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大手金融機関に多額損失をもたらしたアルケゴスとは何か

久保田博幸金融アナリスト
(写真:ロイター/アフロ)

 野村ホールディングスは、米国子会社と取引先との間で多額の損害が発生し得る事象が起きたと発表。さらにクレディ・スイス・グループが米ヘッジファンドとの取引に関連し、持ち高整理に動いていると明らかになり、29日の東京時間で一時リスク回避のような動きとなった。

 三菱UFJ証券ホールディングスは30日、欧州子会社での米顧客との取引において多額の損失が生じる可能性があると発表した。29日時点での損失の見込み額は約3億ドル(約330億円)とか(30日付ブルームバーグ)。

 野村ホールディングスの損害発生とクレディ・スイスのポジション調整売り、さらには三菱UFJ証券ホールディングス損失の原因は、どうやら同じであった。

 その原因となったのが、ヘッジファンドのアルケゴス・キャピタル・マネジメントである。これは米国のヘッジファンド、タイガー・アジア・パートナーズの元運用者であるビル・ホワン氏が運用するファミリーオフィスである。ファミリーオフィスとは超富裕層が外部の金融機関のサービスを利用せずに自ら運営し、金融資産を運用するものである。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によると、アルケゴスはホワン氏の個人資産100億ドルを運用していた。金融機関からの借り入れ(レバレッジ取引)によって実際の運用規模はその数倍に膨らんでいた。

 アルケゴスが利用していたレバレッジの多くは野村ホールディングスやクレディ・スイス・グループなどの銀行が、スワップや差金決済取引(CFD)を通じて提供していた。この取引ではアルケゴスが実際に原資産を保有することはない(30日付ブルームバーグ)。

 ゴールドマン・サックス・グループやモルガン・スタンレーなどの銀行は、アルケゴスがレバレッジを使って積み上げた巨額のポジションを強制的に売却したようである。

 レバレッジを効かせた大規模な賭けが外れるとマージンコール(追加証拠金の要求)がかかり、ヘッジファンドなどの投資家は損失をカバーするための追加担保として現金か証券を差し入れなければならない。しかし、担保が差し出せなかったため強制的にポジションが清算されることになり、影響が広がった(30日付ブルームバーグ)。

 それが野村ホールディングスやクレディ・スイス・グループ、三菱UFJ証券ホールディングスなどの損失の原因とみられる。

 そもそもひとりの個人資産の運用するひとつの会社がデリバティブを利用して秘密裏に大規模なポジションを構築できたという事実そのものへの批判が強まる可能性もある。アルケゴスは複数の金融機関から与信を受け、高リスク取引を積極化させていた可能性も指摘されており、単体の金融機関では全体のリスクが見通せなかったとの指摘もあった。

 これは氷山の一角なのか。実体が明らかになれば、ヘッジファンド規制論が再燃する可能性がある。それとともに、これをきっかけに過剰な投資の実体が明らかとなり、株式市場にあらためて影響を与える可能性もある。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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