【姫路市】熟成からすべてが始まる。既知の魚の味わいがここまで変わるとは。ライブ感あふれる炭割烹、誕生
炭のはぜる音、芳しい香り、しなやかな所作――。目の前で繰り広げられる一連の流れは、まるで物語のよう。平穏な空気を感じながら、未知なる魚介のうま味と向き合える「炭割烹 えのき」が7月中旬、姫路市土山に誕生しました。
要となるのは「炭火」と「熟成」
ひかえめにボサノバが流れる7席のカウンターで、おまかせコースを。料理人は榎晋哉さんです。大学への進学で姫路を離れ福岡へ。卒業後の20年、和食や焼き鳥をはじめとする店で研鑽を積んできました。地元に戻り、出張料理人として活動を開始、機が熟すのを待ち店舗を構えたのです。
厨房やトイレには水墨アートを施し、外観のモルタルには炭の粉を混ぜ込み、鍵を握る「炭火焼き」をイメージして。
もう一つ、重要な役割を果たす「熟成」について。端的にいうと、マグロは冷風での乾燥熟成で素材のうま味を閉じ込め、白身魚は凍る寸前の氷温熟成でうま味を全体に行きわたらせる。
「カウンター席」「おまかせコース」という文言に構えてしまう人がいるかもしれない。しかし、ライブ感と珍しい熟成料理、榎さん夫妻がもたらすやわらかい雰囲気で、いい意味での脱力感を覚えるのでした。
夫妻の合作だという看板の文字から、二人のバランスの良さがうかがえます。「閉店後は次へつなげるため、ミーティングをします」と言う榎さん。謙虚さと向上心あっての「えのき」なのですね。
おまかせコース(1万1000円~)
小鉢 / 刺身 / お椀物 / 炊き合わせ / 八寸 / 焼き魚 / お肉 / 蒸し物 / ご飯物 /甘味
一品一品が心を潤す
千姫の感想とともに、ある日のメニューの一部を紹介します。
・お椀物
5日間熟成させたノドグロは評判にたがわず、うま味十分。シャキシャキとした歯触りの新レンコンと。長崎の干しトビウオを炭で焼いて仕上げたあごだしにうっとり。
・熟成マグロ刺し
とろけるマグロ。これぞ乾燥熟成の為せる業です。日本酒のみならず、ジンにもきっと合う。
・野菜の炊き合わせ
夏は冷やし炊き合わせ。利尻昆布と鹿児島産・本枯節のだし。それぞれの野菜は別々に炊くそうです。
・ウナギの筒焼き
形を見るとウナギではない。食してみても知っているウナギではない。中骨を取り除いた筒形で、炭で焼いた皮目はパリッ、脂を閉じ込めた身はふわふわ。白焼きが好きな千姫は大満足。
・マナガツオのすだちポン酢
プロローグは炭焼きの煙。
5日間熟成したマナガツオをじっくり味わいたくて、咀嚼回数がいつもより多くなりました。自家製ポン酢のすっきりしたエピローグ。
・ご飯物
岡山県の朝日米を毎日精米し、土鍋で炊きあげています。甘い。
熟成後に自家製たれに漬け込んだ、銀ダラのみりん干し焼きを合わせるとご飯の進むこと。
食としっかり向き合え、心に潤いを与えてくれる割烹。
記念日にももちろんいいけれど、なにげない日に訪ねるとその日が特別になる。
炭割烹 えのき
兵庫県姫路市土山東の町12-12-101
電話番号:080-9298-9458
営業時間:18:00~23:00(閉店) ※完全予約制。予約は電話かインスタグラムのDMで
定休日:日曜
駐車場:あり