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ともに前に進め! バスケが結びつけた大阪エヴェッサと白血病少年の「絆」の物語

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
試合後のセレモニーで畠山選手(左)から声をかけられる森川遙翔くん(筆者撮影)

 大阪エヴェッサは9月9日、中学1年生の入団会見を実施した。少年の名は森川遙翔(もりかわ・はると)くん、13歳。今年8月まで白血病の治療のため入院生活を送り、今も長期的な治療を続けている大阪府出身の少年だ。小学校からミニバスケのクラブに所属するなどバスケをこよなく愛し、地元エヴェッサの大ファンでもある森川くんをチームの一員として迎え入れたのだ。

 その森川くんが、待ちに待ったエヴェッサとしての活動を開始した。10月22日の名古屋ダイヤモンドドルフィンズ戦で、他のスタッフたちと一緒にチームのサポート役を務めた。

ベンチに備品を搬入する森川遙翔くん(筆者撮影)
ベンチに備品を搬入する森川遙翔くん(筆者撮影)
試合前のシュート練習を手伝う森川遙翔くん(筆者撮影)
試合前のシュート練習を手伝う森川遙翔くん(筆者撮影)
熊谷選手(中央)とともに選手たちを労う森川遙翔くん(筆者撮影)
熊谷選手(中央)とともに選手たちを労う森川遙翔くん(筆者撮影)
試合中も選手のサポートをする森川遙翔くん(筆者撮影)
試合中も選手のサポートをする森川遙翔くん(筆者撮影)

 初めてのチーム活動ということもあり、両親らとともに本拠地アリーナ『おおきにアリーナ舞洲』にやって来た森川くんはかなり緊張している様子だった。それでも入団会見でプレゼントされた背番号「99」のジャージーに身を包み、スタッフの指示を受けながら真剣な面持ちで、選手が使うタオルを畳んだり、試合で使う備品をベンチに運び、さらに選手のシュート練習で球拾いを手伝うなど試合前の準備に携わった。

 その後も試合中はスタッフと一緒にベンチに座り、選手たちのサポートを続け、さらに試合前後のセレモニーでは選手とともにコートに登場し、チームと一緒にファンに挨拶。最後までエヴェッサの一員として活動を全うするとともに、コーチ、選手、スタッフと濃密な時間を過ごした。

 活動を終えた森川くんはメディアの質問に応じ、以下のように話している。

 「何かチームという大きなところで仕事をするというのが初めてだったので嬉しかったのもあったんですけど、少し緊張しすぎてうまいこといかないこともあったので、その辺がもうちょっとできたらなと思います。一枚タオルを畳むのにめちゃめちゃ時間がかかったりだとか、(選手たちの)服を畳むのにも時間がかかったりとか、結構大変だったです。

 最初は(キャプテンの)根来選手と話をしていて、あとは熊谷選手とかによく話しかけられて、(シュート練習中に)どこにいたらわからんかった時に誘導してくれたりしてくれて、自分もチームの一員なんだなって改めて実感できた感じです。最初は緊張しか心になかったけど、徐々にチームに慣れていっているというのも実感してます。

 外から見ると普通にできてるけど、いざそこの場にいるとめちゃめちゃ緊張するのに、(選手たちは)軽い気持ちでできているのが凄いなと思いました。(ベンチでは)選手たちが外国人の選手と普通にコミュニケーションとれるほどの力があることに一番ビックリしました。(僕も外国人選手に)話してみたいけど、できるかよく分からない(笑)。(今後は)選手とは練習が終わった時に1対1でもできたらいいかなという感じです

 選手たちも、周りの人も、皆話しかけれくれるから、話しやすいし、学校で友だちと話しているような気分で話すことができているのが一番いいです。もっと仲良くなりたいです。友だちに自慢できるというよりは、自分でもこういうことができたんだよということを、入院していた時の友だちにも言えたらいいなと思ってます」

 このように前向きに話してくれた森川くん。今後も来年3月まで月1、2回程度のペースで、試合や練習でチームのサポートを行っていく予定だ。

 この日の森川くんの様子を見守っていた父の弘泰(ひろやす)さんも、以下のように満足そうに話してくれた。

 「入団会見から1ヶ月以上経ってしまったので、その間に緊張するタイミングが戻ってしまったというか、まあでもこれからまた参加させて頂くにつれ、今でも少しだけ笑顔がでてきたりもしているので、慣れていけば大丈夫なんじゃないかなとは思っています。

 大きな病気をしてようやく今学校にも行けるようになったりとか、戻ってきたという感じなんですけど、やっぱりマイナスの気持ちというのが大きかったと思うので、こんな機会を与えて頂いて、好きなバスケットをやらせて頂けるというのは有り難いことですし、今日も普通ではできない経験をいろいろさせて頂いているので、こう前向きな気持ちになれる取り組みは有り難いと思いますし、同じような重い病気で大変な思いをしている子が他にもいると思うので、そういう子供たちにもこういう取り組みを少しでも知ってもらえるきっかけにもなればいいかなというふうにも思っています」

 今回森川くんがエヴェッサに入団できたのは、NPO法人『Being ALIVE Japan』が企画運営し、『B.LEAGUE Hope』のSR(社会的責任活動)パートナーである日本財団の助成により事業として実施されたものだ。Bリーグでは昨シーズンもアルバルク東京が長期治療を続ける少年を迎え入れている。

 森川くんのようなバスケ少年が地元のプロチームに受け入れてもらい、選手たちと交流する機会は、いうまでもなく夢のような出来事だ。彼らの今後の人生にプラスしかないだろう。

 こうした活動がさらに拡大していくことを切に願うばかりだ。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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