外国人の日本語教育、国が責任もって法整備を 一日も早い基本法制定求めオンライン署名活動始まる
日本の正面玄関が開いた歴史的転換点
2018年12月8日、臨時国会で大きな争点となった改正入管法が成立しました。これまで単純労働を担う外国人材の受入れを表立ってしてこなかった日本が、正面玄関から単純労働分野に外国人を招き入れることになり、まさに歴史的な転換点とも言える出来事となりました。
実は、この改正入管法が成立する前から日本で中長期に暮らす外国人は増加していて、すでに2017年末の時点で約260万人に上っています。特に2015年以降、顕著に増加し、2016年から2017年にかけては約18万人増となりました。
そしてこれらの在留外国人の内、およそ半数以上が永住、定住、日本人の配偶者等などの在留資格を持ち、日本国内での就労に制限なく、家族を帯同することも更新も可能な「事実上の移民」と呼べる人々です。
改正入管法では新たに創設される在留資格の1つ「特定技能2号」が、家族帯同ができ更新もできるという事で、移民政策であるかないか、といった論点も浮上していました。しかし実はそれ以前から日本の「移民」となる道はすでに存在しており、数も増え、多くの移民が暮らす社会がすぐ隣に形づくられています。そしてこれら移民の人々は適切な政策がないことで多くの困難に直面してきました。
共に生きる社会へ、関連予算224億円
政府は12月25日、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」を取りまとめ閣議決定しました。すでに日本に暮らしている定住者や子どもたちを含めたすべての外国人と日本人が共に生きる社会の構築に向けて、「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮)」の創設や災害時の支援の充実、日本語教育の推進などを含む126の施策が示され、関連予算は224億円に上ります。
一方で「総合政策」は現時点では各省庁から出された施策の「寄せ集め」のような印象もぬぐえず、自治体に多くがゆだねられるのでは、といった危機感も伴って実行性の点で不安が残ることも事実です。また、移民ではないとの前提に立ち、中長期的な視座を持たないまま対処療法的に不具合を修正しようとし続けることが、将来に大きなしわ寄せをもたらすのではないかとの懸念もあります。
社会統合の柱、日本語教育は足元不安定
移民や外国人が日本に馴染み、社会に暮らすすべての人が安心、安全に生活するために、言語教育(主に共通語としての日本語教育)が重要な役割を担うことは多くの人の共感を得られることだと思います。しかし現在、今後の施策の大きな柱となるべき「日本語教育」は、それ自体に根拠となる法律が存在していません。
このため、日本語学校や大学などで学ぶ留学生を除いて、外国人生活者や子どもに対しては各自治体や学校、NPO等の努力によって日本語学習機会が提供・維持されてきていますが、その多くがボランティアに頼っているのが現状です。
日本語ボランティアが多く確保できる地域かどうか、学校に日本語を母語としない子どもが多く在籍しているかどうか、自治体が日本語学習支援に積極的かどうかなどによって、そうでない地域との間で日本語学習機会に大きな格差が生じています。
予算と専門家不在支援の限界迫る
ひとくちに「日本語支援がある」と言っても、学校の先生やボランティアなどが「手探り」で日本語を教えている地域から、専門家などが地域資源と協力連携しながら効果的な支援を行っている地域まで、その質と内容に大きなバラつきがあることも深刻な問題となっています。
たとえばある地域の小学校に高学年で転入した東南アジアにルーツを持つMくんの場合、来日直後から、地域で開かれている日本語ボランティアの教室に通い、週1回、2時間のサポートを受けてきました。しかし、Mくんの支援を担当するのは日本語を教えたことのないボランティアであり、毎回必ずほとんどの時間を「教科書にルビを振らせる」ことに費やしていました。
Mくんは、教科書に書かれた日本語の意味もよくわからないまま漢字にルビを振り続けましたが、支援を受け始めて数か月が経過しても、日本語はあいさつや簡単な単語が話せるくらいに留まりました。
また、他の自治体では支援に使える予算が限られているため、有償ボランティアによる1人当たりの支援時間数が10時間に満たず、簡単なあいさつやひらがなを覚えたところで終了してしまい、それ以上のサポートができずに放置となってしまったケースもあります。
自治体の手探りやボランティアの方々の熱意による日本語教育には限界があります。ボランティアの高齢化や担い手不足も懸念材料となっている中、日本語教育を必要とする学習者の数が増え続ければ早晩、破綻しかねません。
日本語教育における国の責任明確に、足場固めを
こうした日本語教育における質と量の格差を是正することは喫緊の課題であり、かつ、国が責任をもって実行しなくてはならない領域です。そのためには、日本という国が日本語教育をどのように位置づけ、国、自治体、その他の関係機関が負うべき役割と責務とは何か、などを定める、基本的な法律が必要不可欠です。
基本法は、家づくりで言えば基礎にあたる部分です。日本語教育はこれまで、その基礎があいまいなまま、各自治体やNPOなどがそれぞれの努力で大小さまざまな柱を立て続けてきました。その足元は不安定であり、柱の長さもそろわず、どんな家を建てているのかも、誰もわからないままとなっています。
日本語教育推進のための基本法案誕生―通常国会での議員立法目指す
2016年よりこの基本法の制定を目指して活動を行ってきた超党派の「日本語教育推進議員連盟」は、今月「日本語教育の推進に関する法律案」を定めました。来年の通常国会での成立を目指していますが、まだ外国人に対する日本語教育機会拡大の必要性や、この法案自体の重要性に対する認知度が低く、心もとない状況です。
社会の中の共通語を理解しない人々の割合が高まることは、外国人だけでなく日本社会に暮らすすべての人にとって、安心と安全な社会基盤を揺るがすことにもつながります。これから新たにやってくる方々を含め、日本に暮らす、日本語教育を必要するすべての人に対して、国や社会全体が責任をもって適切な教育機会を保障していかなくてはなりません。
一日も早い基本法の成立求め、オンライン署名始まる
現在、日本語教育に携わる関係者ら有志が呼びかけ人となり、この基本法の成立を後押しするためのオンライン署名活動が行われています。今後10万筆の署名を集め、国会議員などに提出することを目指しています。
呼びかけ人のひとりでもある、武蔵野大学言語文化研究科の神吉宇一准教授は基本法の早期設立推進の必要性について以下のようにコメントしています。
「通常国会における議員立法というのは,会期の終盤に議論されるそうです。ですが,それでは改正入管法の施行に間に合いませんし,場合によっては時間切れで議論ができなくなる可能性もあります。そのような事態を避けるために,署名活動を行い,法律の早期成立を働きかけます。」
今後、いかに機械翻訳の精度が上がったとしても、この圧倒的な日本語社会の中で日本語が理解できず、主体的に話せず、読み書きできないことのハンディキャップは大きく、さまざまな困難の源泉となり得ます。また、特に子どもたちは学校の中で「日本語を通して新しい概念を習得していく」必要があり、日本語がわからないことは心身の健全な発達にとっても深刻な影響を及ぼしかねません。
少しでも国が責任をもって外国人や海外ルーツの子どもたちの日本語教育を推進すべきだと感じる方は、その声をぜひ署名を通じて国に届けていただきたいと思います。