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両足切断から15年。元F1ドライバー、ザナルディがパラリンピックで2大会連続の金メダル!

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
パラリンピック自転車競技に参戦している元F1ドライバーのザナルディ(写真:ロイター/アフロ)

9月14日(水)、リオデジャネイロ・パラリンピックの自転車競技「H5タイムトライアル」で、元F1ドライバーのイタリア人、アレッサンドロ・ザナルディが優勝し、金メダルを獲得したという嬉しいニュースが届いた。

ザナルディにとって、ロンドン・パラリンピックに続く2大会連続の金メダルを獲得。モータースポーツ界の偉人がまたもや奇跡を起こした。

両足切断の事故から15年

分かりやすく「元F1ドライバー」とザナルディの肩書きを表記したが、彼はレーシングドライバー時代に様々なトップカテゴリーのレースを戦ったキャリアを持つ。

今から約25年前の1991年スペインGPで新興チーム「ジョーダン」からF1参戦を果たしたザナルディはデビュー戦を9位完走(当時の入賞は6位まで)。その後、「ミナルディ」「ロータス」といった下位チームを渡り歩き、1994年までF1に参戦した。

F1では上位入賞に恵まれず(1993年のブラジルGPの6位がベスト)、1996年からは活躍の場を求めて米国の「CART」(現在のインディカー)に参戦。強豪チーム「ターゲット・チップガナシ」のドライバーとして活躍し、1997年、98年と2年連続の王者に輝いた。イタリア人が同シリーズを制するのは初の快挙であり、その速さと明るいキャラクターから、母国アメリカ人レーサーを凌ぐ人気を獲得していた。

CARTでの活躍が高い評価を受け、1999年に「ウィリアムズ」からF1に復帰。しかし、F1では入賞のチャンスには恵まれず、2001年から再びCARTに参戦。そして、ドイツのラウジッツで開催されたCART第16戦(当時はヨーロッパでも開催)。ザナルディはトップ走行中にバランスを崩したところに、後続車が横から時速300km以上で追突。両足を切断する大事故となり、レーシングドライバーの選手生命を絶たれることになってしまった。今からちょうど15年前の2001年9月15日、ザナルディのアスリートとしての人生は終わったと誰もが思った衝撃的な事故だった。

ハンドドライブでレーサー復帰

両足を切断したザナルディは治療に専念し、不屈の精神で立ち上がる。事故から2年経たない2003年に両足のベダル操作が不要のハンドドライブ仕様になったツーリングカーでレースに復帰。

2005年からはBMWがザナルディのために特別に製作したハンドドライブ仕様のマシンを駆り、「WTCC(世界ツーリングカー選手権)」に参戦。事故から4年足らずの2005年8月、事故が起きた国、ドイツのレースで世界選手権レース初優勝を成し遂げ、世界中のモータースポーツファンに感動を与えた。

2008年 WTCCで誰の手も借りずにマシンに乗り込むザナルディ
2008年 WTCCで誰の手も借りずにマシンに乗り込むザナルディ

その後、ザナルディはWTCCのスター選手として活躍し、参戦した5年間で毎年優勝を飾る活躍を見せ、その不屈の精神に多くの人が惹きつけられていったのだ。そして、2009年をもってレーシングドライバーを引退し、ロンドン・パラリンピックへの出場を目指して自転車(ハンドサイクリング)の選手へと転向。2012年のロンドン・パラリンピックではイギリスのブランズハッチサーキットを使って開催された大会で2種目での金メダルを獲得した。

2012年パラリンピック

世界から尊敬されるレーサー

ロンドンに続き、リオでも金メダル。50歳を目前にしてはいるが、この20数年間でザナルディはいくつもの奇跡を起こしてきた。今年6月、イギリスのモータースポーツの祭典「グッドウッドフェスティバルオブスピード」にイベントのホストを務めたBMWのゲストとして迎えられたザナルディは年齢以上に歳をとって見えるほどにいぶし銀な感じが漂っていた。

義足で杖をついてトークショー会場に来たザナルディ。右はリカルド・パトレーゼ。
義足で杖をついてトークショー会場に来たザナルディ。右はリカルド・パトレーゼ。

陽気なイタリアンという言葉が相応しく、いつも明るくファンに接し、自身のレースではアグレッシブな走りでコースサイドのファンを魅了する。そして今はパラリンピックの選手として結果を掴み取る最強のアスリートだ。彼の自転車アスリートとしての昨今の活躍は「レーシングドライバー」というアスリートの価値を高めているとも言えよう。F1クラスのレーシングドライバーの競技中の心拍数は180以上というデータがあり、マラソン選手の心拍数を超えているとも言われる。強烈なコーナリングGフォースに耐えながら、常に全開でマシンをコントロールするレーシングドライバー。そんな人生を歩んできたからこそ、ザナルディは自転車のアスリートとしても通用するのだろう。

モータースポーツの最高峰「F1」では僅か1ポイント獲得に留まった「元F1レーサー」だが、「アレックス・ザナルディ」の名前でアメリカでは90年代半ばの大スターとして知られ、両足切断後の復帰、優勝を飾るほどの大活躍が世界的に知られるアレッサンドロ・ザナルディ。その偉大さをモータースポーツ界で知らない人は居ないだろう。そして、今や世界で最も有名なパラリンピック選手の一人だ。

ザナルディは事故からちょうど15年となる9月15日(木)リオ・デジャネイロで2大会連続の金メダル複数獲得をかけて、自転車競技「ロードレースH5」でレースに挑む。

リオ・パラリンピック ロードレースH5 出場者 結果表

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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