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11回頭を下げた鳩山元首相、「お詫び」を明記する安倍首相 韓国の受け止め方は

木村正人在英国際ジャーナリスト
西大門刑務所歴史館の記念碑にひざまずく鳩山元首相(写真:Lee Jae-Won/アフロ)

韓国を訪問中の鳩山由紀夫元首相は12日、ソウル市内にある、独立活動家らの「苦難の歴史」が展示されている西大門刑務所の跡地(西大門刑務所歴史館)を訪問し、ひざまずいて頭を垂れた。

西大門刑務所歴史館で手を合わせる鳩山元首相(笹山大志撮影)
西大門刑務所歴史館で手を合わせる鳩山元首相(笹山大志撮影)

一方、安倍晋三首相は14日に発表する戦後70年談話に、「村山談話」のキーワードと位置づけられている「お詫び」や「侵略」などすべての文言を明記するとNHKが報じた。

安倍首相を支持する産経新聞によると、村山談話の「お詫びの気持ちを表明」した部分を引用するような間接的な形で触れる案が有力になっているという。

戦後50年に出された村山談話のカギとなるフレーズは次の3つだ。

(1)「植民地支配と侵略(aggression)」

(2)「多くの国々、とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛(tremendous damage and suffering)を与えた」

(3)「それに対して痛切な反省の意と心からのお詫びの気持ちを表明する(express my feeling of deep remorse and state my heartfelt apology)」

どれもこれも必要最小限にして不可欠な言葉だ。が、同時に日本に求められるのは歴史に尻込みすることではなく、アジアの平和と安定、繁栄という未来にこれからも強くかかわっていくことだ。

日本は中国、韓国に配慮しつつも、アジア太平洋全体を見渡す必要がある。つぶやいたろうラボ(旧つぶやいたろうジャーナリズム塾)4期生の笹山大志くんがソウルから戦後70年の夏をリポートする。

真の謝罪とは何か

[ソウル=笹山大志]12日午後、西大門刑務所歴史館を訪れた鳩山元首相は硬い表情を崩さなかった。いたる所で手を合わせ、お詫びの言葉を口にした。独立運動家の追悼碑の前では靴を脱ぎ、ひざまずいて謝罪した。

「日本の元総理として1人の日本人、人間としてここに来ました」「拷問というひどい仕打ちを与えてしまい、命を奪うことまで平気でやったことに、心からのお詫び、追慕の思いをささげたい」

西大門刑務所歴史館を訪れる鳩山元首相(笹山大志撮影)
西大門刑務所歴史館を訪れる鳩山元首相(笹山大志撮影)

西大門刑務所では日本の植民地時代に収容された独立運動家らが拷問によって次々と亡くなったことから独立運動の象徴になっている。その一方で戦後、韓国の軍事独裁政権時代に民主化運動家たちが同じように収容され、拷問で命を落としたという負の歴史も持つ。

後に韓国大統領になる金大中氏もここに投獄されていた。

10人ほどの職員に出迎えられた鳩山元首相は40人を超える報道陣に一礼すると、最初に、朝鮮のジャンヌダルクと呼ばれた独立運動家の柳寛順が亡くなった監獄に足を運んだ。説明を受けると静かにユリ30本を添え、手を合わせた。

終始、大所帯の報道陣は鳩山元首相を囲み、「お詫び」の一言を取ろうと必死になった。追悼碑前でひざまずいた鳩山元首相の姿はこれ以上ないニュースとなった。

2001年にここを訪問した小泉純一郎元総理は次のように語っている。

「日本の植民地支配によって韓国の国民に対して多大な損害と苦痛を与えたことに対しまして、心からの反省とまたお詫びの気持ちをもって、いま、色々な展示や施設や拷問のあとを見させて頂きました」

「これは総理大臣としてというよりもむしろ、一人の政治家として、一人の人間として、このような苦痛と犠牲を強いられた方々の無念の気持ち、これを忘れてはいけないなと思いました」

しかし、韓国内では「日本の罪を矮小化している」と反発を買った。

鳩山元首相の知名度は韓国では決して高くはないようだ。現場にいた見学者らは「誰だかよくわからなかった」「日本の元総理なの?」「謝罪したとしても、韓国ではあまり著名な人ではないから影響力はないのでは」と話していた。

しかし、記念碑の前でひざまずいて謝罪する日本の首相経験者の姿に韓国では驚きと賞賛の声があふれた。

ひざまずく鳩山元首相の姿を伝える韓国各紙(笹山大志撮影)
ひざまずく鳩山元首相の姿を伝える韓国各紙(笹山大志撮影)

韓国各紙は朝刊1面トップで、ひざまずく鳩山元首相の写真を掲載。「11回、頭、下げる」(東亜日報)、案内した西大門区庁長の言葉を引用する形で「誠意を見せた」(中央日報)と報じた。

「偉大な勇気に感謝する」「日本の政治家にこんな人がいたなんて驚きだ」「安倍首相も見習え」。朝鮮日報電子版にはこんなコメントがあふれた。一方で、「ひざまずいて謝罪することが真の謝罪だというわけではない」という冷ややかな書き込みもある。

NHKの報道では、14日に発表される戦後70年談話には「お詫び」の言葉が明記されているという。今年4月のアジア・アフリカ会議と米議会上下両院合同会議での演説では「植民地支配」「お詫び」の言葉がないとして非難を浴びてきただけに、大きな変化と言えよう。

ただ、「お詫び」が韓国の対日感情を和らげるという効果は期待できそうにない。「安倍首相が謝罪したとしても、すぐに許すという簡単な話ではない。次の内閣も同じように引き継いでいけるかが重要だ」と日系企業に勤める韓国人男性(27)は話す。

韓国における真の謝罪とは、贖罪を長く示し続けることができるかを意味する。70年談話に対する韓国内での注目度は決して低くない。しかし、談話の文言に一喜一憂すまいという雰囲気もある。「お詫び」談話は日韓歴史問題のゴールではなく、あくまでスタートラインという位置付けだ。

(おわり)

笹山大志(ささやま・たいし)1994年生まれ。立命館大学政策科学部所属。北朝鮮問題や日韓ナショナリズムに関心がある。韓国延世大学語学堂に語学留学。日韓学生フォーラムに参加、日韓市民へのインタビューを学生ウェブメディア「Digital Free Press」で連載し、若者の視点で日韓関係を探っている。

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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