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皮膚がん治療の革新:免疫チェックポイント阻害薬の組み合わせが切り開く新たな可能性

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
Ideogramにて筆者作成

【メラノーマ治療における画期的な進展】

皮膚がんの一種であるメラノーマ(悪性黒色腫)は、近年、治療法の進歩により患者さんの予後が大きく改善しています。特に、進行性メラノーマの治療において、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる新しいタイプの薬剤が注目を集めています。

今回、ニボルマブとレラトリマブという2つの免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた新しい治療法が、実際の臨床現場でどのような効果を示しているのか、興味深い研究結果が発表されました。

【免疫チェックポイント阻害薬の相乗効果】

ニボルマブは、PD-1(プログラム細胞死-1)という分子を標的とする薬剤です。一方、レラトリマブは、LAG-3(リンパ球活性化遺伝子3)という分子を標的としています。これらの薬剤は、がん細胞が免疫系から逃れるのを防ぎ、私たちの体の免疫システムががん細胞を攻撃しやすくする働きがあります。

両者を組み合わせることで、腫獍内の免疫細胞の活性化がより強く促進され、抗腫瘍効果が相乗的に高まることが期待されています。

【実臨床データが示す驚くべき治療効果】

今回の研究では、進行性メラノーマの患者さん88名を対象に、ニボルマブとレラトリマブの併用療法の効果が調査されました。その結果、全体の治療効果(奏効率)は39%に達し、そのうち完全奏効(がんが完全に消失)が23%、部分奏効(がんが30%以上縮小)が16%でした。

特筆すべきは、この治療法を最初に受けた患者さんグループでの結果です。このグループでは、なんと58%という高い奏効率が得られ、37%の患者さんで完全奏効が確認されました。これは、従来の治療法と比べて非常に優れた成績といえます。

また、無増悪生存期間(がんの進行や死亡が起こるまでの期間)の中央値も、全体で5.3ヶ月、初回治療群では11ヶ月と、良好な結果が得られています。

これらの結果は、ニボルマブとレラトリマブの併用療法が、進行性メラノーマに対する有力な治療選択肢となる可能性を強く示唆しています。特に初回治療としての有効性が高いことから、早期からこの治療法を導入することで、患者さんの予後改善につながる可能性があります。

ただし、この研究にはいくつかの限界があることも忘れてはいけません。後ろ向き研究であること、データが不完全な可能性があること、追跡期間が比較的短いことなどが挙げられます。今後、より大規模で長期的な研究が行われることで、さらに詳細な有効性と安全性のデータが得られることが期待されます。

日本では、メラノーマの発生率は欧米に比べて低いものの、近年増加傾向にあります。日本人に多いとされる末端黒子型(手足の爪や指先、足の裏などに発生するタイプ)のメラノーマに対しても、この治療法の効果が期待されます。ただし、レラトリマブは本邦未承認の薬剤です。

また、この研究結果は、皮膚がん以外の様々ながん種に対する免疫療法の可能性も示唆しています。今後、他の難治性がんに対しても、複数の免疫チェックポイント阻害薬を組み合わせた治療法の研究が進むことが予想されます。

メラノーマをはじめとする皮膚がんの早期発見・早期治療の重要性は変わりません。定期的な自己チェックや皮膚科受診を心がけ、気になる症状があれば速やかに専門医に相談することをおすすめします。

最新の治療法の登場により、進行性メラノーマの治療成績は着実に向上しています。しかし、まだ全ての患者さんに効果があるわけではありません。今後も研究が進み、より多くの患者さんに希望をもたらす治療法が開発されることを願っています。

[参考文献]

1. Thakker S, et al. Real-world treatment patterns and outcomes of patients with advanced melanoma treated with nivolumab plus relatlimab. The Oncologist, 2024 https://doi.org/10.1093/oncolo/oyae248

2. Long GV, et al. Overall survival and response with nivolumab and relatlimab in advanced melanoma. NEJM Evid. 2023;2(4):EVIDoa2200239.

3. Tawbi HA, et al. Relatlimab and nivolumab versus nivolumab in untreated advanced melanoma. N Engl J Med. 2022;386(1):24-34.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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