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『VIVANT』のとっつきやすさの理由は「遊び心」にあり、最終回では「スネイプ先生」が話題に

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:つのだよしお/アフロ)

テレビドラマ『VIVANT』(TBS系)が9月17日に最終回を迎えた。同作は、表の顔は巨額の誤送金事件に巻き込まれた丸菱商事エネルギー事業部2課課長、裏の顔は自衛隊の精鋭部隊「別班」の一員である乃木憂助(堺雅人)が、日本とバルカ共和国などを行き来しながら、国際的なテロリスト組織・テントの実態を探り、そのなかで離散した家族の出来事と向き合っていく物語だ。

登場人物たちが次々と寝返っていく大どんでん返しのストーリー展開、乃木とその両親がかつて経験した残酷な運命、「1話1億円」とも言われる巨額予算をかけた大掛かりな撮影が生み出すスペクタクル、そして数多くの伏線を張り巡らせることで視聴者の考察意欲を高めていく仕掛けなどが話題となった。最終回の放送終了後は早くも「VIVANTロス」の声があがるほどに。

※以下『VIVANT』のストーリーのネタバレに触れているところがあります

第1話では『ルパン三世』好きのCIAが登場

そんな『VIVANT』の魅力は、シリアスさとユーモアの絶妙なバランスだった。特に、随所に散りばめられた「遊び心」が視聴者の心をつかんだと言っても良い。

たとえば第1話、乃木の親友であるCIAのサム(マーティン・スター)が『ルパン三世』好きであるところ。サムの部屋は『ルパン三世』のグッズだらけだった。その設定が示唆していたのは、いろんな変装で人を欺くルパンの手口と、『VIVANT』の各登場人物が表と裏の顔を持っているところが重なる点だ。そんな趣味を持つサムの指南によって乃木の冒険が始まるところも、『VIVANT』がこれからどういった展開を見せるのかを暗示しているようだった。

一方『VIVANT』では、「親友に裏切られる」というパターンがお決まり。ただ乃木とサムの関係性はそれに当てはまらずに最終回を終えた。もし続編があるなら、「親友の裏切り」は、乃木、サムにも訪れるのではないだろうか。

『ハリー・ポッター』好きの野崎の独白、「スネイプ先生」がトレンド入り

警視庁サイバー犯罪対策課のホワイトハッカー・東条翔太(濱田岳)の部屋には、『ウルトラマン』グッズがあふれていた。東条はウルトラマン好きという設定だが、これは演じた濱田がかつて映画『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』(1999年)に出演し、同作のなかで濱田が、ウルトラマンガイアに憧れる少年に扮していたことへのオマージュだと思われる。

乃木がバルカ共和国で出会い、その後、持病手術のために来日した少女・ジャミーン(ナンディン-エルデネ・ホンゴルズラ)の入院中、警視庁公安部・野崎守(阿部寛)が見舞品として映画『ハリー・ポッター』シリーズのDVDセットを持参するところもポイントになった。乃木はそこで野崎の「ハリポタ」好きを知り、同作の登場人物であるスネイプにちなんだ重要な情報を野崎に与える。最終回では、スネイプの真の姿と乃木の暗躍を重ね合わせた野崎が「スネイプ先生は裏切り者に見えて、ダンブルドア校長やハリーを助けるために敵に潜入していた偉大な先生」と興奮気味に独白する場面があり、「スネイプ先生」がXのトレンド入りを果たした。

同じく最終回で注目されたのが『スター・ウォーズ』シリーズだ。その理由は、乃木と彼の義理の弟・ノコル(二宮和也)の白い道着風の服装が『スター・ウォーズ』に出てくるルーク・スカイウォーカー、ふたりの父親であるテント首謀者のノゴーン・ベキ(役所広司)の黒い服装がルークの父親であるアナキン・スカイウォーカー/ダース・ベイダーに似ていることだった。ほかにも両作品には、砂漠を歩く姿、アナキン・スカイウォーカーとノゴーン・ベキがともに暗黒面へ落ちたこと、最終回のラストで乃木とベキが対決する部分がルークとベイダーそのものだったところなど、類似性がたくさんある。

第4話では、伝説のハッカー「ブルーウォーカー」である太田梨歩(飯沼愛)の押収品のなかに古今亭志ん生の落語のCDが見つかる。そして最終回の太田の登場シーンでは、出囃子が鳴った。これが野崎が信頼を寄せている部下・新庄浩太郎(竜星涼)の“素顔”のヒント(志ん生=新庄)になっていた。視聴者による事前の考察でも数多く挙げられていた“答え”だった。

『VIVANT』はなぜとっつきやすいドラマだったのか

映画、ドラマなどは、その画面に映っているものすべてに意味がある(もしくは意味がないといけない)。その場面にテレビが出てきたら、画面上にはなにが(どんなタイトルやシーンが)映っているのか必ずチェックするべきだ。もしも部屋の場面が出てきたら、本棚にはどんな本が並んでいて、壁にはなんのポスターが貼られているのか見なければならない。なぜならそれが、その作品の趣旨、メッセージ、展開、登場人物のあり方などに絡んでいるはずだからだ。

『VIVANT』は、誰もが知るさまざまなカルチャーや娯楽のタイトル、アイテムを登場させる「遊び心」をふんだんに盛り込んだ。さらにその「遊び心」に伏線を込めるなど、重要な役割を担わせていた。『VIVANT』はシリアスな要素も多く、奥深さもあるが、同時にとてもとっつきやすいドラマだった。そのとっつきやすさの理由は、「遊び心」があったからではないか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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