「サルビーニが一番です!」イタリア内相が巻き起こす「極右の台風」欧州議会第1党うかがう
「イタリアを安全な国に」
[イタリア北部ミラノ発]イタリア最大の都市ミラノは北部の国境を守る軍の山岳部隊アルピーニ協会発足100周年を祝う人たちで沸き立っていました。深い緑色のチロリアンハットをかぶった男たちがビールやワインをあおり、楽器を奏でて陽気に歌います。
5月11日昼前、ミラノの青空市場に、欧州の「台風の目」となっている男、マッテオ・サルビーニ(46)、極右政党「同盟(旧北部同盟)」の書記長で副首相兼内相が姿を現しました。「マッテオ、マッテオは私たちの味方」というコールが沸き起こります。
本当に「台風の目」のような人の渦ができました。
フランスの俳優ジャン・レノを思わせる私服警官が警備に当たっているとは言うものの、サルビーニ内相と支持者の距離は文字通り「ゼロ」。万が一の事態があっても防ぎようがないぐらいの密着状態です。サルビーニ氏はメディアの質問にも堂々と答えます。
「私が内相に就任してから犯罪は15%も減りました。ナポリでは幼い少女と祖母が撃たれて負傷しました。私はイタリアを安全な国にします。警官と防犯カメラをもっと増やします。安心して歩ける国にします。アルピーニをサポートするのはもちろんです」
「祖国を守る強い男」「タフガイ」ぶりを強調するサルビーニ氏は拡声器を通じて支持者に訴えます。
5月3日、イタリア南部ナポリで「ノエミ」と呼ばれる3歳の少女が銃撃戦に巻き込まれ、胸を撃たれて重傷を負う事件が起きました。少女の祖母も負傷しました。サルビーニ氏は少女を見舞い、「ナポリや他の場所でもこんなことは二度と起こさせない」と誓いました。
「自分を守るために銃を」
ナポリの市民は「ノエミ、あきらめるな。ナポリはお前のために戦う。ナポリを武器のない街にしよう」と訴えています。
銃規制サイト、ガンポリシー・オルグによると、銃使用によるイタリアの死者は2012年で781人。1996年の1177人からは減っています。民間で保有されている銃は2017年で推定800万7920丁。2007年の700万丁から随分増えました。
このうち登録されていなかったり、違法だったりする銃が660万9000丁もあるのです。銃規制が厳しい英国の103万1265丁に比べるとイタリアの未登録・違法銃がいかに多いかが分かります。
昨年の総選挙でサルビーニ氏は軍仕様の狙撃用ライフルやサブマシンガンを手にポーズを取り、「銃を保有することはイタリアの文化だ」と訴えました。欧州懐疑主義の新興政党「五つ星運動」と連立を組んで内相に就任し、昨年9月、銃規制を緩和しました。
殺傷能力が高く、米国の銃乱射事件でも頻繁に使用されている米軍のM16自動小銃でも免許さえあれば保有できるようにしたのです。イタリアでM16自動小銃が保有できるようになれば、国境がなくなったシェンゲン領域(26カ国)に容易に流出するリスクを伴います。
ドナルド・トランプ米大統領が選挙戦で大成功を収めたように不法移民や犯罪、麻薬、既得権益との癒着、腐敗と戦う「タフガイ・プレイブック(脚本)」は効果的です。
キーワードは「セルフディフェンス(自己防衛)」です。イタリアは徴兵制を2004年に廃止しましたが、サルビーニ氏は徴兵制の復活を唱えています。「18歳になったら男は徴兵。国境と港を閉じよう」とサルビーニ氏は力説します。
「私はママ」キャンペーン
サルビーニ氏の選挙キャンペーンには年配女性の姿も目立ちました。「私はママ。借り物の子宮には反対」と書かれたピンク色のTシャツを配布していました。
イタリアでは2016年にシビル・ユニオン(法的に認められたパートナーシップ)の法律が整い、翌17年に最高裁が同性婚を容認する判断を示しました。父親と母親ではなく、「親1」と「親2」とされたことにサルビーニ氏を支持する女性たちは強い拒絶反応を示しているのです。
「イタリアのママはホームメイドのパスタを作っているイメージです。しかし金融・債務危機でイタリア経済は低迷し、女性も家を出て働きに行かなければならなくなりました。時代に置いていかれた女性たちがサルビーニ氏に『強い男性』をイメージしているのかもしれません」
ミラノの政治研究者セレーナ・ボルピさん(40)は分析します。「男性と女性の性差を認め、男性には男性の、女性には女性の役割があると考えているのです。例えば男性には女性を暴力から守る役割があるというような感じです」
5月26日投票の欧州議会選で、サルビーニ氏率いる同盟の支持率は一時35%を突破し、首位を独走中です。「5年前は4%だった。1年前は17%。今、奇跡が起ころうとしている」。同じ日に3843自治体の議会選と首長選が行われるだけにサルビーニ氏の選挙運動には自ずと力が入ります。
欧州議会でもアンゲラ・メルケル独首相の支持母体、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)を追い、第1党の座をうかがいます。日本語を勉強したことがあるサルビーニ氏の支持者が近づいてきて「サルビーニが一番です!」と声を上げました。
「官僚主義、銀行、偽善と不法移民を止めろ」
サルビーニ氏のキャンペーンカーの大看板には「ストップ! 官僚主義。銀行。偽善。不法移民」と書かれています。「偽善」とは、地中海を渡ってくる難民に寛大な表情を見せる一方でイタリア国境を閉ざすフランスのエマニュエル・マクロン大統領のことを指しています。
サルビーニ氏にとってはマクロン大統領が唱える「欧州の深化と統合」は偽善そのもので、格好の攻撃対象となっています。サルビーニ氏は最近、独裁者ベニート・ムッソリーニ(1883~1945年)がかつて演説したエミリア=ロマーニャ州の同じバルコニーから演説し、欧米メディアから激しく批判されました。
ドイツのアドルフ・ヒトラー(1889~1945年)と違って、ムッソリーニに対する拒絶反応はイタリアには残っていません。今でも「イタリアの列車が時間通り走っていたのはムッソリーニの時代だけ」という冗談が日常生活の中で使われるほどです。
サルビーニ氏のインタビュー本にネオ・ファシスト団体カーサパウンドの支持者が絡んでいることも明らかになっています。
青空市場で子供を連れたアドリアーナさん(45)は「ミラノのこの青空市場は移民がたくさんいる多文化的な地域です。それを知って選挙キャンペーンにやって来たサルビーニにはうんざりします。彼の主張はノスタルジーと言うより時代錯誤も甚だしい」と表情を曇らせました。
「サルビーニ氏にはとても同意できません。首都ローマでは、公共住宅への入居が認められた少数民族ロマの家族に対してカーサパウンドなど数百人が抗議活動を繰り広げ、暴言を吐く事件が起きています。こうした空気が怖ろしい」
(つづく)
これまで3回のシリーズには仏在住ジャーナリストで日仏プレス協会副会長の西川彩奈(にしかわ・あやな)さんの協力を得ています。
西川彩奈:1988年、大阪生まれ。2014年よりパリを拠点に、欧州社会やインタビュー記事の執筆活動に携わる。ドバイ、ローマに在住したことがあり、中東、欧州の各都市を旅して現地社会への知見を深めている。現在は、パリ政治学院の生徒が運営する難民支援グループに所属し、欧州の難民問題に関する取材プロジェクトも行っている。