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中国を選んだフィリピンのドゥテルテ大統領――訪中決定

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
フィリピンのドゥテルテ大統領(写真:ロイター/アフロ)

フィリピンのドゥテルテ大統領が習近平国家主席の招聘を受け10月18日~21日、中国を公式訪問する。南シナ海問題を避けながら友好関係を目指すようだが、背後にはアメリカに対抗した中国のしたたかな戦略とチャイナ・マネーがある。

◆中国外交部による報道

10月12日、中国の外交部は「習近平国家主席の招聘に応じて、フィリピン共和国のドロリゴ・ドゥテルテ大統領が、10月18日から21日まで中国を公式訪問することが決まった。中国は、ASEAN(東南アジア諸国連合)以外で、ドゥテルテが最初に訪問する国となった」という通知を発表した。

同日の外交部記者会見によれば、訪中期間中、習近平国家主席はドゥテルテ大統領と首脳会談を行い、両国関係の改善と各領域における協力および共通の関心事である国際的地域問題に関して深い意見交換を行うとのこと。李克強国務院総理および張徳江国務院副総理とも会談することになっている。

最後に私は強調したいとして、外交部報道官はおおむね以下のように付け加えた。

「フィリピンは中国の伝統的な友好国で、国交正常化以来、両国は各領域において互いに信頼しあって発展してきた。両国の友好関係は地域の趨勢に大きな影響をもたらす。中国はフィリピンとの友好的な協力関係を非常に重視している」

ある中国政府関係者は筆者に「アキノは頭がおかしくなったんだ」という趣旨のことを、かなり汚い罵倒の言葉を使って批判したことがある。ドゥテルテはアキノではないという言葉が、行間に透けて見える。

◆フィリピンの英文紙による報道

10月10日付のフィリピンの英文紙「The Philippine Daily Inquirer」は、ドゥテルテ大統領がすでに訪中の意を表していて、「訪中の際のキーポイントは、南シナ海問題に関して、やたら騒ぎ立てないということだ」と強調したと書いている。

それによればドゥテルテ大統領は「私には一種の良い予感があって、今後は中国とはうまくやっていけると思っている。ただし、それはスプラトリー諸島問題を持ち出さないということが前提だ。なぜなら、この問題に関しては、われわれは(中国に)勝てないからだ」と言ったとのこと。

さらに彼は「訪中を利用して多くのものを頂き、それによって我が国のインフラを改善する。たとえば病院とか、学校とか、発電所など」とも語っているようだ。

◆中国からのプレゼント――オバマ大統領に対抗して

ドゥテルテ大統領が、チャイナマネーによって心を買われたことは、すでに本コラムでも何度も書いてきたので、まあ、この発言は当然だろうと思われる。

筆者の注意を引いたのは、もっとほかのことだった。

それは中国がなんと、フィリピンに「大型麻薬中毒者治療センター」設立を支援したことである。

ドゥテルテ大統領がオバマ大統領を「地獄に落ちろ」とまで罵倒した理由は、「ドゥテルテ大統領が、まともな裁判も経ずに麻薬中毒者あるいは販売者を逮捕して射殺してしまったこと」を、オバマ大統領が人権問題だとして非難したことにある。

そのために10月12日、ドゥテルテ大統領は「来年のアメリカとの合同軍事演習は中止する」という声明を出した。

理由として12日の「フィリピン フィナンシャル」は、ドゥテルテ大統領が、「アメリカは共同軍事演習をしたあとに、毎回、軍事演習に使った武器装備を全てアメリカに持ち帰ってしまう。あの軍事演習は、アメリカに利益をもたらすだけで、フィリピン軍にはいかなる利益も残してない」という不満を表したと書いている。「もし戦争になったら、

われわれは、本当にアメリカを必要とするのだろうか?」とも述べたという。

中国にとって、こんな嬉しいことはないと言っても過言ではないだろう。

そこで中国は、ドゥテルテ大統領を怒らせたオバマ大統領の非難に照準を当てて、「麻薬中毒者」に注目し、麻薬中毒患者をフィリピンから無くそうとしているドゥテルテ大統領に「大型麻薬中毒者治療センターを」設立に際し、経費的支援をすることを決定したのである。

これに対してドゥテルテ大統領は「これで、誰が本当の友人で、誰が敵なのかが、はっきり分かっただろう」と話している。

◆「中露が目を光らせていることを忘れるな!」――ドゥテルテ大統領

危険を増してきたのは、ドゥテルテ大統領が、「アメリカよ、威張るんじゃないぞ! 中露がお前に目を光らせていることを忘れるなよ!」と言ったことである。

今のところ、ドゥテルテ大統領としては、アメリカとフィリピンとの軍事同盟までは撤廃しようとは思ってないようだ。

しかしそれでも、フィリピンが中露に傾き始めたとすれば、東アジア情勢は地殻変動を起こし始め、それは日本にも深い影響を与えることになる。

ドゥテルテ大統領はロシアのプーチン大統領のことも礼賛している。「プーチンが本気で決意すれば、何でもできるんだ」という発言から、それは窺い知ることができる。

中国としては、ラオスは完全に中国側についているので、カンボジアとの関係をさらに緊密なものにしようと、本日から習近平国家主席がカンボジアを訪れている。

ASEAN諸国のうち、ラオス、カンボジア、そしてフィリピンが完全に中国側についてしまえば、怖いものはないという狙いだろう。

フィリピンと中国の動きを、ふたたび注意深く観察していかなければならない。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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