Yahoo!ニュース

慢性蕁麻疹の最新治療法2024:専門医が解説する原因・症状・効果的な対処法

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【慢性蕁麻疹とは?症状と診断のポイント】

突然、体のあちこちに赤いブツブツができて、激しいかゆみに襲われる。そんな経験をしたことはありませんか?これが蕁麻疹の典型的な症状です。特に、このような症状が6週間以上続く場合、医学的には「慢性蕁麻疹」と呼ばれます。

慢性蕁麻疹は、世界人口の約1%に影響を与える比較的一般的な皮膚疾患です。日本でも同様の割合で患者さんがいると考えられ、決して珍しい病気ではありません。特に30〜50歳の女性に多く見られ、患者の約70%が女性だとされています。

症状は主に2つあります。1つは「膨疹(ぼうしん)」と呼ばれる、膨らんだ赤い発疹です。もう1つは「血管性浮腫(けっかんせいふしゅ)」と呼ばれる、皮下組織の腫れです。患者さんの約57%が膨疹のみを発症し、37%が膨疹と血管性浮腫の両方を、6%が血管性浮腫のみを発症するとされています。

膨疹は通常、数時間で消えますが、血管性浮腫は1〜3日続くことがあります。これらの症状は体のどこにでも現れる可能性がありますが、特に腕や脚、体幹に多く見られます。顔、特に唇やまぶたにも現れることがあります。

診断は主に症状の観察によって行われます。医師は、患者さんの症状の経過や、膨疹や血管性浮腫の特徴を詳しく確認します。また、必要に応じて血液検査や皮膚検査を行うこともあります。

慢性蕁麻疹の患者さんの約66%は、症状が3年以上続くとされています。そのため、早期診断と適切な治療が非常に重要です。症状が6週間以上続く場合は、皮膚科専門医の診察を受けることをお勧めします。

【慢性蕁麻疹の原因と治療法:最新の研究から】

慢性蕁麻疹の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、最新の研究では自己免疫反応が大きく関与していることがわかってきました。

多くの患者さん(50%以上)では、自分の体を攻撃する抗体(自己抗体)が作られ、それが皮膚のマスト細胞を刺激して症状を引き起こすと考えられています。この自己抗体には、IgE型とIgG型の2種類があることが分かっています。

IgE型自己抗体を持つ患者さんは「自己アレルギー性蕁麻疹」、IgG型自己抗体を持つ患者さんは「自己免疫性蕁麻疹」と呼ばれます。これらの自己抗体は、甲状腺ペルオキシダーゼやIL-24などの自己抗原に対して作られます。

治療の第一選択肢は、第二世代H1抗ヒスタミン薬です。これは、かゆみや発疹を抑える効果があります。セチリジンやフェキソフェナジン、ルパタジンなどが代表的な薬剤です。標準量で効果が不十分な場合は、医師の指示のもと、通常の4倍量まで増量することがあります。

研究によると、標準量の第二世代H1抗ヒスタミン薬で約38.6%の患者さんに部分的または完全な反応(症状が50%以上改善)が見られます。増量した場合、さらに効果が上がることが期待できます。

抗ヒスタミン薬で効果が不十分な場合、次の選択肢としてオマリズマブという薬が使われます。これは、アレルギー反応に関与するIgEという抗体をブロックする生物学的製剤です。12歳以上の患者さんに対して、4週間ごとに300mgを皮下注射します。

オマリズマブは、プラセボ(偽薬)と比較して、症状を大幅に改善することが示されています。研究によると、300mgのオマリズマブ投与を受けた患者さんの約36%で完全な症状の消失が見られました。

さらに難治性の場合は、シクロスポリンという免疫抑制剤が使われることがあります。これは通常、1日あたり1〜5mg/kgの用量で使用されます。ただし、高血圧や腎機能障害などの副作用のリスクがあるため、慎重に使用する必要があります。

【生活の質向上と対処法:慢性蕁麻疹と上手に付き合うには】

慢性蕁麻疹は、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を与えます。症状による不快感だけでなく、見た目の問題や日常生活の制限によるストレスも大きな問題です。

実際、慢性蕁麻疹の患者さんの約40%が、皮膚疾患による生活への影響が非常に大きいと報告しています。皮膚科生活質指数(DLQI)という指標で10点以上(非常に大きな、または極めて大きな生活への悪影響)を示す患者さんが多いのです。

特に、血管性浮腫を伴う患者さん、うつや不安などのメンタルヘルス障害を持つ患者さん、自己免疫性の慢性蕁麻疹の患者さんでは、生活の質がより大きく低下する傾向があります。

一部の患者さんでは、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)や感染症が症状を悪化させることがあるので注意が必要です。特に、アスピリン、ジクロフェナク、イブプロフェンなどのNSAIDsは症状を悪化させる可能性があります。これらの薬を使用する際は、必ず医師に相談しましょう。

慢性蕁麻疹の患者さんは、自己免疫疾患や精神疾患、代謝症候群などの合併症のリスクが高いことも分かっています。特に、自己免疫性甲状腺炎(橋本病)は慢性蕁麻疹患者の約20%に見られるとされています。そのため、定期的な健康チェックが大切です。

症状の記録をつけることも重要です。いつ、どこに、どのような症状が出たか、何か特別なことをしたかなどを記録しておくと、医師の診察時に役立ちます。また、症状をコントロールするのに役立つ情報が得られる可能性もあります。

最後に、慢性蕁麻疹は完治が難しい病気ですが、適切な治療と生活管理によって、多くの患者さんが症状をコントロールし、質の高い生活を送ることができるようになっています。症状で悩んでいる方は、ぜひ皮膚科専門医に相談してみてください。

慢性蕁麻疹は長期にわたる管理が必要な病気ですが、医療の進歩により、多くの患者さんが症状をコントロールしながら充実した生活を送ることができるようになってきています。あきらめずに、適切な治療と自己管理を続けることが大切です。

参考文献:

1. Kolkhir P, Giménez-Arnau AM, Kulthanan K, Peter J, Metz M, Maurer M. Urticaria. Nat Rev Dis Primers. 2022;8(1):61. doi:10.1038/s41572-022-00389-z

2. Zuberbier T, Abdul Latiff AH, Abuzakouk M, et al. The international EAACI/GA²LEN/EuroGuiDerm/APAAACI guideline for the definition, classification, diagnosis, and management of urticaria. Allergy. 2022;77(3):734-766. doi:10.1111/all.15090

3. Maurer M, Rosén K, Hsieh HJ, et al. Omalizumab for the treatment of chronic idiopathic or spontaneous urticaria. N Engl J Med. 2013;368(10):924-935. doi:10.1056/NEJMoa1215372

4. Maurer M, Abuzakouk M, Bérard F, et al. The burden of chronic spontaneous urticaria is substantial: real-world evidence from ASSURE-CSU. Allergy. 2017;72(12):2005-2016. doi:10.1111/all.13209

5. Kolkhir P, Altrichter S, Asero R, et al. Autoimmune diseases are linked to type IIb autoimmune chronic spontaneous urticaria. Allergy Asthma Immunol Res. 2021;13(4):545-559. doi:10.4168/aair.2021.13.4.545

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

美肌アカデミー:自宅で叶える若返りと美肌のコツ

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月4回程度(不定期)

皮膚科の第一人者、大塚篤司教授が贈る40代50代女性のための美肌レッスン。科学の力で美しさを引き出すスキンケア法、生活習慣改善のコツ、若々しさを保つ食事法など、エイジングケアのエッセンスを凝縮。あなたの「美」を内側から輝かせる秘訣が、ここにあります。人生100年時代の美肌作りを、今始めましょう。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

大塚篤司の最近の記事