Jポップ批評としてのSEKAI NO OWARI『Habit』とBTSとの共通点【月刊レコード大賞】
この6月、もっとも目を引いたのは、SEKAI NO OWARI、22日発売のシングル『Habit』(作詞:Fukase、作曲:Nakajin)のMVでした。中毒性のある映像。何度も見たくなる。
歌詞のパンチラインは「自分で自分を分類するなよ 壊してみせろよ そのBad Habit」。「Habit」が「習慣」とか「習性」などの意味なので「Bad Habit」は「悪習慣」「悪癖」となります。
「壊してみせろよ その悪癖」――。では、ここでいう「悪癖」とは何なのでしょう。深読みしたくなります。
私が感じたのは、この曲が、SEKAI NO OWARI流のJポップ批評だということ。さらに言えば、世界の音楽シーンの中で、ややガラケー的になりつつあるJポップの壁を壊す挑戦。
実は、当のSEKAI NO OWARIのFUKASE氏が、『ROCKIN'ON JAPAN』(2022年7月号)において、『Habit』について、こう発言しているのです。
Fukase氏の発言は、さらに具体的に、批評的に展開していきます。
なのに『Habit』は……
音楽的に分析すると、まずコード進行は、ひたすら「Am-G-F-E」を繰り返す、異常にシンプルなもの(原曲キー=A#mをAmに移調)。言ってみれば「井上陽水『傘がない』進行」なのですが、このシンプルさは、「ガラケー的Jポップ」が持つ、異常に複雑なコード進行や転調の逆張りとなっています。
そしてリズムも、極めてシンプルなディスコビート。リズミカルなギターは、私世代にはシック(Chic)のナイル・ロジャースを思わせるものです。
シンプルな循環コードと、シンプルなディスコビート。そうです。私は、この曲の向こう側にあの曲を見たのです――BTS『Dynamite』(作詞・作曲:David Stewart・Jessica Agombar)を。
SEKAI NO OWARIについては、『umbrella』(作詞:Fukase、作曲:Fukase・Saori)が好きで、東京スポーツ紙での私が連載「ヒット曲講座」の2020年・年間ランキング3位に置きました。
この曲は、上の「僕らがやってるのはJ-POP」という発言によれば、Jポップの枠内ということになりそうですが、それでも、この曲が持つ、いい意味での歌謡曲性には、彼らの「Jポップ批評眼」を感じます。
「Jポップ批評型音楽家」としてのSEKAI NO OWARI。同様に批評的感性を感じるサカナクションあたりとともに、日本の音楽シーンの視野をぐっと広げてほしいと思います。
では、そんなJポップ批評における、一種のメルクマールとなりつつあるBTSの新曲『Yet To Come(The Most Beautiful Moment)』(※1)。あれ? こっちは『Dynamite』や『Butter』(※2)より、Jポップっぽいかも。
この新曲のタイトルをサブタイトルも含めて直訳すると「最も美しい瞬間はまだ来ていない」。意訳すれば「お楽しみはこれからだ」。
SEKAI NO OWARIとBTSによる6月の頂上決戦――新しい音楽のSEKAI NO HAJIMARI。新しいお楽しみはこれからだ。
(※1)
作詞・作曲:PDOGG・RM・MAX・Dan Gleyzer・SUGA・J-HOPE
(※2)
作詞・作曲:Jenna Andrews・Rob Grimaldi・Stephen Kirk・RM・Alex Bilowitz・Sebastian Garcia・Ron Perry