きょうから”韓国式年齢廃止” 「国民全員若返る」も…現地の声「じつはあまり影響ない」が多数なわけ
きょう6月28日から韓国で「満年齢統一法」が施行される。
これまで韓国で法的にも一般的にも使われていた“数え年”が撤廃され、満(日本なども使用する同じ国際基準の数え方)に統一する、というもの。
日本でも「K-POPアイドルも一気に2歳若くなる」「韓国式年齢撤廃」という話題がSNSで盛り上がった。
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これまで「生まれた瞬間に1歳」「翌年の1月1日にさらに1歳」年を重ねる「数え年」を法的にも認める制度から、「生まれた瞬間は0歳」「翌年の誕生日に1歳」(満)に法的に統一する制度へと切り替わる。
国内で複数の年齢が存在する韓国では国際基準の「満」とローカルルールの「数え」などで混乱が起きる問題が指摘されてきた。2022年5月に発足した尹錫悦政権の選挙公約が実現するかたちで行われる。これにより韓国政府側は「年金受給年齢や個人契約に関する年齢問題などについてのクレームや紛争が減少する」と見ている。
では今回の法改定でどうなるのか。
ずばり結論。
「本当に年齢が法的に最大2歳若くなる」。
韓国政府発行のグラフィックでも「大韓民国が若くなります」と伝えている。
筆者の知り合いで、1973年12月生まれの女性も、「私、40代になるのよ~」と喜んでいた。それまでは韓国では「51歳」として過ごしていた。
ただ「あまり影響がない」という意見も多い。
「一学年がみな同じ年齢」となる制度
そもそもなぜ、韓国で数え年を使い始めたのか。2022年4月1日の「韓国経済」紙はこう記している。
東洋由来の思想、ということは確かなようだが、現在では実のところ中国でもモンゴルでも日本でも北朝鮮でも法的には使用されておらず、韓国が「唯一残った国」となっていた。日本でも数え年で言う習慣があるにはある。2022年2月に石原慎太郎氏が亡くなった後、長男の石原伸晃さんが「父は89歳、数えで90まで生きましたが…」と発言していた。
韓国では1962年1月1日に政府側が関連機関や国策企業にこの使用を指示し、国民に対しても参考にするよう呼びかけた。
「まとめて考えると合理的」と判断されたからだ。生まれた瞬間に1歳、1月1日にさらに全員が1つ年を重ねる。
そうなると「同じ学年はみんな同い年」。
日本だと誕生日に法的に年齢を重ねるから、例えば高校3年生に17歳と18歳がいるのは当然のことだ。しかし韓国ではそうではなかったのだ。
現地での「数え年」の強い定着ぶり
これは韓国社会にかなり強く根付いている習慣だ。1974年6月生まれの筆者は、今年の5月にソウルでこんな出来事に出くわした。
週末に草サッカーをやりに行ったところ、「年代別でチームを構成しよう」という話になった。
チームのまとめ役に聞かれた。
「何年生まれ?」
「74年です」
すると「あ、50代だね」と言われ、このチームに入れられた。
ちょっと待ってよ、俺、今48歳(当時は今年の誕生日前)で、50代になるまでの繊細な時間を過ごしてるんだけど…そういうのは通じない。
さらにこの「年代別チーム」の試合で別の世代に負け、試合後にチーム全体で割り勘によって相手チームの昼食代も支払うことになった。
金を渡しながら、「俺、日本では40代なんですけど…」とボヤくと…これがまあまあウケた。
それほどに根付いているということだ。と、同時に「数え年」が韓国のローカルルールだという点もしっかり認識されている。
それゆえメディアでよく使われてきた表現が「今年◯◯歳になる誰々」という表現だ。エンタメやスポーツなど、海外との関わりが描かれる記事などでは特にこれが“重宝”してきた。一言で「満」と「数え年」を言い表せる表現だからだ。
法施行後はどうなる?
まずは「満での年齢の数え方を知らせることも必要」という点がある。政府によるPRポスターの1番上の項目もこの点を示すものだ。「東亜日報」もデカデカとグラフィックで「満の年齢の数え方」を説明している。
もうひとつ、危惧されているのは子どもたちの混乱だ。韓国政府による国民向けのPRポスター(上)にも子どもたちに向けた内容が記されている。
「満による年齢の使用が始まろうとしているいま、同い年、同じ学年だった友人に対して『お姉さん』や『お兄さん』と呼び掛けるべきか迷っている人もいるでしょう。最初は違和感を覚えるかもしれませんが、同じ学年の友人が必ず同い年でなければならないという規定はどこにもないことを覚えておいてください。政府では、わずか1、2歳の違いでも厳密に分けていた序列文化(先輩後輩文化)が消え去る効果によるメリットが更に大きいと予想しています」
韓国ではやはり…「小学校1年生に6歳と7歳がいる」といった状況が不思議なのだ。ちなみに韓国でももちろん誕生日を祝う習慣はあるが、制度上の数え年においては誕生日には年齢を重ねてこなかった。
いっぽうで、大人の世代では「あまり影響がない」との意見も。
「はっきり言って私の周囲では、この話題に無関心です。今まで出会った人間たちとの関係は変わりませんからね。それぞれが何歳なのかではなく、お姉さん(先輩)、妹(後輩)として出会ったかどうかが重要。それに大卒の人だと入学学年を聞く『学番(ハクポン)』という考え方があって、年齢を聞くよりもそれで関係を把握することもありますからね。次世代はどうなるかは分かりませんが」(ソウル在住の40代女性/保険勧誘員)
確かに人によっては「1歳若返る人」も「2歳若返る人」もいるが、法制度が変わったからといって人間関係は変わらない。これはK-POPグループにも言えることだろう。
ソウル郊外在住の30代男性は言う。
「しばらくはこれまでの年齢の数え方は習慣的に残ると思いますよ。韓国では面積を言う時”坪(ピョン)”という単位が使われていましたが、2007年にこれが法的には使われなくなった。でも今でもこの単語は会話の中で出てきますから」
さらにソウル在住の会社経営者の50代男性は言う。
「まったく影響はないと思います。なぜか? あらゆることが住民登録番号(韓国版マイナンバーカード)の生年月日で登録されている社会なので。一般的な年齢が変わるだけで、生年月日基準という社会はなんら変わらないと思います」
登録上の生年月日と、一般的に話す年齢が違ってきたからってそれがどうした? そういう意見だ。不思議に思えるが…ちなみに韓国では2003年まで戸籍上の誕生日の登録が「陰暦でも陽歴でもよかった」から、「こういう制度の変更だってありうるでしょ?」といったところか。いっぽうで韓国人からすると日本の「年号」がかなり不思議に見えるというから、国それぞれ、という話でもあるか。