Yahoo!ニュース

シングルマザーのキャリア支援  子どもの貧困対策で企業とNPOができることがある!

赤石千衣子しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長 
画像

私が理事長を務めるシングルマザーと子どもたちの支援団体「しんぐるまざあず・ふぉーらむ」と世界最大の化粧品会社ロレアルグループ(本社:パリ)の日本法人である日本ロレアル株式会社(本社:東京都 新宿区、代表取締役社長:ジェローム ・ブリュア)が連携して始めたシングルマザーキャリア支援プログラム「未来への扉」第1期が終了した。

参加人数は30人。

私は、この講座を開講したことをほんとうによかったと思っている。

「正社員採用の機会を提供」が最大の特徴

この講座の最大の特徴は、正社員採用の機会を提供することである。

職種は、日本ロレアルの美容部員と、アデコ株式会社のスーパーバイザーである。

こうした正社員採用の機会をつくる就労支援は、日本でも初めてだろう。

さらに無料の託児ももちろんつけた。

講座にはアデコも講師を派遣し、熱心に講師を務めてもらった。

コミュニケーション講座、身だしなみ講座、パソコン講座、職場のマナー講座、応募書類の書き方などの共通講座を履修したあと、美容部員コースと事務・営業・接客コースに分かれる。

1月からは約30人の受講生は美容部員コースと事務接客営業コースに分かれ、2月末に終了した。

NPOは受講生のくらしをバックアップ

わたしたちNPO側は、この講座を開講する前、そして折り返し地点でもほぼ全員への面談をし、そして、中間地点でも面談を行った。

さらに、さまざまな就労に対するハードルとなりそうなことをお聞きし、解決のためのアドバイスし、あるときには私たちのNPOの通常の支援(食料支援、入学お祝金事業、クリスマス会、セミナー)等を紹介して利用してもらい、バックアップした。保育園の入園のアドバイスもした。いろいろな悩みもお聞きした。

受講生の変化はすごい。最初のコミュニケーション講座から笑顔が増えていき、みだしなみ講座でキレイになっていった。職場のマナー講座や応募書類や面接講座で社会常識を得た。そして、さらに何のために働くのかワークショップで考えていくことにより、一人ひとりが成長してきたことを感じる。

グループディスカッションする受講生
グループディスカッションする受講生

また採用側の視点をもってしても、受講生のシングルマザーを採用したい、という熱意を感じることができたのも収穫であった。

子どもの貧困対策は、親の所得を上げることだ

日本では子どもの貧困が社会問題となっている。

子ども食堂、学習支援が自治体の定番メニューとなってきつつある。

それはありがたい。また地域のつながりを紡ぎなおしていくためにも大切なことである。子どもたちは親が長時間労働や、うつ状態でなかなかちゃんと食べさせられない家庭もあるからだ。

しかし、根本の問題は、子どもたちの親の所得を上げていくことではないか。

日本では子どもを育てている女性の賃金が低い。

だからシングルマザーは世界的にトップクラスの就労率であるにもかかわらず、就労収入は低い。平均年間就労収入は181万円(2012年全国母子家庭等調査)であり、これに児童扶養手当など社会保障給付を加えても、経済的には厳しい。

この、収入をあげていくことなしには、子どもたちの貧困はなくならない。

私たちはまずは児童扶養手当の増額を要望し、2016年から、児童扶養手当の複数子加算が36年ぶりに増額するということになった(ご協力いただいたみなさんに本当に感謝)。これだけでも快挙である。でもこれだけでは子どもの貧困は解消しない。

就労収入を上げるのがもうひとつの課題となるのだ。

結婚出産後、専業主婦となり、離婚後再度仕事に復帰しようとした女性、シングルマザーは、専門スキルが無い限り、パート就労や派遣社員から働き始める。

子どものいる女性の賃金は子どものいる男性の賃金の39%である。

どんなに以前に働いていたときには、管理職やマネージメントをやっていたとしても、その経歴はほぼ評価されない。一から、大学生のアルバイトと同じような最低賃金の時給で働く。

950円、1000円の時給でフルタイムで働くと、月に手取り12~15万円くらいにはなるだろう。手当を加えれば子どもたちと生きていくことはできるかもしれない。

しかし、子どもの教育費を捻出することは非常に困難であり、養育費があるか、親族からの支援がなければ、長時間ダブルワークトリプルワークをして、子どもの教育費を捻出することになる。あるいは奨学金を高額に借りることになる。

長時間働けば当然健康状態も悪くなる。あるいは、子どもと一緒にいる時間はどんどんなくなっていく。

「未来への扉」は、この女性たちの、能力の再評価の場であり、能力を開発する場だった。そして、十分に受講生は成長していった。

親がポジティブになれば子どもたちも変わる

また、シングルマザーキャリア支援プログラム「未来への扉」は、もうひとつのすばらしい効果も持っていた。

受講生同志の関係がとてもよく(ほんとうに)、支え合う関係ができていることはもちろん、ママたちがポジティブに変化していくことで、子どもたちにもいい影響を与えていたのである。

3月5日、未来への扉の説明会で、ある受講生が話してくれた。

未来への扉の受講生
未来への扉の受講生

「話しかけても返事がないような年頃の息子が朝ごはんのときに、『ありがとう』というようになったんです。たぶん、わたしのほうが変わったからだと思います」

この『未来への扉』は受講生をポジティブにし、子どもたちとの関係も変えるチカラをもっている。

これから、第1期の受講生は、採用面接を受ける。

希望した全員が正社員(美容部員は1年間は契約社員)となってほしいと思っているが、何人が採用されるかはまだこれからわかる。

そして受講生全員の収入がアップし、教育費を出せるようになってほしいと思っている。

人によって異なるが、年収300万円~400万円が目標である。

シングルマザーキャリア支援プログラム「未来への扉」は第2期生を募集している。(締切3月25日) 

http://www.single-mama.com/miraihenotobira/

しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長 

NPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。当事者としてシングルマザーと子どもたちが生き生きくらせる社会をめざして活動中。社会保障審議会児童部会ひとり親家庭の支援の在り方専門委員会参考人。社会福祉士。国家資格キャリアコンサルタント。東京都ひとり親家庭の自立支援計画策定委員。全国の講演多数。著書に『ひとり親家庭』(岩波新書)、共著に『災害支援に女性の視点を』、編著に『母子家庭にカンパイ!』(現代書館)、『シングルマザー365日サポートブック』ほかがある。

赤石千衣子の最近の記事