旧統一教会が主導して作らせた念書に対して最高裁は無効の判決「公序良俗で無効は悪質なケース」弁護士見解
7月12日、立憲民主党による旧統一教会被害に関するヒアリングが行われました。
中野容子さん(仮名)の母親が信者時代に行った多額の献金の返金を求めた裁判では、念書の有効性を認めての地裁、高裁で出た教団の勝訴判決が最高裁判所で見直されて、不起訴合意の念書は「公序良俗に反して無効」との判決が出されました。中野さんの父さんの財産を母親が献金させられた件に関しても、高裁に差し戻しての審理のやり直しとなっています。
弁護士らの想定を超えるような判決
ヒアリングに参加した中野容子さんは「(最高裁判決は)非常に納得のいく内容でした。原審の不起訴合意は有効であるという判断が否定されたことで、これまで念書(合意書、誓約書)が妨げとなって被害回復に踏み出せなかった被害者の助けとなり、皆さんの役に立てることが本当に嬉しい」と話します。
裁判を担当してきた木村壮弁護士は最高裁の判決について「正直、想像を超える判決でした。いっていることは非常に明快で、ここまで判断してくれると思っていなかった部分があるので、非常に画期的な判決だった」と話します。
阿部克臣弁護士も、この事件の代理人ではない立場からみても「非常に素晴らしい判決だった。念書は無効になって高裁に差し戻しにされるだろうとの予想はしていたのですが、献金の勧誘行為の違法性について最高裁が積極的にここまでの判断を示すとまでは思っていませんでしたので、法廷で言い渡しを聞いた時は驚きました」といいます。
どういう場合にこの念書を無効とすべきなのかが示された
木村弁護士は「最高裁はどういう場合に念書を無効とすべきかについての要素をきちんとあげてくれた。表面的なやりとりだけではなく、当事者の属性や相互の関係性、教団の強い心理的な支配下にあるような人との間でなされた合意が有効なのかどうか。これをよく検討すべきことと指摘してくれており、非常に重要な判断」としています。
ここに至るまでには「(立憲民主党の)山井和則先生をはじめとした議員の皆さんが国会において(この念書問題を)追及してくださって、岸田(文雄)総理の答弁も引き出してもらい、司法もこれが常識というところを判示してくれたと思います」(木村弁護士)
旧統一教会はさらに追い込まれる!首相の答弁で、念書、ビデオ撮影の行為は、むしろ勧誘の違法性を示す。(Yahoo!ニュース エキスパート 多田文明)
不当寄附勧誘防止法の配慮義務が入ることで、被害救済が拡大する
中野さんのお父さんの財産が教団主導のもとに母親を通じて献金させられた勧誘行為について、最高裁は判決のなかで、不当寄附勧誘防止法における配慮義務を取り入れながら述べています。
「不当寄附勧誘防止法における『寄付者の自由な意思を抑圧し、寄附者が献金をするか否かについて適切な判断をすることが困難な状態に陥ることがないようにすること』の条文を参照しつつ、心理的な影響下にあったかどうかも含めて、寄附者の属性や家庭環境、入信の経緯、その後の宗教団体の関わり方、そういったものもすべて含めて違法性の有無を判断するべきことを判示しているのは、今後の被害救済において大きな意味がある」
現在行われている集団交渉を行う被害者にも、被害救済の道が開かれた
阿部克臣弁護士は「不当寄附勧誘防止法の配慮義務は、途中で入ってきた弱い義務だといわれていましたが、今回判決に取り入れられただけではなく、それを基礎として被害救済が拡大するような内容となっている」といいます。
「具体的には、この法律の対象は、法人か法人に準じるような団体に限られていますが、今回の配慮義務では宗教団体と一般の信者にもかせられているということで、対象が拡大されています。また不当寄附勧誘防止法は施行日(23年1月5日)以降の献金行為にしか適用されませんが、最高裁の判決では、当然過去のものについても、そういう義務があると判示されていますので、過去の膨大な被害についても、配慮義務があることを前提に判断されることで影響は非常に大きい」と話します。
さらに同弁護士は、現在約53億円の請求を集団交渉でしている全国統一協会被害対策弁護団の立場から「その中にはご本人が亡くなって相続人が請求しているケースや、ご本人が認知症になって後見人が請求している方、長い期間、献金をしすぎて一つ一つについて、ご本人が思い出せないような方も大勢いらっしゃいます」といい、こうした場合でも被害救済の道が開かれたことになるとしています。
教団の内部資料から、念書を取られた方が、現役の信者の中にも相当数いる
ジャーナリストの鈴木エイト氏は「入信の経緯も加味されるということでしたが、中野さんの妹さんが入信した経緯も問題です。(教団名を伏せて誘う)正体隠しの勧誘から始まっています。妹さんからお母さんが勧誘されて入信してしまい、高額な献金被害に遭い、家庭が崩壊してしまっている」と指摘します。
さらに鈴木氏は「高度危険者に対する緊急対策の取り組みフィードバック」という資料を示します。
「これは2012年8月に作成された資料になります。高度危険者とは、高額献金者の家族が反対をしていて、家族の説得を受けて返金される恐れのある方です。そこで、高額献金者の家族状況を調査するという指示が出たものです。この表を見ると、高額献金者がかなりの数いて、相当数の念書を取られていることがわかりますので、潜在的に念書を取られた方が、現役の信者の中にも相当数いることになります。そういう観点からも、今回の判決は非常に重要」と指摘します。
「公序良俗で無効というのは、よほどの悪質なケースとなる」との見解
同党の山井和則議員、柚木道義議員から「今回の判決が解散命令の司法判断にどのような影響を与えると思うのか」の質問が出ました。
阿部弁護士は「解散命令請求への影響は、かなりプラスの影響があると思う」と話します。
理由として「解散命令請求の事由として、組織性、継続性、悪質性と三要素が言われていますが、最高裁判所では、信者が主導した念書が公序良俗で無効となりました。我々の常識としては、公序良俗で無効というのは、よほどの悪質なケースです。それが最高裁で認定されたことで、悪質性の裏付けになると思います」と話します。
旧統一教会被害対策本部で本部長を務める西村智奈美議員は「中野さんがあまりにも長い時間が(裁判に)かかったというふうにおっしゃっていたことが、本当に私としても胸にしみました。長い時間、戦ってこられて語り尽くせない思いといったものもいろいろあったんだろうと思います」と言います。
さらに「念書が無効となったことは、まさにここにいらっしゃる議員の皆さんはじめ本当に多くの仲間が国会で質問し、そして岸田総理から答弁を勝ち取って、そして今回の最高裁判決につながったと考えます。やはり野党であるとはいえ、立法府が果たせることはこんなにあるんだなということも改めて今、かみしめているところです」と話します。
一人一人の声が大きなうねりとなり、画期的司法判断をもたらした
山上徹也被告が安倍元首相を銃撃して以来、旧統一教会問題は大きく取り上げられましたが、被害を受けた元信者や宗教2世らが声をあげて、社会の人たちが大きな関心を寄せてくれて、国が動き、新たな法律ができて、今度は司法の場で大きく被害救済につながる道筋が示されています。
リモートでヒアリングに参加した被害者家族の橋田達夫さんは、今回の判決を受けて「本当に嬉しい。本当に皆さんのおかげでここまで来れました。早く次に解散命令を早く出してほしい」と切に願っていることを話しますが、この先には旧統一教会の解散命令の司法判断が待っています。
過去の被害をいかに救済して、これから未来に向けて同様な被害を生み出さないために何をするべきなのか。一人一人があげた声と行動が線となってつながり、大きなうねりとなり、カルト思想による甚大な被害を二度とこの日本で起こさないための土台が今、まさに作られようとしています。
しかしながら、被害を生み出した当事者である旧統一教会は被害者救済に真正面から向き合っていません。その姿勢を社会が一丸となって、いかに改めさせていくのか。それがこれからは問われることになります。