「勢い」でメジャー初制覇を狙う怪物ブライソン・デシャンボーの強さの秘密
全米オープン2日目。ウイングドフットはスコアが伸びた初日とは打って変わって、全米オープンらしい超難セッティングへと一変した。ラフは一層深まり、グリーンは固く速くなり、そこに難しいピン位置が加わったことで、コースの難度は一気に高まった。
この日、アンダーパーで回ったのは、ブライソン・デシャンボー、松山英樹、バッバ・ワトソンのわずか3人。
そして、初日66、2日目はイーブンパーの70で回ったパトリック・リードが通算4アンダーで単独首位に立ち、69―68をマークしたデシャンボーが通算3アンダーで単独2位へ浮上。
リードと同組で回った松山は通算イーブンパーで7位タイに付け、リーダーボードの上段には楽しみな顔ぶれが揃って全米オープンらしいドキドキ感が溢れ出している。
日本人選手は今平周吾が通算5オーバー、33位タイ、石川遼が通算6オーバー、49位タイで、ともに決勝進出。アマチュアの金谷拓実は通算7オーバーで1打及ばず予選落ちとなった。
【「勢い」で戦う】
2日目の「スター」は、なんと言っても、デシャンボーだった。大半の選手が苦しむ中で、デシャンボーは2アンダーで回り切り、まだ手にしたことがないメジャー・タイトルに迫り始めた。
とはいえ、デシャンボーのスコアカードに目をやれば、ボギーとバーディーが交互に入れ替わるデコボコ状態だった。前半は3バーディー、3ボギーのイーブンパーで回り、後半も2バーディー、2ボギーで最終ホールの9番(パー5)を迎え、見事にイーグル奪取で2つ伸ばすという圧巻の締め括りだった。
好スコアをマークした好ラウンド。何がそうさせたのかと問われたデシャンボーの返答は、いかにも彼らしいものだった。
「言うべきことは1つ。必要なのは、この全米オープンでいいプレーを続けるぞという勢いだ」
難コースを相手にイーブンパーと戦う全米オープンで優勝を競い合う選手たちと言えば、険しい表情で黙々と戦うイメージだ。デシャンボーのように「勢いだ」と言い切る選手はきわめて珍しい。
だが、デシャンボーが言った「勢い」というのは、この日の彼のプレーが物語っていたように、「落としても奪い返すぞ」という執念、コースがどんなに難しくても「スコアを伸ばすぞ」という向上心、そして「勝つぞ」という渇望のことを総称して、彼なりに表現したものなのだろう。
執念、向上心、渇望を内に秘めて黙々と戦う選手たちが多い一方で、デシャンボーは、そうしたものをありありと漲らせて戦う。どちらも一心不乱に戦っていることに変わりはないが、両者は一見、正反対に見える。
【一方で「黙々と」努力】
「勢い」で戦うデシャンボーは、眺めていてもワクワクさせられて楽しい。しかし、一方で彼は、人々から見えないところでは、涙ぐましいほどの研究と工夫と努力を積んでいる。その陰の努力を積む様子は、むしろ「黙々」という印象を受ける。
米ツアーにデビューしたころから、パット下手を痛感していたデシャンボーは、自分なりの分析と練習で、あの機械のようなユニークな構えやストロークを身に付け、今ではパットが彼の大きな武器になっている。
飛距離を伸ばすために大幅な肉体改造に取り組み、コロナ禍を経てツアーが再開されたとき、別人のように筋肉隆々になって登場し、360ヤード、370ヤードをかっ飛ばして、人々を驚かせたことは周知の通りだ。
そうやって、ドライバーとパター、飛距離とスコアリング。その両方を伸ばすための努力をデシャンボーは黙々と重ね続けてきた。
先月(8月)は全米プロで4位タイになったが、その後のプレーオフ3試合では予選落ちや下位にとどまり、気持ちはすっかり沈んだ。
だが、自身を鼓舞し、このウイングドフットにやってきた。ジャスティン・トーマスから2打差の3位タイで発進した初日のラウンド後は、ウエッジを調整するなど、さらなる駒かな工夫や努力に余念がない。
「今、僕の自信は最高レベルだ。ドライバーは上手く打てているし、アイアンショットも素晴らしい。ウエッジは日に日にベターになっている。パターはいけるぞと感じている」
米ツアー通算6勝の実力がありながら、メジャー未勝利なのは、感情の起伏がありすぎて集中が途切れるからだと自己分析。
「もっと我慢強くなろうと、毎日、『忍耐』に取り組んでいる。ラウンド中、メンタル面が乱れそうになったら、より深く長く深呼吸して集中力を取り戻す」
そうやって人知れず、黙々と陰の努力を積み、ひとたびコースに出たら、とりわけ全米オープンでは「勢い」で戦う。残るは決勝2日間。そんなデシャンボーのメジャー初優勝が今度こそ見られそうな予感がする。