元ホステス。楽しく飲んで100万円生活から一転。必死で恋愛できませんでした~スナック大宮問答集68~
「スナック大宮」と称する読者交流宴会を東京、愛知、大阪などの各地を移動しながら毎月開催している。味わいのある飲食店を選び、毎回20人前後を迎えて和やかに飲み食いするだけの会だ。2011年の初秋から始めて開催150回を超えた。のべ3000人ほどと飲み交わしてきたことになる。
筆者の読者というささやかな共通点がありつつ、日常生活でのしがらみがない一期一会の集まり。参加者は30代から50代の「責任世代」が多い。お互いに人見知りをしながらも美味しい料理とお酒の力を借りて少しずつ打ち解けて、しみじみと語り合えている。そこには現代の市井に生きる人の本音がにじみ出ることがある。
その会話のすべてを再現することはできない。参加者と日を改めてオンラインで対話をした内容をお届けする。一緒におしゃべりする気持ちで読んでもらえたら幸いだ。
***カヨさん(仮名。独身、38歳)との対話***
六本木や銀座のクラブで10年。キレイな飲み方をするお客さんばかりでした
――ホステス業を10年もやっていたそうですね。僕は便宜的に「スナック大宮」という名称で読者交流宴会を企画していますが、「本職」の方が来ると緊張します……。
いえいえ。ホステスなんて誰でもできるので、私の中では底辺の職業です。学生時代からバーテンダーのアルバイトをしていて、そのまま六本木や銀座のクラブで働くようになりました。キレイな飲み方をするお客さんばかりなので楽しかったです。月100万円以上はもらっていて、実家暮らしだったのでお金も好きなように使えました。
――それは確かにお気楽な働き方ですね。でも、適性があったから10年も続いたのではないですか?
それはそうですね。私はお客さん一人ひとりの「特別に素敵なところ」を見つけるのが得意だったし、お酒を飲みながら楽しい話を聞くのが好きなので、水商売に向いていたと思います。最後に働いた店ではナンバーワンになりました。
「(雇われ)ママをやらない?」と誘われたこともあります。でも、私はお金の計算が苦手だし、ここでママをやったら死ぬまで水商売から抜けられないとも感じました。29歳のときです。
平日が大変だからこそ休日の有難みがわかる。水商売に戻るつもりはありません
――辞めたきっかけはありますか?
付き合っていた彼氏から「結婚する?」と言ってもらって、同棲を始めたことです。でも、うまくいきませんでした。
私はずっと実家暮らしだったので、家事は全くできず、生活費の管理もできませんでした。10歳年上で一人暮らしが長い彼から料理などを教えてもらいましたが、私は失敗ばかり。彼にはモラハラっぽいところもあって、すごく怒られるようになって……。
彼も元々はクラブのお客さんだったので、お店で気を配っていた私のことが好きだったのかもしれません。キッチリしている彼と大雑把すぎる私では合わなかったのだと思います。結婚していても今ごろ別れていたはずです。
――別れても水商売には戻らなかったんですね。
はい、健康・美容分野で好きな仕事を見つけられて、今では会社勤めをしています。福利厚生が整っているのは安心ですが、最初はすごく大変でした。報連相を心がけながら毎日8時間働くって、思った以上にしんどかったです。チームワークが苦手なので、正直言って今でも自分に会社員が向いているとは思いません。
でも、平日は大変だからこそ、休日の有難みがわかったりします。これからも水商売に戻るつもりはありません。あれは特殊な仕事なんだな、と今では思います。
結婚って何だろうと考えたくなり、結婚を題材にしている人のところへ
――そんなカヨさんがスナック大宮に遊びに来てくれた理由を教えて下さい。
昼の仕事に慣れるのに必死だったこともあって8年以上恋人がいません。この年になると「どうして結婚しないの?」と聞かれることも多くて、結婚って何だろうとか絶対にしなくちゃいけないものなのかとか考えたくなりました。だったら、結婚を題材にしている人のところに行こうと思ったのがきっかけです。
――30代以降の結婚を題材にしている人、まさに僕ですね(笑)。何か得るものはありましたか?
結婚についての話はあまり聞けなかったのですが、とても楽しかったです。大宮さんは本やウェブマガジンを申し訳なさそうに宣伝していましたね(笑)。もっと強く押せばいいのにできないのは悪い人じゃないからだな、と思いました。
周りにいる人を見れば、その人の人柄はなんとなくわかります。スナック大宮には女性は真面目で優しい人が多かったです。男性はノリがいい人たちと出会えました。お酒を飲んで笑い合える人たちです。
――カヨさんの近くにいた人たちも、特に男性は嬉しそうにしていました。確かにカヨさんは人それぞれの魅力を引き出すのが得意なのかもしれませんね。
ありがとうございます。私自身は結婚したいのかどうかはまだわかりません。スナック大宮で既婚者のお話をいろいろ聞けばわかるかもしれませんね。とにかく今は誰かとデートしてみたいなと思っています。
――いい心がけですね(笑)。カヨさんはどんな人とデートしたいんですか?
素直で優しい人です。私は駆け引きが苦手だし、怒ったりしない人が好きだから……。今では料理も得意になったので、久しぶりにお付き合いができたら作ってあげたいです。
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安定志向のアリと刹那的なキリギリス。人間にはどちらの面も必要だから補完し合える
以上がカヨさんとの対話だ。ちょっとだけネジがズレているようなカヨさんは不思議な魅力を放っていて、銀座のクラブでナンバーワンになった経歴にもうなずける。一方で、表面的に常識的な振る舞いが求められる日本企業で働き続けるのはかなり大変だと思った。「向いていない」と感じつつもがんばっているのは偉いと感じつつ、他にも彼女の力を生かせるような場はある気がしている。
寓話『アリとキリギリス』で例えるなら、カヨさんはアリに憧れてアリになろうとしているキリギリスだろう。でも、アリのほうがキリギリスのことが好きだったりするものだ。安定を求める真面目なアリと、この瞬間の喜びを謳歌するキリギリス。人間にはどちらの面も必要なので、アリ的要素が強い人とカヨさんのような人は補完し合える間柄になれると思う。
個人的には、人それぞれの「特別に素敵なところ」を見つけるのが得意だと言い切るカヨさんが羨ましくなった。その特技は相手の心を温めて、回り回って自分の生活も潤すだろう。水商売からは足を洗ったというカヨさん。会社員生活もようやく落ち着いてきたようなので、今後はいろんな場に顔を出してみればいいと思う。