年金乏しく仕事休めず 働く高齢者を襲う新型コロナウイルス
飛び抜けて高い日本の高齢者就労率
高齢者は新型コロナウイルスの重症化リスクが高いことが連日報じられている。高齢者施設での感染予防の徹底等が行われる一方で、気がかりなのが、働く高齢者の存在だ。
日本は65歳以上の高齢者の就労率が非常に高い国である(図参照)。高齢者の就労率が2〜3%にとどまるイタリアやフランスと10倍ほどの開きがあり、高齢になるほど、その傾向は顕著だ。
「高齢社会白書」(平成29年版)によれば、65歳〜69歳は450万人、70歳以上は336万人が就労しており、労働力人口に占める65歳以上の割合は年々増加している。
”生涯現役”で働きたいという人がいる一方、年金だけでは生活が立ち行かず、働かざるを得ない高齢者も少なくない。高齢者の貧困率は非常に高く、高齢単身女性では50%、高齢単身男性で25%を超える。
現役世代がテレワークや時差通勤に切り替える中、人が減ったオフィスや商業施設で、警備や清掃などに従事する高齢者の姿が目立つ。働く高齢者はまさに社会インフラの一部となっており、彼ら・彼女らがいなければまわっていかないところにまで来ている。
新型コロナウイルスに対してリスクが高い働く高齢者こそ、所得保障をし、優先的に休んでもらう仕組みをつくるべきではないのか? そんな思いから働く高齢者に話を聞いた。
年金足らず、働かざるを得ない
Aさん(69歳・男性)は週4日、9時〜17時まで、自宅から電車で40分ほどかかる職場で働いている。数年前に骨の難病を患ってからは、常に痛みがある状態だという。
「毎月の医療費だけでも2万5千円程度かかります。さらに悪いことに、昨年の台風で自宅が床上浸水したため、修繕に500万円ほど必要になりました。年金だけではとても生活していかれません」
脱サラして小売店を経営してきたが、10年ほど前に閉店。その後も休みなく働き続けてきた。
現在は大規模団地の管理業務を担当している。パソコンを使った事務作業のほか、団地内を歩き、駐車場や街灯などの設備管理を行う。共用スペースの蛍光灯が切れていたら取り替えるなど、体を使う仕事も多い。
「職場では私よりも高齢の人が多く働いています。病気や疾患を抱えた人もいますが、入院してもまたすぐに復帰してくる人もいる。それぞれに厳しい現実があるのだと思います」
新型コロナウイルスへの感染リスクが高まる中、「仕事を休めるならば休みたい」と考えているのではとAさんに水を向けると意外な答えが返ってきた。
「体の痛みは常にあるので、家にいるよりも外で働いている方が気が紛れるんです。職場に来れば仲間もいて、仕事に張り合いもある。何よりつらいと感じるのは選択肢がない状況です。この年齢まで働かなければ生きていかれない、老後の生き方を自由に選べないことがきつい。年金はどんどん引き下げられていき、2000万円貯めておけと言われる状況に憤りを感じています」
辞めたら再就職は不可能
Bさん(75歳・女性)は保育士として週3日保育園に勤務している。
保育士歴50年、現在の園でも15年以上働いているBさんは、インフルエンザや体調を崩した子どもの扱いにも慣れており、コロナウイルス対応によって負担が増えたとは特に感じていないという。
Bさんは40年以上厚生年金に加入してきたものの、賃金が低かったため、現在受け取れる年金額は月10万円ほどだ。保育士としての賃金が途絶えると切り詰めた生活を強いられることになる。
「この年まで働き続けてきたのは収入のこともありますが、それ以上に働きがいや生きがいの部分が大きい。保育園くらいの小さな子どもたちは、実際にやってみないとわからないことが多いんです。縄跳びをするなら一緒に飛ばないとダメでしょう。今、私は妊娠中の保育士と組んでいるので、彼女の分も子どもたちと飛んだり跳ねたりしているんですよ」と笑う。
定時制高校に通い、働きながら資格を取ったというBさんにとって、保育士はまさに天職なのだろう。そんなBさんが今不安なのは、もし”人生最後”と決めていた今の仕事を辞めた場合、次の仕事はもう得られないことだという。
現金給付による生活保障と復職希望者への支援も
この先、新型コロナウイルスのリスクを考慮し、高齢者の就労等を規制する動きが出てきた場合、非正規雇用で働く高齢者は仕事を失いかねない。
働く高齢者の7割以上が非正規で働いており、大半はテレワークなどに馴染みのない職種である。年齢を考慮すれば、新型コロナウイルスが収束した後の就職は困難であることが予想される。
高齢者にとって新型コロナウイルスのリスクが高いことは事実だ。糖尿病や高血圧などの基礎疾患がある高齢者も多いことからも、リスクがあっても働かざるを得ない高齢者に対する保障(所得保障や年金増額などによる現金給付)を優先していく必要があるだろう。
一方で働くことが生きがいに繋がっている高齢者も少なくない。リスクが高いから退職、ではなく、休職制度などにより、”人生最後”と決めた仕事に復帰できるよう、制度を整えるべきであると考える。