テレグラフによると、アンドルー王子の側に立った証言をする用意があるそうです。

バージニアさんがアンドルー王子を訴えた背景には、他の犠牲者にも勇気を持って名乗り出るよう促す狙いもあるはずです。アンドルー王子だけでなく、息子を溺愛し、放蕩を許してきたエリザベス女王も崖っぷちに追い込まれています。対応を誤れば英王室を根底から揺るがす危機に発展するのは必至です。

(おわり)

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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