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更年期世代も抱える「生理の貧困」 支援から見えた女性困窮の実態

飯島裕子ノンフィクションライター

先ごろ発表された厚労省の調査では、1割弱の女性が「生理用品の購入や入手に苦労したことがある」と回答しているが、自治体による生理用品の無償提供等の支援を受けた人は2割弱にとどまっていることが明らかになった。

当事者に届かない現実をどう見るか? 

また生理用品を買えない女性たちは、食費や生活費にも事欠く状態であることが想像され、生理用品配布にとどまらない踏み込んだ支援が必要な場合も少なくない。

「生理の貧困」の根っこにある女性の経済的貧困を解決するために何ができるのか? 女性たちの声とともに考えていく。

瞬く間に拡散した「生理の貧困」

経済的理由から生理用品が買えない「生理の貧困」について広く知られるようになって1年あまり(※1)。

この間、多くの地方自治体では必要な人に生理用品を配布する取り組みを実施したほか、政府も予算を計上するなど、積極的な対策を行っている。昨秋の衆議院選挙では多くの政党が選挙公約に「生理の貧困」対策を挙げるなど、その社会的認知は瞬く間に広がり、必要な取り組みが迅速に行われた印象がある。

また生理用品が買えないのは経済的な理由にとどまらず、特に10代では、親からネグレクトされていて入手できない、父子家庭で父親に生理のことは言いづらいなどさまざまな背景があることも明らかになっていった。

「生理の貧困」という言葉が拡散したことで、生理についてSNS等で発信したり、他人に語りやすくなったこともこの間の成果と言えるだろう。

一方、生理用ナプキンを配布したが、取りに来た人が想定よりもずっと少なかったという自治体も多く(※2)、本当に必要な人に届いているのかといった問題も出てきている。

全国の581の自治体(※3)が生理用品の配布を実施。日時を決めて、職員が直接手渡したところが多かったが、「生理用品をください」と言うことにハードルを感じるという声を受け、意思表示カードを見せる方式やトイレに生理用品を配置する自治体もあった。

手渡しの場合、必要に応じてさらなる支援に結びつく可能性もあるが、トイレでの配布では、当事者の置かれた状況もニーズもわからない。ひどく困窮しており、受け取りに行く経済的、時間的余裕すらないという人もいるだろう。

コロナ禍で失業し再就職したものの、大幅に収入が減ったという30代前半のシングル女性は、「経済的に厳しい状態なので、無償配布はありがたい」とした上で、「本音を言えばお米など出費がかさむ必需品のほうが助かる。生理用品だけを我慢しているわけではないので……」と話す。

彼女が住んでいる自治体でも生理用品の配布が行われていたが、わざわざ取りには行かなかった。

また今回、生理用品の配布にあたり最も多かったのは、災害用の備蓄品を利用した自治体であった。毎年備蓄を放出することはできないため、今後の継続にも疑問が残る。

「生理」を通して女性の貧困問題に目が向けられたことは意義がある一方、生活に困窮する当事者が最も必要とする支援を届けられているのかは、精査が必要だろう。最近、横浜市で行われた取り組みとそこで集められた当事者の声から考えていくことにする。

自分のことはあとまわし。生理以外も「貧困」

横浜市では、昨年末から今年にかけて、生活に困窮する女性を対象に生理用の吸水ショーツを無償で送付する取り組みが行われた。

実施したのは横浜市男女共同参画推進協会と横浜市社会福祉協議会。2団体が連携して寄附を集め、市内在住の女性約500人が受け取った。2団体は昨年の国際女性デーにも、経済的に困窮する一人暮らしの女性に対してお米券を配布する食支援の取り組みを行っている。

吸水ショーツ配布について、横浜市男女参画推進協会の石山亜紀子さんは次のように話す。

「食支援に続き、コロナ禍で困窮する女性たちに何が必要か話し合いを重ねた結果、今回は社会的認知が広がっている『生理の貧困』に取り組むことに決めました。持続可能性という点から繰り返し使える生理用吸水ショーツを女性起業家の協力を得て配布したのです」

今回の配布では、出向かなくてもいいよう商品を自宅へ発送するとともに、当事者の状況を聞くためのアンケートを実施することにした。

「『配布して終わり』では意味がないと思い、アンケートを取っています。困窮に直面している女性たちの声を集め、社会に伝えていくとともに具体的な支援活動に繋げていきたい」(横浜市社会福祉協議会 美戸孝紀さん)

フェムテックブランドRinē(リネ)が開発した生理用吸水ショーツが提供された(横浜市男女参画推進協会提供)
フェムテックブランドRinē(リネ)が開発した生理用吸水ショーツが提供された(横浜市男女参画推進協会提供)

アンケートはオンラインで回答する仕組みで、441人から回答が得られた。本人の年収は「0~50万円未満」が4割、「50万円~100万円未満」が2割を占め、半数以上が100万円未満であった(※4)。また4割が「非正規雇用」、3割弱が「無職」。また全体の6割が「母子世帯(本人と子)」であることから、生活状況が厳しいことがうかがえる。

生理用品の購入について、8割以上が「苦労したことがある」と回答。生理用品を購入しない/できない理由として、「自分しか使わない生理用品は買いづらい」「子どもの学用品や洋服等、見た目で差がつくところが優先」といった声が多くあげられた。家計が逼迫する中、女性たちが自分の体のことをあとまわしにしている現実が浮かび上がる。

「現在生活の中で困っていること」については、「お金・家計のこと」が89%、「仕事のこと」が51%、「子どものこと」47%、「病気や体調のこと」43%と続く。複数回答が可能だったが、20代<30代<40代と年齢が上がるほど、複数項目に対して「困っている」と答えていることも明らかになった。

「横浜市の生理用品ギフト・アンケートによるコロナ下 女性の困りごと調査報告書」横浜市男女共同参画推進協会発行 https://www.women.city.yokohama.jp/m/16861/ 
「横浜市の生理用品ギフト・アンケートによるコロナ下 女性の困りごと調査報告書」横浜市男女共同参画推進協会発行 https://www.women.city.yokohama.jp/m/16861/ 

こうした結果からも生理用品「だけ」が買えないのではなく、食料品を含む生活必需品も満足に購入できない状況にある人が少なくないことがわかる。

また「仕事のこと」に関する具体的記述からは、多くの人が就業によって現状を変えようと考えているが、「体調が悪く働けない」「コロナで職を失い、次の仕事も見つからない」「非正規雇用のため賃金が低い」など、現状から抜け出すための見通しが立たない状況にあることがうかがえる。

今回の企画については感謝する声が圧倒的だが、生理用品のみならず、食料や下着、マスクや消毒薬など生活必需品のサポートがあるといいという声に加え、学費補助や生活保護に至る前の段階で利用できる金銭援助など、制度にまで踏み込んだ支援が必要との声もあった。

更年期世代が抱える”生理の貧困”

アンケート結果として意外に感じたのが、回答した女性の年代だ。4割を40代が、3割を30代が占め、20代と50代はそれぞれ1割ほどだった。

「横浜市の生理用品ギフト・アンケートによるコロナ下 女性の困りごと調査報告書」横浜市男女共同参画推進協会発行 https://www.women.city.yokohama.jp/m/16861/ 
「横浜市の生理用品ギフト・アンケートによるコロナ下 女性の困りごと調査報告書」横浜市男女共同参画推進協会発行 https://www.women.city.yokohama.jp/m/16861/ 

またアンケートでは「婦人科系の不調」についても尋ねており、不調があると答えた170人のうち、半数以上が「婦人科医に相談している」とする一方、2割弱が「どこにも誰にも相談していない」と回答。理由として経済的、時間的余裕がないというものに加え、「相談先がわからない」「恥ずかしい」といった回答もあった。

「横浜市の生理用品ギフト・アンケートによるコロナ下 女性の困りごと調査報告書」横浜市男女共同参画推進協会発行 https://www.women.city.yokohama.jp/m/16861/ 
「横浜市の生理用品ギフト・アンケートによるコロナ下 女性の困りごと調査報告書」横浜市男女共同参画推進協会発行 https://www.women.city.yokohama.jp/m/16861/ 

特に婦人科系の悩みに関する具体的記述が多かったのは40代の女性であり、更年期に差し掛かることで不調を抱えている人が少なくないことも明らかになった。具体的には「経血量が増え、ナプキンが大量に必要」「不正出血が続き、痛みを感じることが増えた」など月経困難や体調不良を抱えている人が多いことがわかる。また子宮筋腫等の婦人科系の疾患のため、「日常的に生理用ナプキンが必要な状況で困っている」という声もあった。

私が直接話を聞いた50代前半の女性は更年期のせいか、生理中に体調不良になることが増えたという。

「仕事をするのがかなりしんどい時もあります。派遣社員で有休が少ないので、生理休暇を申請したいのですが言いづらい。男性上司から『まだ生理あったの?』というような目で見られそうな気がして……」

「生理の貧困」が広く知られるきっかけになったのが、SNS上での「#生理の貧困」や若者へのアンケート調査であったことなどから、「生理の貧困」=若年層の問題と認識されがちだが、中年層においても深刻な問題であるということが明らかになったと言えるだろう。

「女性支援やってる感」で終わらせないために

初めて「生理の貧困」という言葉を聞いた時、どこか違和感があった。対象となるのは閉経前の女性であり、同様に困窮している高齢女性はおのずと排除されるからだ。女性の貧困率は高齢になるほど高くなり、ひとり暮らしの高齢女性の2人に1人が貧困という状態が続いているのだが、その事実はほとんど知られていない。

しかし今回のアンケートで浮き彫りになったのは、若年層のみならず、更年期を迎える女性を含んだ、幅広い年代の女性たちが抱える困難であった。まさに「生理」を通して垣間見える女性の健康問題であり、それは閉経した後も続いていく。ゆえにシームレスな支援が欠かせない。

そしてもう一つ忘れてはならないのが、「生理の貧困」だけが単独で存在するわけではないという事実だ。

アンケートでも明らかなように、「生理の貧困」の後ろには女性の経済的貧困が隠れている。さらに経済的貧困に陥る背景には、女性の非正規雇用比率が高いこと、賃金が低いこと、子育てや介護を担わざるを得ず働けないことなど、ジェンダー不平等な社会がある。

女性の貧困は以前から深刻だったが、コロナ禍で女性就業者数の多い飲食・サービス業が打撃を受けたことなどから、さらなる困窮に追い込まれている人も出てきている。長引くコロナ禍で苦しむ人々のため、今後も幅広いサポートが欠かせない。

しかし厳しい言い方かもしれないが、「生理の貧困」を政策課題に入れ込むだけで、「女性支援やってる感」を出すことができる側面はないだろうか。「生理の貧困」に傾注することで、女性が貧困に陥りやすい構造やそこからこぼれ落ちる人を見落としてしまうことがあってはならない。

生理用品の配布では根本的問題は解決しない。配布は当事者の状況を知り、次なる支援につなげるきっかけに過ぎないという認識が必要だろう。

生理用品を手渡しで配布した自治体の中には、食品などを同時に提供したり、ケースワーカーらが待機して相談を行い、必要があれば生活保護制度に結びつけるなど、継続的かつ一歩踏み込んだ支援を行っているところもある。

なぜ「生理の貧困」に陥る女性が後をたたないのか、ジェンダー不平等な社会構造にも踏み込んで変えていく必要があるだろう。

(※1)「生理の貧困」は生理用品に消費税の軽減税率を求める若者グループ「#みんなの生理」や国際NGO「プラン・インターナショナル」などが実施した調査結果がメディアで報じられ、広く知られるようになったことに端を発している。「#みんなの生理」の調査(2021年2〜5月)では国内の高校、大学(大学院、専門学校含)に在籍する学生773人のうち、約2割が過去1年間で「生理用品の入手に苦労したことがある」と回答。「プラン・インターナショナル」の調査(2021年3月)では、15歳から24歳2000人のうち、「生理用品を購入できなかったり、ためらったりした」と回答した人が36%に及んでいることがわかった。

(※2)2021年7月20日時点、内閣府調べ。

(※3)京都市男女共同参画センター(ウィングス京都)が生理用ナプキンを3000パック用意し3ヶ月間配布を続けたが、実際に配布できたのは178パックにとどまる(京都新聞 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/653316)など。

(※4)年収250万円を超える場合は配布の対象外としている。

【この記事はYahoo!ニュースとの共同連携企画です】

ノンフィクションライター

東京都生まれ。大学卒業後、専門紙記者として5年間勤務。雑誌編集を経てフリーランスに。人物インタビュー、ルポルタージュを中心に『ビッグイシュー』等で取材、執筆を行っているほか、大学講師を務めている。著書に『ルポ貧困女子』(岩波新書)、『ルポ若者ホームレス』(ちくま新書)、インタビュー集に『99人の小さな転機のつくり方』(大和書房)がある。一橋大学大学院社会学研究科修士課程修了。

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