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高評価の口コミで料金割引はNG 消費者庁が措置命令、ステマか否かの境界線は

前田恒彦元特捜部主任検事
(提供:イメージマート)

 来院者のワクチン接種料金を割り引く見返りに、グーグルマップの口コミ欄に5つ星など高評価のコメントを書かせ、ステルスマーケティングに及んだとして、東京都内のクリニックが消費者庁から措置命令を受けた。昨年10月にステマ広告が景品表示法の「不当な表示」として規制されるようになって以来、初めての適用例となる。

「よくあるケース」だからこそ要注意

 重要なのは、消費者庁が初適用例として従業員による悪質なやらせ口コミや社会問題となった著名なインフルエンサーによるSNS投稿ではなく、一般の利用客に口コミの協力を求めた「よくあるケース」を取り上げている点だ。利用客の自主的な口コミではなく、事業者がその内容にまで関与したステマに当たるのに、広告であることが明示されていないと判断された。

 そうすると、飲食店が利用客に割引券を配ってグーグルマップやグルメサイトに高評価の口コミを書かせたり、商品の販売業者が購入者にアマゾンギフト券をプレゼントする見返りにアマゾンに高評価のレビューを書かせたりする例も同様にアウトということになるので、注意を要する。

 口コミの形式をとったステマだと、消費者が事業者と全く無関係の第三者による純粋な感想だと勘違いしたり、その内容をそのまま正しいと受けとったりする可能性が高まるからだ。

ステマか否かの境界線は?

 消費者庁が示したガイドラインによると、事業者が第三者を利用して口コミなどを投稿させた場合、次のようなケースがステマに当たるとされる。

・第三者に商品の特徴などを伝え、それに沿った内容をSNSや口コミサイトに投稿させた場合
・自社商品の購入者や不正レビューを集めるブローカーに依頼し、自社商品について評価を上げる口コミを投稿させた場合
・逆に競合事業者の商品やサービスについて、自社のものと比較して低い評価を投稿させた場合
・第三者に無償で商品を提供し、SNS投稿を依頼した結果、第三者が事業者の方針に沿った投稿を行った場合
・第三者に対し、経済上の利益があると言外から感じさせたり、言動から推認させたりして、その商品について投稿させた場合

 ステマ広告に当たるか否かの境界線は、第三者に明示的に依頼や指示をしたか否かを問わず、事業者が第三者の口コミの「内容」の決定に関与しているか否かという点になる。客観的な状況からみて、第三者の自主的な意思に基づく投稿が行われていると認められるのであればセーフだ。

 例えば、事業者が口コミ投稿の謝礼として割引券などを配布する場合でも、5つ星といった高評価の口コミに限定せず、1つ星を含め、利用客において自ら自由に評価を決め、書き込める場合であれば、ステマには当たらない。

違反に対するペナルティは?

 ステマによる広告が優良誤認や有利誤認に当たらない限り、ステマ規制に違反しただけだと課徴金を課されることはない。それでも、消費者庁から差し止めや再発防止といった措置命令が下されるし、事業者名なども公表される。もしこの命令に違反したら最高で懲役2年、法人などの業務の一環だとその法人なども最高で3億円の罰金に処されることになる。

 事業者のステマ広告に協力して高評価の口コミを書いた利用客には罰則などはないものの、口コミ全体の信用性を落とすことに加担しているわけだし、消費者庁からも調査を受け、事情を聴かれることになる。事業者から見返りを提示されて高評価の口コミへの協力を求められても、安易に応じるべきではない。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

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