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森保JAPAN、「逆足」の筆頭候補は中島?原口?あるいは乾?

小宮良之スポーツライター・小説家
ロシアW杯のベルギー戦、得点を決めて歓喜する乾貴士(写真:ロイター/アフロ)

「Pierna Cambiada」

 これはスペイン語のサッカー用語で、サイドアタッカーの「逆足」を意味する。右利きの選手は左サイド、左利きの選手は右サイドでプレー。「同足」の場合は、クラシックなウィンガーに近く、左を駆け抜け、利き足の左足で得点をアシストするクロスを折り返す。逆足は左サイドから中央に切り込み、右足で決定的なパスを送り、もしくはシュートを狙う。ゴールに直結する選択肢を持っているのが特長だ。

 現代サッカーにおいて、最大の攻撃オプションを委ねられているポジションと言えるだろう。

ロシアW杯、日本代表における逆足

 ロシアW杯、日本代表の攻撃を担ったのは、左サイドで逆足を担当した乾貴士だった。

 あるいは、それは適切な表現ではないかも知れない。原口元気、大迫勇也、香川真司の存在感も絶大だった。長友佑都、酒井宏樹のバックアップや、柴崎岳や長谷部誠のお膳立てがなければ、攻撃は成立しなかったとも言える。吉田麻也、昌子源が積極的に守り、川島永嗣が踏ん張ったことで、得点は生まれたのだ。

 しかし、2得点した乾がサイドの局面から攻撃を動かしていたことは間違いない。

 乾は、1対1にアドバンテージがある。一瞬で、ゴールにアプローチできる。グループリーグ、セネガル戦では、右足で逆サイドに巻き込む一撃必殺とも言えるシュートを叩き込んでいる。ラウンド16,ベルギー戦のカウンターで見せたミドルシュートも、総毛立たせるものがあった。一方で彼が先発を外れたポーランド戦では、サイドで起点を作れず、相手にイニシアチブを奪われた。

 逆足の名手の存在は、今後も日本サッカーの未来を左右することになるだろう。

世界の逆足

 その流れは、世界が最先端を行っている。

 リオネル・メッシも、クリスティアーノ・ロナウドも、逆足のアタッカーとして頭角を現した。二人は超人的選手で、すでにその枠には収まらない。しかし、逆足で切り込んでのフィニッシュによって、ディフェンスを奈落の底に突き落としてきた。

 ビッグクラブは、得点力を備えた逆足を戦術軸の一つにしている。マンチェスター・シティのラヒーム・スターリング、ベルナルド・シルバ、リバプールのモハメド・サラー、サディオ・マネ、チェルシーのエデン・アザール、FCバルセロナのコウチーニョ、レアル・マドリーのガレス・ベイル、バイエルン・ミュンヘンのアリエン・ロッベン、フランク・リベリ、パリ・サンジェルマンのネイマール・・・。彼らは突破力だけでなく、要所でゴールを決められる。

逆足の重要性が増した理由

 逆足の重要性が増した理由はあった。

 近年、戦術面の進歩によって、中心部の守りは強固になっている。ディフェンス同士、チャレンジ&カバーが徹底され、綻びを探すのは難しい。攻撃側としては、二重三重の堀と壁の城門に突っ込むようなものだ。

 しかし、脇から攻めることで活路は生まれる。外側の守りは中心部よりも手薄で、外から中央へ横移動することによって、堅陣もズレを生じさせる。そこで優れたサイドアタッカーを配置し、小さな穴から突き破るのだ。

 崩しきらずに、得点ができてしまう。コウチーニョはそのスペシャリストと言えるだろう。単独で、一瞬でもマークをずらすことができたら、狙撃手のようにゴールの隅を狙い撃ち。強弓で敵大将を仕留めるような感覚だ。

森保JAPANの逆足筆頭候補は?

 ロシアW杯後に就任した森保一監督は、初陣となったコスタリカ戦で中島翔哉(ポルティモネンセ)、堂安律(フローニンゲン)を逆足として両サイドで起用している。二人は勝利をもたらす殊勲者になった。いずれも、ロシアW杯で選出されていてもおかしくなかった選手だ。

 では、森保JAPANで逆足の筆頭候補となるのは誰か?

 森保監督は10月12日のパナマ戦、16日のウルグアイ戦に向け、原口元気を招集したが、乾の招集は見送っている。

 乾は所属するベティスではインサイドハーフを任され、今までとは違うポジションと格闘していることが未招集の理由か。あるいは、単純に30才という年齢から、若返りを進めている状況も向かい風になった。代表招集は選手の体力的負担になるだけに、「実力が分かっている選手を招集するまでもない」とも言える。

 一つ断定できるのは、乾が逆足として飛び抜けた存在ということだ。

 ドリブルは切れ味鋭く、シュートも高い精度を誇る。世界最高峰リーガエスパニョーラで欧州カップにも出場するベティスでポジションをつかみ、その実力は海外組の中でも頭一つ抜けている。着目すべきは、サイドを支配する守備力にもある。スペインでのプレーで身につけたもので、単純なハードワークではない。侵入経路を切って、同時にパスコースも消す。ポジショニングが適切で、戦術的守備ができるようになった。当初、独りよがりな守備でスペースを与え、そこを敵に使われてしまい、ビッグクラブ相手では起用されなかったが、今や百戦錬磨の風格を備えた。

 守備の安定で、攻撃の破壊力が増すようになった。

人材の多い逆足

 もっとも、左サイドの逆足は争いが熾烈だ。

 ハリルJAPANでは、左サイドアタッカーとして原口は絶大な存在感を誇っていた。森保JAPANの初陣、中島はナンバー10を背負い、チームを牽引。代表デビューを飾ったハンブルクの伊藤達哉のような若手もいる。移籍先の川崎フロンターレでは苦労しているが、齋藤学の名前も忘れるべきではない。また、名古屋グランパスの青木亮太も注目すべき存在だ。

 サイドアタッカーは人材が豊富。右サイドでは本田圭佑が引退を発表後、堂安が貴重な左利きとして異彩を放ちつつある。一方で、同足でのプレーを得意とする伊東純也のようなスピードスターもいる。

 日本代表の浮沈。

 それは、逆足の躍動が一つのバロメータになる。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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